旅路

学生作家志望

人生の花

ただ1人歩き続けるこの旅は私が死ぬまで終わらない。孤独に打ちひしがれようとも私はもう1人で死ぬと決めたのだ。


風まかせの旅、地図なんて紙きれはとっくに捨ててしまったさ。人から貰ったものなんて信じれるわけがないだろう、だから捨てたんだ。


私は1人で国を旅する、自由奔放なはじめという名前のついた足の弱いジジイである。


今年でもう75になるこの足の弱さでは徒歩で旅をすることなど自殺行為。しかし私が生まれる遥か昔の人々がやってきた徒歩での旅こそ私が死ぬまでにやりたい大きな夢だったのだ。


この地図のない旅の中で遥か昔の人々は歩いて歩いて道の途中で死んでいったという。私もこの旅の中で途中で死んでいきたい。儚くなんてない誰にも悲しまれずひっそりと死ぬ、それが私の目標だ。



「こっちに行った方がいいですよ!」



ただ、私と昔の人々が違うことが一つだけある。それは同じ旅路を歩く仲間がいないこと。


私はここまで誰の助けも受けずに歩いてきた。それはこの旅の中だけでなくこの75年間の人生でもだった。


親は私を産んで食料もまともに与えずにどこか遠い場所へ逃げてしまった。戦争だって経験した。何度も知らない外国の人に殺されそうになった、そのため死というのを軽く見るようになったんだ。


なんというか歩く場所、道全てに死体が転がっていると死を身近に感じるようになったのかな。だから今だって簡単に死のうとしてるのさ。


人生に悔いなんてない、もう誰も信じられないし愛したことも愛することもこれから出来ないはずだから。


ならばいっそのことこの道の途中でひっそりと死にたい。


私にはもう未来なんてない。



「あのー?どうされたんですか?こんな場所にいらっしゃって………」



声が聞こえてやっとその存在に気付いた私は突然前に現れた少年に驚いて声を出した。



「おっ、、」



「この山の中にまさか人が来るなんて思いませんでしたから驚きましたよ。しかも徒歩でここまで、すごいですね。」



「…………」



喋らない、しゃべらない。怖いんじゃない、誰も信じちゃいけない。


さっきまで吹いていた心地よい風が突然音を立てることなく止まった。


「疑ったような目………僕は別に何もしませんよ。むしろ嬉しいんです、こんな誰もいない場所にいらしてくれる人がいて。」



私が体の向きを逆にして歩き出そうとすると風が前からやってきて私を止めるように抵抗してきた。



「あのっ!まだ待ってください、お願いします。どうか少しだけお話を。」



「っ、なんで!なんで、わしと話すのの何がいいんだ。何もわかっていないだろ、お前のような若者。」



まただ、また言ってしまった。こんなこと言うつもりなんてなかったのに。なんで私はいつもこうやって自分のいらないプライドにばかり縛られて行動をする………


人を信じれない気持ち、怖い気持ちがあるならそれを正直に話せばいい、私が若い頃から何度も解決方法としてこれが浮かんだのに。浮かんでから何十年も経って、老いた今ですらまだそれが行動に移せていない。


だから人が私から離れていくのに。



「僕はあなたと話したいんです。人と話したい、もっともっとみんなと仲良くなりたい。それでも、僕はずっと1人………あなたの気持ちは何もわかってあげられないけど僕の気持ちがわかる、自分の気持ちだけでそれは十分じゃないですか?」



「………」



「僕が住むこの山には廃校寸前の学校があります、たった1人、僕が通っています。親は毎日夜遅くまで働いて僕の寝てる時間に帰ってくる。それまでずっと1人、ずっとです。」

「毎日、毎日、会話なんてほとんどないひとりぼっち。こんな僕にやっと今日話し相手が出来たんだ………」



少年は小さな目をうるうると光らせて今にも泣きそうな表情をしている。


「辛いって気持ちをずっと僕は隠して、吐く場所もなくて。だからありがとう、こんな場所に来てくれて。」


大人かと最初は勘違いしたくらいの礼儀の正しさ。なんとしっかりしている子供だ。でも本当はこんなことを考えて、限界だったのだろうな。



「わしはこの山も降りて歩いていかなきゃいけない。さっきはあんな酷いことを言ってすまなかったの、本当はわしも人と話したかった。ただ、わしにも色々あってな。人が信じれなかったんじゃ。」



「え、なんで?なんでこんな山の中通ってまたさらに歩かなきゃいけないの?」



「わしの夢じゃ、こうやって死んでいくのがな。」



「死んじゃうの?ダメだよ絶対、ダメ!」



「ダメ、、」



「悲しいよもったいないよみんな泣いちゃうよ。」



「わしの死を悲しんでくれる人なんて誰もいないんじゃ。孤独だから」



「そうじゃないよっ!!誰かが悲しむとかどうとか、大切なのはそこじゃないと思う。どんなに年老いても死ぬようなことを前提で生きてちゃダメだよ、」

「僕には何も言えることじゃないけど、気持ちはわかんないけど、でも先生言ってたよ。どんな時も生きるのをやめちゃいけないって、諦めちゃいけないよ!」



「わしは………」



「誰かに悲しんでもらえることがその人の人生の花じゃない。自分が本当に満足したと思える人生を送れたってそう確信出来た時こそがその人の人生の花だって、先生が言ってた。」

「まあ、僕もよくわかってないけど………でもとにかく死ぬことなんて考えないでほしい、だってそうじゃないと僕がまた1人になっちゃうもん。」



「そろそろわしは行かなきゃいけない、すまんな。」



穏やかな優しい風が静かに音を立てず私の背中を押してくれた。それと共に私が少年に背中を向けて歩き出した。



「おじさん………またね!疲れたらまたここに来てお話ししよ!いつまでも待ってるから!」



昔の人々は地図に一本の線を引いて後戻りのない旅をしたという。


しかし私の旅に地図などない、決まったルートなどないのである。


私の旅は死ぬまで永遠に続く、風まかせの旅。


いつかまたあの少年の場所へきっと風が運んでくれることだろう。


そうなった時、私は今度こそ全てを正直に話せるだろうか。いや、話してみせる。私の孤独を全て吐いてみせよう。


今日にでも死のうと思ってた人生に一つの花が咲いた、そんな気がした一日である。


また明日も頑張ろうか。

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