書いてはいけない小説

@mimatomati

第1話 探しモノ

 昔々、あの日はトイレへ逃げた。死んでくれと願ってしまったんだ、でも、悪くないと思った。罪を犯した人間が楽しめる程優しい世界じゃないんだ。なら、楽にしてあげようと思ったんだ。私と同じ者たちを助けるためにも。そう、お互いの利益のために。

 周りにいた人間は笑い転げた。皆、子供戯言だと真面目に話を聞きはしない。「分かったさ、お前は飛んだ臆病者なんだな。願うだけで実行できないんだろ?」笑いはピークに達している。

 昔々、ある店で、或いはある町で一夜にして七人を殺した人間がいた。そいつは泣いていた、泣いて悲しんでいた。そして、死体の血を飲んでどこかへ消えた。


「話は終わりだ。」酒を片手に男は少年に笑いかけた。

「その人、今どこにいるのかな?」

「さあ、 でも、続きはある。」少年は目を輝かせる。

「君の名前はなんだったか?」

「僕はアルクスだよ、」

「良い名だ。完璧だよ、本当に人生は素晴らしい。」アルクスは不思議そうな顔をしたがすぐに続きを知りたくて気に留めなかった。


 姿を消した男は何度も目撃された。然し、彼はあの事件以降人を殺しはしなかった。が、中には彼奴は人を殺し続けていると主張する人も現れ、町は彼を都市伝説の怪物とでも云うように扱い始めたのだ。そうして男の話は衰退して言ったのだが、その男は次を求めていた。誰かに見つけて欲しいと願い、狂っているのは私では無いと主張する様に、また現れると語り始めたのだ。彼は言った。さっきの話をね、そうして次は長髪を狙って語りだした。内容はこうだ。私は君の様な美しい髪の生き物と密閉された部屋に二人以上といると恐怖する。然しだね、私は君のような美しい長髪が好きなのだ。と、それを聞いた一定数の人間は彼を馬鹿にし、また彼を肯定し支持する者もできた。そうやって自分に対して興味を持たせたのだ。嘘ではない本心で。一括りに言う事はできないが、多くの女性は虜になっていただろう。そんな中、そう数年前に、その男は言ったのさ、私は私であるためにもう一人、私という存在がほしいとね。

「その証言を最後に彼はまた消えたわ。でも、特徴は変わらないのよ、主張が強くて弱い。よく泣くし、でも恐ろしく狂気的よ。」

 カウンターから顔を出した真っ赤なフィッシュテールドレスに金髪の女性は、話の最後の部分を奪うとワインを持って少年の隣に腰掛けた。

「やぁエーテル。君は相変わらず嫌いだ。」男は嬉しそうに少年の手に触れる。

「アルクス…。あんたの事気に入ってたのよ、健全に馬と鹿で」

「エーテル、唐突に悪口やめてよ。そういや二人は知り合いだっ」言いかけでエーテルはアルクスの口に人差し指を当てると、閉店の準備をしにどこかえ行ってしまった。

「エーテルってずっとあんな感じ?」

「唯一変わったところは用心深くなったかな?」少年は男の名前を知らなかったので少し悩んでから「貴方は?」と聞いた。

「主観的目線は好きじゃないんだ。」

「そっかぁ…」話がなくなり困ってきた所で男がまた口を開く。

「リベルだ。」

「リベル?もしかして名前?」

「そうさ、リベルと呼んでくれ。」リベルと名乗った男はまたも嬉しそうに微笑む。

「アルクス。私は、君が恐ろしく好きだ。」アルクスは嬉しく、そして恐怖を感じた。まるで今から食べられるような気がしたのだ。然し、アルクスの考えはある意味間違いではなかった。

「アルクス、美しいよ、君は酷く可哀想だ。私は君が欲しい。君だけでいい。」リベルが突然アルクスを押し倒すと椅子から落ちて倒れたアルクスの手を握った。

「やはり美しい。この、鈍い傷!暴れたような後、長い爪は…」リベルは突然アルクスの首を絞めた。アルクスは驚きのあまり、リベルの腕を掴む、その勢いで左手の薬指と小指の爪が折れた。薬指からは血が出ている。

「悲 のヒ   ね」リベルの耳元でエーテルが何かを囁くとリベルがいきなり手を離した。

「エーテル…!!!」苦しんでる事が分かる。アルクスは左腕に痛みを感じ、それでも、リベルが気になり右手で押さえながら頭を抱えるリベルへ近づいた。

「私は、私は…完璧だ。」リベルの首は引っ掻き痕で腫れ、指先に少し血がついていた。腕には先程爪が折れた時にできた痕が残っている。

「リベル?大丈夫、」

「アルクス、君こそ大丈夫かい?」怜悧な声がアルクスを突き刺す。アルクスは恐怖と不思議さで取り敢えずリベルに首を掻きもがくのをやめさせたくて両手で首を守るように触った。そうして右手で押さえていた部分を離した事でようやく今の状況を理解した。

 アルクスの左腕には、酷く大きな傷が斜めにできていた。血とともに傷口から良くないところまで見える。そして、リベルの指先の血はアルクスのものだと理解する。リベルの足元には小さなナイフが落ちていた。

「リベル、君はもう私だ。分かってくれるかい?私は孤独が嫌いだ。そして嫌われる事も!!!」気が気じゃないリベルは弱々しく小動物のようだった。

「リベル、ここじゃ駄目よ」エーテルはサッとナイフを取ってシンクに放る。「ベットへ行きましょ、アルクスも」淡々と話を進めていく。リベルを立たせたエーテルはリベルのネクタイを取るとアルクスを別の部屋に押し込んでリベルを何処かへ連れて行った。

 数分後、エーテルは着ていた赤いドレスを脱いで下着姿で現れた。

「アルクス、傷を見せなさい。」エーテルは長い金髪の髪を束ねると救急箱を取り出しアルクスを椅子に座らせる。エーテルの冷たい手がアルクスを驚かせてくる、アルクスは何とも言えずただ、辺りを見渡した。

「貴方と出会って五年ね、数分の会話、私好きだったのよ」エーテルは五年前の出来事を言っているようだ。

「僕、エーテルに大丈夫って言われて嬉しかったんだ。店の前にエーテルがいたら良いなって思って学校に行ってたんだよ?」

「そうだったのね、私もアルクスに出会ってから楽しかったわ」二人は懐かしい話に会話が弾み、まるでいつかの学校帰りの様な感覚に浸った。

「リベルは貴方を気に入ったのね、可哀想に、もう逃げられないわよ。この傷の通り」アルコールが染みる、血が洗われて傷口がハッキリ顔を出し、然し、アルクスは驚きもしなかった。

「深い…」「爪のが痛いや、」エーテルはきょとんとして笑う。

「根から取れてないだけマシよ、こんな浅い傷、五日もいらないわ」意地悪気に爪の傷を綿で触るのでアルクスは限界に達し泣けてきた。「弱いわね、でも、良いわ凄く良い」エーテルが治療を終えてポンッと叩く。すると、突然哀しげに呟いた。

「ごめんなさい。私が探したの、」

「何を?」

「貴方をよ、アルクスがまだ赤子のときから探していたわ。でも、時が経つにつれて、貴方がコマのように思い通りに動くから、私は少しでもリベルのお気に入りにならないように努めたの。でも、風の噂には勝てなかった。きっと貴方は本物だったのね、本物なら悪い事じゃないわ。だから、もう私は貴方をリベルと等しいモノとして見るわ」

アルクスは腕を見つめながら頷いた。

「難しくてまだ良く分からないや、でもね僕、何であの七人殺しの話を気に入ったんだろうってずっと思ってたんだ。エーテルが本物だって言ってくれるんなら、僕は生まれた時からリベルと同じ感覚を持ってたんだって納得がつくよ」

「そうね、今夜からここが貴方の居場所よ、お風呂に行ってきて、十分で上がること」気を取り直すとエーテルは意地悪にアルクスの髪をクシャクシャにした。

 橙色に灯る木製廊下を超えて西洋の綺麗な廊下につく。それから少しして真っ白なタイルのバスルームに着いた。丁度扉が開き、ぐったりしたリベルが出てきた。先程までのキッチリした服とは違い、今度は真っ赤なシルクパジャマ姿だ。

「リベル、私はそっちの方が好きよ」またもや押されてアルクスはバスルームへ入る、十分という時間制限が気になり、急いで服を脱いだ。アルクスの左腕に左足、そして、左胸には傷がいくつもあった。それをアルクスはミミズと呼び、気持ち悪がっているのだが、今日は気持ち悪いと思わなかった。


「リベル、ベットはこっちよ」エーテルはリベルを連れて先程より奥の部屋に行く。

「エーテル、今日は最高に気分が良いよ」

「それでこの状態じゃ、かの有名な殺人鬼も名だけね」大きな扉を開けて綺麗なベットまでリベルの肩を取り、毛布をめくり、パパッとリベルを寝かせ、その上から毛布をかけた。

「私はアルクスを見てくるわ、リベル、疲れてるんでしょ?過去を掘り出して悪かったわ、」エーテルが部屋を出ていく、リベルは横になると目を瞑ってうずくまった。


「アルクスー、私も入るわよ」突然裸姿での登場に気が気でなくなるアルクス。そしてアルクスを見たエーテルはいつもの飄々さを失い口がガクリと開く。

「ア、アルクス、貴方っ…」アルクスはため息交じりに恥ずかしくなってエーテルにシャワーをかけた。

「何でもないよ、コレは武器。僕だけの武器だ…」

「まさか…、いや、私のミスね、それにしても私に劣らない…」アルクスはぷいっとそっぽを向いた。

「何で入ってきたんだよ…、」

「私は両方イケる口なの、興味はないけど、まさか、あんな幼い頃から見てきたのに…料理を持ってきたわここで食べちゃいましょ、」エーテルは素早く体を洗うと約束の十分未満で湯船に置かれた机に料理を並べた。二人で向かい合う様に座るとステーキを食べながら話始める。

「アルクス、確かに女は武器よ。とてつもなく強いわ。でも、貴方は…そう!女らしいが正しいわ。」

「よけいだよ、僕が哀れに見える。」

「いいじゃない、病気でも無いんだから」

「それは…確かにって、そんな話はどうでもいいからエーテルとリベルってどんな関係なの?」話を強引に変える。

「私は、もう何年も前にリベルに心を射抜かれた。私は花と呼ばれていたの。色んな人が私を好いたわ、でも私は人間を好きにはなれなかった。だから、強引に服を脱がされた時は心底絶望したわ。でもね、その時に彼は来たの、私の名は有名だったからね、監視してたらしいわ。そんな私がピンチになって、彼は食べていたステーキのナイフで男三人を滅多刺しにしたの。三人を刺すのに体力はどれだけ使うと思う?リベルだと五日寝込んだわ。それでその三人の男は私が処理して、彼の看病もした。その期間に例の話をしたの」

「僕のこと?」

「そうよ、それで私はこれから犯されない様に守ると約束されてそれに従ったわ。だから、私は誰ともしたことが無いのよこの先もね」

「何を?」アルクスの言葉が予想外だったらしく、恥ずかしそうにステーキを食べると口いっぱいにスープを流し込み、ゴクリと鳴らした。

「兎に角、もう分かってるだろうけどリベルは例の殺人鬼よ、七人殺しのね、厳密にはもっとだけど、」

「やっぱりか、いざ目の前にしたら心配が優先しちゃった。」

「あんな、弱体化したリベルは久々ね、私もびっくり。」

「大丈夫かな?」

「大丈夫、今日のリベルは気持ちが安定していなかったのよ」

「どうして?」

「リベルは今までの私ですら分からない感覚を一人で抱えてきた。そんな時に理想が現れたのだからきっと気が抜けたのね」

「理想か…じゃあリベルはどうして人を殺したりするの?」

「彼にとって人間は由々しき存在なの。誰も助けず、皆が笑う。そんな環境で幼きを過ごしたのだから必然だったのかもね、貴方はリベルにリベルの話を聞いたでしょ?リベルは自分語りが好きよ、理由は知らないけど。リベルが自分について語っていたら殺す合図とも言えるわね、てっきりアルクスもあの時殺されるのかと思ったわ、だからあの言葉使ったし…リベルはね、眠らせてから始めの。よとても危険な方法でだけど、それから一人は生き残るようにあらかじめ息を止めておく、その人は眠ってる間に他が死ぬ事になる。いつもの形式よ」

「強いね…僕はこれからどうしたら良いのかな?」

「リベルに尽くす事ね、アルクス、貴方はもうリベルに等しいわ。分かった?」

「…うん。」

 二人はディナーを食べ終わると歯磨きをしてリベルの部屋まで向かう。アルクスはリベルに少しの恐怖を持っていた。

「戻ったわリベル。」エーテルがベットの横にある椅子に座る。リベルはまだ辛そうにうずくまっている。

「エーテル、アルクスは?」

「アルクスおいで、ご主人様がお呼びよ」アルクスは震えた手を見てマズいと思い後ろに腕を組んだ。それからリベルのところまで行くとリベルは不思議そうにアルクスを見た。

「アルクス、怖がっているのかい?」即バレて隠す事をやめる。

「怖いよ、まさか、殺人鬼はリベルで、首絞められて腕も切られて、でも、突然苦しそうにするからさ」リベルは愉快そうに笑う、でも、やはり苦しいらしく頭を抱えた。

「悪かったね、怖かったか…」

「トラウマものよ」エーテルがグラスに水を注ぎながらツッコんだ。

「アルクス、腕を見せてくれ」顔色が良くないリベルは弱々しい手で腕を指した。

「ほら、震えて止まらないんだ。ごめん、リベル。」

「謝る必要は無い。時期に震えは止まる、それより、この腕の傷がある限り君は私のモノだ、これから君は私になる。アルクス、君は完璧で他の何より美しい。私に尽くしてくれるかい?」

「勿論、僕はリベルに尽くすよ。」エーテルが突然立ち上がる。「なっ、リベル…いや、何でもない。」

「アルクス。君は何が怖い?」

「まだ、分かんないや、」

「そうか、いづれ知るといい。」

「ねぇ、リベル、ご飯は?」

「今日はいらない。」

「そう、アルクスはもう寝る時間よー」

「まだ眠くないよ」

「怪我人はさっさと眠りなさい。」エーテルはアルクスを別室に送った。そして、戻って来るや否やエーテルは深い溜め息をつく。

「リベル、分かってるんでしょうね?アルクスは普通の子よ、貴方の思い通りにいかない事も多くあると思うわ。」

「大丈夫さ、アルクスなら私を裏切らない。」

「だと良いわね、ねぇ、リベル。やっぱり貴方はもう一度休むべきよ」「どうして?」「もう一度、言うわよ」「やめてくれ」「明日は出かけないでね、お休みなさい。」三人は別室でそれぞれ眠りに就いた。


「おはよう、アルクス。」

「おはよう…エーテル、、」エーテルの背後からとてつもなく人を殺しそうな顔をしたリベルがくっついてくる。

「リベルったら今日は一段と機嫌がいいわ」

「…」リベルは何も言わない。三人で揃ってバスルームへ行くとリベルは黙々と支度を始めた。

「アルクス、今日はこの家で過ごしてもらうわ」「分かったよ」アルクスは歯磨きをする。エーテルはシャワーを浴びると言い、浴室へ入った。

「アルクス、貴方もどう?」

「アルクスに襲われるかもよ」

「馬鹿言わないでリベル!」アルクスは気にせず服を着替える。リベルに似たカッターシャツに紺色のズボン、カッターシャツは半袖だったため、上から羽織るパーカーが用意されていた。リベルもいつものカッターシャツにハーネスを付けて準備万端だ。

「朝食はもう用意してあるわ、アルクスは場所知らないしリベルが連れてってあげて」裸のエーテルがタオルを持ってでてくる。リベルもアルクスも特別な感情は無く、リベルはスーツを片方にアルクスの手を引いて二人はバスルームを後にした。

「リベル、リベルにも傷があるんだね」腕まくりをしていたためリベルの傷が露わになっていた。

「私は君を私の分身にするために君に傷を付けたんだ。」

「そっか、僕の方が後だった」

「嗚呼、でも、この傷は他の誰かが真似しようと意味を持たない。私とアルクスだけのモノだ。」アルクスは嬉しくてリベルを見る。思えば十四のアルクスとリベルは同じ身長だった。

「エーテルの家は大きいね」

「彼女はお金の使い方が上手い」

「僕は反対だな…、すぐ使っちゃう」

「うむ、私もどちらかといえば物欲があるな、最近は瓶集めをしている」

「特殊だね」リベルが扉を開ける。中には丸い机と並んだ朝食があった。

「二人共足が遅い、」後ろからエーテルがやってきた。髪は乾いており、昨日よりも動きやすそうなワンショルダーなタンクトップとレザーショートパンツを着ている。

「昨日の今日で疲れてるんだ」

「あの殺人鬼が?」

「君こそ、かの有名な花は何処へやら」

「私はもう自由なの」二人は相性がいいらしく、そのせいか、いつもの店の客と店主の雰囲気は無かった。

「あら、失礼。アルクスはこの席どうぞ」アルクスが待っていることに気づいたエーテルが椅子を引く、アルクスは席に座り、同じ様にリベルとエーテルも続いた。

「頂きます。」アルクスが美味しそうに海老を頬張る。斜め左のリベルは上品にスープを飲み、エーテルはナイフで肉を切っていた。

「アルクス、今日から五日はエーテルの教えを聞くと良い。」唐突にリベルが呟く。

「分かったよ、エーテル。なにするの?」

「課題を出すわ、後、少し勉強よ」アルクスがガックリする。「大丈夫よ、嫌でも身につくから」リベルも頷いている。

「分かった…」三人はエーテルを中心に会話を弾ませて、沈黙無く食事を終える事ができた。

 その後、エーテルは食器洗いに取り掛かる。リベルはというと、何やら蟻と指で遊んでいるらしい。

 エーテルの家は店の中にあるためいつもは音楽の中だが今日は休みだ。アルクスは腕の包帯を少しほどいた。「似てる…」やはり完璧に近いほどリベルと似ている傷に怪我を治そうとする液が白いガーゼを滲ませている。適当に包帯を巻き直して今度は時計を見た。アルクスは今が六時だと言う事を信じられない。普段そんなに早く目覚めない為不思議な感覚なのだ。

「アルクス、勉強の時間よ」エーテルの声が聞こえてキッチンへ向かう。途中、リベルと目が合い、蟻に手を振っていたところだったらしく微笑まれた。

「あそこの部屋はよくあの悪魔が住み着いてるから今から行くのは昨日最初に行った場所よ」

「あの部屋は壁が木だったよね」

「本当に、誰かのせいでよく壊れるからね、綺麗にする必要もないわ」呆れた様子のエーテルに多分リベルが関わっていると察して他に追及はしなかった。

「アルクス、とりあえず座って、話はそれから。」エーテルが何かを取りに戸棚を開けるのでその間に椅子に腰掛ける。戸棚からはあらゆる紙が見えるが内容までは見ることができなかった。

「あったわ、えっ…と、アルクス、十四歳、一五九センチ。相変わらず小さいわね」

「最後よけいだよ、」エーテルもアルクスの前にある椅子に腰掛ける。

「アルクス、今現在リベルに一致してるところは身長、傷、後背中の黒子よ。」アルクスは呆気にとられた。

「いつの間に…」

「私、情報が好きなの、知れるのなら手段はあまり問わない。貴方を探し出すのに一番苦労したのはそこだったわ」

「そんなところまで似せるなんて、いつか冤罪かけて逃げたりしないよね?」

「リベルに限ってそんな事はしないわ、あの人は本心でアルクスを気に入ってるのよ。仮に冤罪をかけてもあなた以外を差し出すでしょうね」アルクスは複雑な気持ちになる。やはりリベルの意図が見えないのだ。

「さぁ、早く本題に入るわよ。」


 リベル。自分語り好き、社交的であり嫌われる事を恐れる。暗所が苦手であり、コンプレックスは低身長と言いつつ本心ではどこでも笑う事をコンプレックスとしている。過去のトラウマが弱点だが怒ってる時は無効。視力が悪い。背中に黒子がある。体重は訂正して52.2っと、それくらいかしらね。

「リベルの事?」

「えぇ、アルクスはリベルと紙一重で無くてはいけないのだもの、まずはリベルを知る事よ。」

「なるほど」

「アルクスは体重がね、」ビクリとする。

「何で知ってるの…」

「昨日、手の傷治した時に測っておいたわ」

「…」もう、アルクスはエーテルの行動全てを疑おうと思う。

「えっと…十六キロね。十日あげるわ。痩せてきて」

「えっ…」「異論は認めないわよ」「はい」

「後、この十日はリベルを常に監視しなさい。」

「監視?」

「いい、よく聞いて、リベルはミリ単位で貴方を視ているわ。そして、行動の一つ一つであの人になる鍵よ。貴方が探していた男にようやく近づけたんでしょ?私は目を瞑る、アルクス、自分のやり方でリベルになってみて、勿論手助けはするけどね」

「分かったよ、僕もやっと見つけたんだ。リベルが僕をリベルにさせるのは僕にとってご褒美以上に嬉しい事なんだ。リベルになりたくて生きてきたんだから、これで死んでも最高に気分がいいよ。」エーテルが頭を抱えて苦笑した。

「そうね、やっぱり私の方がおかしかったみたい。アルクスとリベルは同仕様もない所で結ばれているのね、」エーテルはもう笑う事しかできず、でも、自然と幸せだった。

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