第4話触らぬ魔族に祟りなし


話題を元に戻す様にデスロードの話に戻した。


封印すれば良いと結論は出たけど、その封印どうやってするか?



対策が纏まらず、ひとまず魔王討伐はお預けになった。


「まだ伝えたいことありますぅ。」


ミウが真剣な表情で、目に企みの火を宿した。


「まだあるんかい! 伝えたいってことはなに?」


俺は口を大きく開けてから、彼女に聞いた。

それは、驚きと共に何を言うのかミウの一挙手一投足が気になった。


「借家の窓の外を見てください。」


彼女が窓を指差し、俺はその方向に首を動かす。晴れた空があるだけだ。


「見たけど何かあるん?」


首を傾げ、ミウに視線を戻して質問した。

「何もないですん。」


彼女がぽつり平然と呟いた。

一瞬頭が真っ白になった。

「おい! さっきもしたよね? このやり取り!」


少し怒りの感情を込めて言った。手に力が入ったが、彼女に当たる気は無いので、すぐに手を開いた。


「なんなの、そのギャグ。」


椅子から俺は立ち上がり、ミウに少し詰め寄る。空気が乾燥して、喉が渇く。


「ギャグじゃないです。

何もないですが、アキラは3回目言われたら外の景色見ませんよね?」


ミウが腰に左手をやり、右手を掲げて動かしながら真剣に語る。


「ああ、見ないねまたかと。」


咳払いをして、顎に手をやる。


「けど、3回目言われて何かあれば?

アキラは3回目見逃すことになりますよね?」


彼女に何か試されているのだろうか?

悪戯なのか、それとも本当に何か伝えたいことがあるのだろうか?


表情はポーカーフェイスで、読み取れなかった。


「なんだよ? 

なんの実験だよ?」


頭を掻きながら混乱してきたので、落ち着かせる様に床下に視線を送る。


「その質問に答える前に教えてください。私がお願いすれば3回目でも宿屋の窓の外見ますか?」



「なんだよ、ホラー?

一体俺になにを伝えたいの?」


ミウの挙動が異常に思えてきた。心臓がドクドクと早鐘を打つのが自分でもはっきりと感じる。


彼女が何か怪しい魔物に取り憑かれているのではないかと不安がよぎった。


「逆に何故見ないんですか? 別に損はしないのに。」

ミウが質問を繰り返した。



「そりゃ見る時間を損するだろ?」


フッと俺は一旦ため息を吐いた。


「いえアキラが見ないのは、騙されることに腹を立てるからですぅ、違いますか?」



「1回目、2回目は、私が何もないって言葉は信じましたよね?」

ミウが続けて言った。


「信じたよ。」

頷いて答えた。


「なのに何故、3回目は信じないんですか?」


指を3本立ててミウが質問してきた。


「また騙そうとしたと思うからだよ。」


俺は首を振り、彼女が何が言いたいのか探る様に、目を見つめた。


「つまり先入観が植え付けられんですよね?」


俺の顔を見つめ、いつものミウとは違ったしっかりとした口調だった。


いつもこんな感じだったら、男子にモテモテだろうなと、彼女に凛々しさすら覚えた。


「まぁ‥な。」


腹立ちより、気まずさを覚え頬を掻いた。

それだけミウに緊張してしまった。


「それはつまり、敵に何度も嘘をついて真相を話しても、信じて貰えないって事です。」


核心に近づいてきたのだろうか?

彼女が人差し指を振りながら得意気に話した。


「と言うと?」


話を促す様に聞いた。


「窓の外を見て下さい、私の仲間がいますって言うと、1回目は信じますが、2回目も信じるかも。でも3回目だと?」


俺とミウは同時に窓の外を見る。

近くに彼女の体温を感じるかの様に錯覚するほど、顔が近づいている。


「信じないだろうね。」


彼女の言葉を補足する様に言った。


「そうですぅ! つまり敵の攻撃何度も喰らっても、効かないアピールすれば信じてしまうんですぅ。


意味が通じて良かった、安心したと言う様にミウが微笑んだ。


「効いていても何度もされたら、信じてしまう。先入観の恐ろしいところですん。」


「どういうこと?」


「一度、2度は自分の力を信じて技を使っても、何度も効かないアピールをすれば、使って来なくなるという、必殺技です。」


「凄い必殺技だとは思うけど、何故急にそんなこと言うんだよ?」

ミウの心理が俺には読めなかった。


「自分の技を信じることの大切さと、デスロードに触れると死ぬ技を3回効かないとアピールすれば使ってこない。つまり倒せるんじゃないかと。」


「だけど触れたら死ぬんだぞ?」



「直接触られたと誤認させれば良いんです。そして隙を見て弓矢で刺す。どうですか?」



「駄目だ、危険過ぎる! ミウの戦略で倒せるかもしれない、多分スキルを使って欺くんだろうけど、そんな危ないことはさせない。」


そんな無茶俺はさせられないと、保護者の気持ちになったように、ミウを止める。


「そうね、その戦略かなりリスク高いわね。」


レイナが目を見開いて言った。


「レイナいたのぉ? ステルス使ってるのかと思ったぁ!」


こいつ! レイナ弄りよった! 俺は心で叫び、笑わないように口元を抑えた。


「いるわよ! ねぇアキラこの子殺して良い?」


俺はもう抑えられず笑う声が漏れ、レイナが背中を思いっきり叩いた。


「ふぅ、ちなみにそれって認知バイアスってやつよね? 人間の思考の癖、判断の歪みのこと。」


レイナがため息を吐き、冷静に言った。


「なんだそりゃ? よく知ってるね?」


「心理学の本でちょっと読んで、ミウの説明はそれだと思う。」



「他にも、レイナに回復呪文を使ってるのをバレないようにして、効いてないアピール、かなり有効だと思いますぅ。」


そのやり方は、デスロード以外にも使えるということか。

しかし、魔族特に魔王の幹部は、他のクラスメイトにある程度任せた方が安全だろう。


そう考えたのは、いくら強くなったと言っても、仲間達の誰かがやられる…そんな事起きてほしく無いからだ。


「駄目! 触らぬ魔族に祟りなしだ!」

俺はこの話はお終いにしようと伝え、ギルドに向かうことにした。



ギルド行く前に窓開けて、外見て下さい。

実は窓にあるんです。仕掛けが!


まだいうか! 俺は渋々窓を開けて外を見た。


うわっ〜なんだこれわぁ!


引っかかったぁ! 蜘蛛の巣ですぅ!

無邪気なミウの声が聞こえてきた。


俺は必死に蜘蛛の巣を振り払い、ミウの名前を叫んだ。


レイナが手を叩いて笑っていた。


「油断は禁物ですん。」


「全く…こんな事やられてたら、仮面つけなきゃいけなくなるだろ?」


「そしたら仮面舞踏会にすぐ行けますね。」


「行かねーよ!」


俺は呆れながら言う。それにしても、めっちゃポジティブだなこいつ!


「アハハ、ミウにはほんと困るわねー!

でもそこがミウの良いところね。」



「まぁ、レイナの言うことにも一理あるけど、だいたい油断禁物って、ミウのこと信じたからやられたんだ!」


「信用を裏切った!」


悲し身を込めてミウを攻める様に言った。


「良かったですぅ、すぐに信用しちゃう人じゃなくなりました〜。おめでとうですん。」


拍手してミウがニヤッと微笑む。


「もう、ミウやめて腹が捩れる!」


お腹を抱えてレイナが涙を流しながら爆笑していた。

それを見て、俺は口を尖らせた。


「俺の純粋な気持ちを弄んだ!」


純粋でも賢くあれば良いのですぅ。そもそもアキラは大袈裟ですぅ。


ミウの言うことだから信じたんだぞ!


嘘はついてないですん。仕掛けがあるって言いました!


「あ…確かに。」


罠にかけられたけど、実際嘘はついてないのか。


仕掛けがあるって言ったから入念に調べれば良かった…完全に信じたと言うより半信半疑ではあった。つまり自分の責任でもあるか。


ふっ、まるで心理戦みたいだ。


「一本取られたわね、アキラ。」


レイナが、上目遣いで言う。


「はぁ、もうギルド行く。」


そう言って俺は借家を後にした。


が…ギルドに着くと改修工事中の為やっていなかった。


とんだ誤算だった。

みんなの張り切った表情が、険しくなった。


…仕方なく俺達は、借家に帰って行った。

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