第7話ー⑤「どうでもいいよ」
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小5の年が明けた明くる冬の日、駆さんが脚を怪我した。
オーバーワークによるものだった。
「無茶し過ぎ。小学生で体壊してどうすんだ」
「すいません」
活動中、木村さんに怒られる駆さんの姿にあたしはどうしてこんなことをしているのか、ただただ疑問でしかなかった。
その理由が、あたしの所為と知るのは、少し後のことである。
「まだ、こんな所で人生を無駄にするな」
「はい・・・」
駆さんは、その日を境に陸上教室を訪れることは無かった。
あたしは小6になり、駆さんがいなくなった穴を埋めるべく、頑張ろうとしていた時のこと。帰り支度をして、自転車で帰ろうとしていた時だった。
「理不尽ですよね」
「どうしたの、梅ちゃん」
「その呼び方、止めて貰っても宜しいですか?晴那さん」
駐輪場で、櫻井があたしに突っかかって来た。
「何が言いたいの?」
「晴那さんが疫病神って、話ですよ」
やくびょうがみ?どういう意味か、よく分からなかった。 いい意味ではないことは、理解出来た。
「そうなんだ」
「そう言う所ですよ、そういう所。そういう所が、華ちゃんや駆さんを追い詰めたんですよ。皆が皆、晴那さんみたいに強くないんですよ」
「お前さ、何が言いたいわけ?」
鈍感なあたしに対して、朝がキレ始めた。
「陸上部、辞めてくれませんかね?晴那さん」
「辞めたら、どうなるんだ」
「別に、私がスッキリするだけです」
「お前、気持ち悪いな」
朝のストレート過ぎる言葉に、櫻井ははち切れんばかりの怒りを表情で表していた。
「はっ?」
「帰る」
その頃から、マイペースだった朝は自転車に乗って、颯爽と帰って行った。
「何だよ、お前ら、揃いも揃って。バカにしやがって」
「あたし、何も言ってないんだけど・・・」
「晴那さん、いずれ、後悔することになりますよ」
「そうなのかなぁ?」
今よりも、ぼやけていたあたしには、何のことだか、よく分からなかった。
今なら、分かる。あたしが入る前から、うちの陸上教室は良い雰囲気だったが、中村が辞めた頃から、様子がおかしくなった気がする。
その原因が、あたしの成長速度に皆が追いつけなくなっていたことによるものが、起因していると当時の自分に気付けと言うのは、何とも酷な話だった。
その日の夜、かーちゃんにその話をした。
当時は今より、素直で何でも話していた。
「晴那はどうしたいの?」
「どうしたいって?」
「陸上好き?」
「好きだけど、何で?」
「だったら、それでいいと思うよ」
それ以上の話はしてくれなかった。
きっと、その先は自分で考えろと言うことだったんだろうけど、当時のあたしは、何も見えてなかったんだ。
小6になってから、久しぶりの競技会でのこと。
小中合同の競技会にて、目撃した駆君の姿にあたしは言葉を失った。
髪を伸ばし、何処かやさぐれていた彼の姿は、あの頃の明るくて誠実な彼ではない別人のように見えた。
それが、あたしにとっての一生の後悔になるなんて。
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