第67話 兄弟とシュウマイですが、なにか?
たまに食べたくなる崎陽軒のシュウマイ。
美味しいかと言われるかと私は好きだと答えることが出来、横浜駅内なら何処でも売ってるのが利点だ。
「初音さん?」
「はい?」
そんなシュウマイを買おうとしたところ、知らない男性に声を掛けられた。
とりあえず無視して、
「十六個入りシュウマイをお願いします」
と会計を済ませて、
「……どちら様で?」
とりあえず、問う。
同年代にパパ活したことないのだ、私は。
見れば、それなりに整った顔。
様相は夏は半袖なのでウチの高校との違いはズボンしか無い。筋肉質な感じだ。
そのズボンも両方とも黒色だし、ポケットの付け方ぐらいしか違わない。
「えっと?」
整っている顔が戸惑いに歪む。
そんな彼の様子を観て、ニヤニヤと意地悪い笑みを浮かべてしまう私が居る。
基本的に男性をからかうのが好きなのは性分だ。
浮気は絶対しないが。
「ぇっと、君は」
「先ずは自分から名乗りなさいよ」
礼儀が成ってないと、言葉に力を籠めながら言ってやる。
「ぇっと……俺は、
この前、告白した……」
「知らない人ね」
一応、名前から元・パパ活リストの名前に照らし合わせる。
苗字から考えれば親類者にも居ないだろう。
後、告白された覚えも無い。
妹のことだろう。
「もういい?
ナンパはお断りよ」
昔の私ならお茶でも奢らせるかと考えたかもしれないが、今はシュウマイが楽しみでしょうがない。
横浜駅の各所屋上で食べるのは乙なモノだ。
「ぇっと……君は?
初音さんじゃないのか?
名乗ったから、誰か教えてくれてもいいだろ?」
「名乗る必要も無いわよ」
っと立ち去ろうとするが、前を塞がれる。
メンドクサイ。
痴漢か何かに仕立て上げようかとも思うが、妹に不利益が行く可能性を考えると、その選択肢は消えた。
「初音よ、初音。
多分、あんたの知っている初音の姉だと思うわよ」
「ぇ……ぁっ」
「制服見て他人じゃないかと、それぐらいは判断しなさいな。
もういいわね?」
狼狽える彼を置き去りにしようと行こうとするが、
「待ってくれ!」
「やだ。
いい加減にしないと痴漢だって叫ぶわよ?」
それでも追いすがってくる。
しつこい。
「あれ、
お兄ちゃんと何してるの?」
「……ん?」
聞いたことのある声だ。
観れば、海水浴場で出会った男の子、燦のことが好きな子だ。
「あら久しぶり」
頭を下げてくれたので、私も笑顔をして下げる。
小さい子と会話する機会は少ないので新鮮である。
「で、これ、あなたのお兄さん?」
「はい」
「こんな大人になったらダメよ?」
「はい」
「ちょっと待て、弟よ……」
そんな感じで突っ込みを入れてくるが、これが判らない時点で男としてダメだと思う。
「だって、列に並んでいる女子高生を他人の空似も判らずに声を掛けるようなお兄さんだからねー。
君は私の事、間違えなかったもんね?」
「はい!
酷い言われようだが、同意だ。
◆
「やっぱりシュウマイは美味しいわね?」
問いかけるように、目線を隣少し下へ。
日野弟君だ。
私の奢りの六個入りのミニサイズだが、美味しそうに食べてくれている。和む。
今居る位置は、横浜駅隣接、ベイクオーターの屋上だ。今はランタン祭りをやっており、そろそろ灯火される時間だ。
そんな所に三人並んで座っている。
「お兄ちゃん……食べる?」
「……いやいい」
勝手について来たのだから気遣わなくても良いと思うが、私も妹にはするだろうし、判らなくもない。
「仕方ないわね」
追加で買った六個入りの箱を取りだし、彼に緩い線を描く軌道で投げる。
キャッチした彼は驚いたような顔をして私を観てくるので、
「弟さんに感謝しなさいな。
食べるなら美味しく食べて欲しいから、気残りはして欲しくないの」
「……ありがとう」
毒気を抜かれたように頭を下げてくれる。
明日の朝御飯分が無くなったのは嫌だが、私の気残りにならない方が優先だ。
「何かで返してくれたらいいわよ」
あてにしてはいないが。
さておき、弟君に目線を向ける。
「さて、最近、妹……
「えっと、言いづらいんですが……なんか、最近綺麗になっているというか……いえ、元々美人さんではあるんですが、綺麗にするようになったというか……」
モジモジと恥ずかしそうにしながらも素直に述べてくれる。
お洒落を教えた効果が出ているようだ。
とはいえ、
「眼鏡で飾り気が無かった妹の時点で美人と言えるのはちゃんと観ているわね?
偉いぞー?」
「……ありがとうございます」
ちゃんと誉めてあげると、顔を赤らめてくれる弟君。
誉めると言うのは良い男を作るには重要だ。自己肯定感が上がり、自信がつくので、活動的になり、魅力も益々増すのだ。
しどー君で実証済みの理論で、頭ごなしに否定したり、甘やかしたりするだけでは為にならないのだ。
「他に、何か気づいたことある?」
「えっと、好きな人の話を聞くと、本当に幸せそうで、複雑です……」
「そればかりはね……」
本人、弟君の好意に気付いてないから、恐らく物凄いのろけて、少年心にダメージを与えている気がする。
鈍いのは罪だ。
「とはいえ、最近の
見てる分には嬉しいです」
「最近?」
「はい、前まではふとした拍子で弱気になっていたので」
初耳……、多分に私へのコンプレックスが出たりとかだろう。
そう自己解釈をしようとすると、
「クラスでは浮いてたみたいだし、それだな……」
「詳しく聞かせろ、
彼が独り言のようにこぼした言葉に私は、すかさず突っ込んだ。
「えっと、顔怖い」
「早く言え、私は妹思いなのよ」
女に言う台詞じゃないだろうとひっかかりつつ、睨み付ける。
「……まず好きな人と似た顔で睨むのは止めて欲しいよ。
えっとだな、融通が利かなかったりして生徒会を盾にしてるとか、成績を振りかざすとかで浮いてるとか話を聞いてる。
そんなことは無いのになー」
「成る程……」
真面目で、消極的な妹だ。
マジメガネなしどー君に抱いていた気持ちを思い返せば理解できる話で、妹フィルターを外せば私自身苦手意識を抱く可能性がある。
そういえば、妹は学校の話をしたがらない。
「虐めには?」
「聞いていないから、大丈夫だと。
最近は柔らかくなって、評価が改まっているみたいだし」
「……良かった」
一呼吸。
もし、妹が虐めとか聞いたら乗り込んでいたかもしれない。
「一つ答えたから逆に聞いていい?」
「……いいわよ」
私が聞いた手前、邪険にするのもあれなので発言を許す。
「初音さん、いや、あんたにとっては妹さんか、その好きな人ってどんな奴だ?」
自然な質問だ。
とはいえ、二股男……二股させている男とは言えないわけで。
「マジメガネ」
「へ?」
端的に答えすぎた気がした。
語感が良すぎるのが悪い。
「真面目で眼鏡で、正義感が強い人……常識がズレてたりするけど、ちゃんと内面を観てくれる真摯な人よ」
あそこがデカイとか、性豪だったりとか、寝ている間の寝顔が可愛いだとか、時折の真剣さにドキッとするだとかは抑えた。
ノロケる時ではない。
「
「……どうでしょうね?
何でそう思ったの?」
「だって、
おっと、子供の洞察力を侮った。
私だって恋する乙女なのだ。
「内緒よ、ふふ」
ただ、そう笑みで誤魔化しておく。
「そしたらだな……「ちなみに、私と彼をくっつけるために協力するとか言ったら、あんたの貧相なモノ握りつぶすから」……はい」
よくある
燦ちゃんがこれ以上に
「仮に私が妹と同じ人が好きでも、自分でやらないと意味無いと思うわよ。
日野君にも言い聞かせるように言うけど」
「それはどうも。
でも、先ずはライバルに勝たなきゃ意味無いと思うが。
サッカーをやってるが、フィールド出る為には周り、先輩や同輩に勝たなきゃならなかった訳で」
バツが悪くなったのか、ぶっきらぼうに返してくる日野君。
とはいえ、
「まぁ、それも一理あるわね。
で、サッカーやってんだ」
承認欲求を刺激してあげる方向に話題を切り替える。
自分の経験を話題に出した場合、否定から入ると人生の否定と捉えがちになるので、先ずは一旦、興味があるような口調でオウム返しだ。
敵にしたいわけではないので言い返すのは愚策だし、恋愛観を詰めたいわけでもないのだ。
「ぉ、興味ある?」
「あんま知らないけどね。
フィールドに出るってことは実力はあるのね?」
「まぁな」
気分を良くしたのか笑いかけてくれる。
チョロいぜ。
「君は?」
「僕はあんまり……」
日野弟君に話題を振ると、申し訳なさそうな俯きが返ってくる。
うーん、可愛い。
ショタに目覚めてしまいそうだ。
目覚めないが。
「弟は何も出来ないからな……」
もし、その日野兄が小馬鹿にしたような態度だったら、私は瞬間沸騰しただろう。
けれども、日野兄は心底心配そうな顔つきなのを観、
「……お節介なのは私と一緒ね」
私の妹への態度と被った。
何も出来ないと決め付けて、過保護にしたのは確かだ。
今もかもしれない。
姉としてと息巻いていたが、本人にとってはプレッシャーだったのはこの前の件から間違いない。
だから、少しずつ、やりたいと言われたらやらそうとも考えている訳で……
「そんなことないよー!」
そんな思考を立ちきる幼い言葉。
「お兄ちゃんが小学生の時より勉強できるもん!」
「……だったら、一人で夜中トイレに行けよ?」
「ケチ―!」
観れば小学生相手にムキになる高校生の様相を示しており、
「ふふっ」
笑みが沸いてきてしまった。
「……
「メンゴメンゴ。
難しく考えてたのが馬鹿らしくなっちゃってね?」
突然の笑い声に怪訝そうにされまので、謝罪を述べながら、
「お兄さんのこと、嫌い?」
「嫌いじゃないよー!」
そんな少年の無垢な笑顔と、妹が最近、見せてくれる表情が被り、どこか救われた気がした。
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