100 結言

──無知のヴェールって、知ってる?


 花房さくらからの通知に携帯が震えて画面が明るくなる。

 辻村美緒は台本を片手に、ロックを解除した。


「無知のヴェール?」


──先入観を取り除こうって話

──清楚系はあたしに似合わないって?


 美緒は台本を一瞥して、むすっとした表情で素早く文字を打ち込んでいく。苛立ちからか心が乱れているのか、フリック入力は誤字だらけだった。


──みんなの話だよ。みおはギャルのヴェールだね


 あはは、と笑い声が聞こえてくる。

 実際には聞こえていない声に苛立ちをつのらせて美緒は返信を打ち込んだ。


──だったらあんたは?

──偶像のヴェール

──偶像?

──みおも、わたしも、ほたるも、須田夢も。もちろん、まなかとか今の『ポップエナジー』のみんなにも言えること


 美緒はトーク画面を閉じて検索エンジンに文字を入力する。


「えっと……ぐう、ぞう?」


 まるで神仏のように崇拝すうはいの対象となるもの。

 ページの一番の上にはそう表示されていた。

 なるほど、と美緒は思った。アイドルからはじまって芸能人は、偶像集団だ。固定概念を売りつけてキャラクターとして君臨する。


──無知って言う名のヴェールを通して見ると先入観を消して平等に見ることができる。じゃあ、偶像のヴェールっていうのは?


 メディア一つで世の人々に偶像のヴェールをかけていくのだ。


──わたしたちは捕らわれてるんだよ。ヴェールにね


 美緒はさくらの妙に感傷的な文面に鼻で笑う。


「上等。それで夢を見せるのがあたしたちなんだから」


 美緒は既読だけをつけて、台本に目を戻した。

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