キミがいた夏

涼宮 真代

第一章 亜希篇

この街に戻って来るとは思わなかったなぁ・・・。

10年前に引越して就職・・・まさかこの街の担当になるなんて。

でも、懐かしいな・・・このお店まだあるんだ?

そういえば、この坂の降りたところにあった喫茶店に良く立ち寄ったなぁ。

あの喫茶店で彼と待ち合わせして雑談したり本読んだりして。

クスッ・・・懐かしいな。


私の名前は黒崎 亜希27歳独身・・・某生命保険会社に就職して2年目。

この街で高校まで居たけど親の都合でいきなりの転校・・・。

あの頃は楽しかったな。


高校1年の夏ー


クラスで人気のあった男子がまさか私の彼氏になるなんて

思いもよらなかった。

突然、『オマエのこと好きだ付き合ってくれ』って。

まあ私も満更でもなかったから返事は即OKだったけど。

私もそれなりには人気あったんだけどね…。

体育の授業の時は特に・・・。


『あの女子メッチャ胸でかくね?』

『え?おお~マジだ!』

って・・・そんな人気は要らないんだけどね。


学校の帰り道に『お気に入りの喫茶店あるんだけどいかね?』って

彼が言うから同じ方向だったし行ってみることにした。

長い坂道を下って行くと見えて来たちょっとおしゃれな雰囲気のお店

レンガ作りで可愛い小窓があってコーヒーのいい香りがしてた。

『オレいつもここでコーヒー飲んでんねん!』

飲んでんねんって亨いつから大阪の人になったの?ってツッコんで

欲しかったようだけど・・・そのままスルーした。


私はここのミルクティーが好きだった。

いつも飲んでいてマスターも覚えてくれてて私が来たら

何も言わなくても出してくれた。

とおるはブラックコーヒーを当たり前のように頼んでた。


『ねえ、とおるは何でブラックなの?』

『かっこいいだろ?』

『あはは、それだけ?味わかるの?』

『ん~ぜんぜん!』


ブラックコーヒーってミルクを入れていないだけで

お砂糖が入っててもブラックコーヒーというのだと後で知った。

それを知ったとおるは『マジか!!苦いって思ってたんだよなぁ。』

『あはは、味が分からないから損したね!』

『ホントだな。』


寒い日のホットミルクティーは格別においしかった。

ある雨の日・・・亨は待ち合わせの時間に来なかった。

なにかあったのかな?と思いつつも待っていた。

すると・・・ジャージを頭から被った人が入って来た。

『いや~わりぃわりぃ・・・。』

亨だった・・・。

『な~に・・・雨予報出てたのに傘持ってこなかったの?』

『傘って邪魔じゃね?ジャージならホラすぐ被れるし。』

『ジャージは被るものじゃありません~。』

『それもそうだな。』


何で遅くなったのか聞いてみた。

そうすると亨は・・・『急に降って来たじゃん?』

『もうちょっと待ってれば止むかな~って思ってさ。』

『えーマジで?それで1時間も待たせたわけ?』


でも、待ってる時間もじつは楽しかった。

今日はどんなこと話そうかなとか考えてたり

雑誌を見てこの映画見に行きたいなとか思ったり。

何よりも彼が来てくれることが一番嬉しかった。


亨といると楽しいし落ち着く・・・。

このままずっと楽しい日々が続くんだろうなって思っていた。


ところが・・・。

突然別れは来た・・・。

『悪い別れてくれないか?別に亜希のこと嫌いなったわけじゃないんだ。』

『え…じゃあどうして?』

『となりのクラスの涼子ちゃんがさ好きなの付き合って~っていうからさ。』

『そう・・・なんだ?』

『ホントごめん!』


私は悲しいを通り越して呆れていた。

涙も出なかった。


でも、それからスグ私の転校が決まったから別れてたのかも知れないけど。

まあひと夏の淡い恋だったのかな?


ー現在・・・ー


坂を下りた・ところの・・『あれ?あの喫茶店なくなってる。』

参ったなぁ・・・先方との待ち合わせまで1時間もあるのに…。

あ、そうだ近くに公園あったよね?

あそこもよく行って話ししてたなぁ・・・。


あった~・・・ここのベンチまだあったんだ。

ポツ・・・ポツ・・・。

やだ・・・雨?傘持ってないよ・・・。

どうしよう・・・。


『よかったらどうぞ?』


急に傘を差しだされた・・・『え?でも・・・。』

『オレ、家すぐそこなんで!じゃ!』

『あ、あの・・・!!』


今の人・・・どことなく亨に似てたなぁ・・・。

居るわけないか・・・あれから何年経ったと思ってるの。

でも、そう言いながらどこかで探してる私がいる・・・。


駅前のカフェ・・・新しいの出来たんだ?

まだ時間あるし入ってみようかな。

カランカラン・・・。


『あれ?もしかして・・・亜希?』

え・・・だれこの太った男の人・・・?

『オレだよオレ・・・亨!』

ホントにいたんだ・・・でもあのころの面影ないじゃん・・・。

私を振ったあと付き合った涼子とは1カ月で別れたそうだ。

で、私は転校して居なくなってて・・・それからは

軽薄男子の称号を与えられたそうだ。


『じゃ、私はお客さんと会う約束だから。』


たぶん、もう会うことは無いだろう・・・。

というより会わなければ良かったかな?

いい思い出では無かったけどカッコイイ亨のイメージとは違い過ぎていた

やはり、初恋は良いイメージで終わりたいものだ。




亜希篇  完




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キミがいた夏 涼宮 真代 @masiro_suzumiya

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