第12話 彼女の後ろ姿を見つめていると

 午後の授業中。机にノートや教科書を広げている啓介は悩んでいた。

 今日は朝から色々なことがあり、悩むことが多々あったのだ。


 一応、月見里莉子つきみさと/りこが誰かと付き合っているという疑いは晴れた。

 ただ、彼女のすべてを知っているわけではなく、本当に莉子が自分の為だけに付き合ってくれているかは謎だ。


 ビッチだという噂は耳にするものの、実のところ本当の浮気現場を目撃した事などなかった。


 本当にビッチなのかな?


 難波啓介なんば/けいすけは授業中、斜め右前の席の莉子の後ろ姿を眺めていた。


 どう考えても、彼女が大胆にも如何わしい事をする子には見えないのだ。


 この前はキスを要求してきたり、とんでもない事態に発展しかけた事はあったが、あからさまに世間で言うビッチではないような気がした。


 そもそも、莉子は成績優秀で、テストの点数も全教科九〇点以上を叩きだすほどの学力の持ち主なのだ。


 規律を乱すような言動もなく、クラスメイトらとも普通の人間関係を築いている。


 んー……。


 啓介は莉子の後ろ姿ばかり見ていた。


「おい!」

「……」

「聞いてるのか? 難波!」

「……え? な、なんですか?」


 啓介が声する方へ慌てて視線を向けると、教室の壇上前に佇んでいる男性教師から睨まれている事に気づいたのだ。


 啓介が慌てていた事で、クラスの陽キャらが笑っていた。


 物凄く気恥ずかしくなる。


「さっきから話しかけてるんだが。何を考えてたんだ」

「え、えっと……」


 先生に対し、莉子の事ばかり考えていたとは言えなかった。


「まあ、いい。今やっている教科書のページのところを読んでみろ」


 え?

 ページ?

 何ページだっけ。


 啓介は席に座ったまま、赤色の表紙の国語のページを焦ってめくる。

 すると、斜め右前にいる莉子が振り返り、小声で四十九ページと言っていた。


 啓介は声を出さずに、彼女に会釈して感謝の意を伝えていた。


 心を宥め、その場に立ち上がると、ページに書かれている文字を一行目から読み始めたのだった。

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