第8話 もう少し俺に勇気があったら

 朝からの身だしなみ検査を終え、啓介けいすけは教室内にいた。

 まだ、朝のHRが始まるような時間帯ではなく、後五分くらいの時間があった。


 啓介は普段通りに一人で席に座り、何となくスマホを見て過ごしている。

 今のところ莉子りこは教室にはいなかった。


 啓介は何となく窓から見える景色を眺めていると、まだ校門のところで生徒会役員らが身だしなみの検査に勤しんでいる。


 特に副生徒会長の玲美れみは役員の中でもかなり厳しい方であり、やるといったからには最後までやりきる人なのだ。

 真面目なのはいいのだが、結構他の人からは少々引かれているところもあった。


「……」


 啓介は窓から玲美の姿を見やる。


 さっき副生徒会長の玲美に彼女がいるという発言をしても信じてもらえなかった。

 元から一人で行動する事が多く、殆ど彼女ができなかった事もあってか、理解されないのも無理はないだろう。

 今もこうして教室内では一人で過ごしているからだ。


 もう少し他人に話しかけられる勇気があったのなら、もう少し状況が違ったかもしれない。




 クラスメイトらが登校してきて、次第に教室内が騒がしくも明るくなっていく。


「というか、昨日の、この動画みたか?」

「みたみた」

「今日の放課後、カラオケに行ってさ、俺でもこういうのやらないか?」


 教室の後ろにいるクラスの陽キャが周りの仲間に対し、動画サイトで配信されている企画動画と同じ事をしたいと誘っていた。


「まあ、今日は暇だし、行くか」

「私も」

「じゃ、決まりだな」


 男女問わず陽キャというのは、簡単に人を誘ったりできるものだと逆に感心してしまう。


 自分も誰かを簡単に遊びに誘えたらいいなと思いながら、スマホを弄りつつも周りの人らの会話を聞いていた。


 そう言えば、月見里さんって今日は時間とかってあるのかな?

 ……やっぱり、一人で考え込んでいるだけなのはよくないよな。


 そう思い立ち、今日の放課後に遊べるかどうかを、後で莉子に聞いてみようと決心を固めるのだった。

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