第7話ー④「どうでもいいよ」
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それからのあたしは、どんどん陸上にのめり込んだ。
基礎練習がメインで、怠いと思うことは無かった。
走れば走る程、自身の体を理解していく解放感がクセになった。
バカみたいに走ることが、何よりも楽しくて、その時だけは自由でいられる。
嫌な男子もウザい弟たちとも、勉強からも解放されたような気分になった。
何もかもが窮屈な世界で、あたしは翼を手に入れたのだ。
小5になった頃には、大会荒らしと言われる程の実力者となった。
同時に、中村はやる気が無くなったらしく、顔を見せることは無くなった。
中村だけじゃない、沢山居た生徒がどんどんいなくなっていく感覚をあたしは肌で感じていた。
「静かになって、せいせいするわ」
その中に残っていたのが、あたしの親友である朝である。
当時は詩ちゃんとからかって、ボコられそうになったのは、良い思い出である。
「だけど、皆が居ないとさみしいよ」
「ヤツらは弱かっただけ。やりたいヤツだけやればいい」
「何のマンガ?」
当時から、個人主義者だった朝だったが、それを止められたのは、他でも無い駆さんだった。
「そういうこと言うもんじゃないぞ、詩」
「だって、そうだろ。大体、晴那が」
「なんで、あたし、巻き込まれてるの?」
「だれが悪いわけじゃないんだよ。だけど、そんな寂しいことは言うなよ。楽しいこと、共有出来たら、それでいいじゃん」
「おいおい、後輩に駆がまた説教してるぜ」
「流石、駆さん。尊敬します、一生付いていきます」
「いいんじゃない。かけっちょらしくてさ」
「何か、暑くなってきたから、飲み物買ってくるわ」
駆さんは、皆の憧れの人だった。理性的で真摯で誰よりも真面目。
朝も、彼の言葉だけは、ちゃんと受け止めていた位だ。
その日の練習帰り、かーちゃんの車に乗り込もうとしたのこと、涼が帰って来なかった。
先ほどまでは一緒だったはずなのに。
「何処行ったんだか」
「あたし、探してくる」
「気を付けてね」
かーちゃんと分かれ、あたしは競技場を走り回った。
競技場は閉鎖されており、何処にもいない。近くのサブトラックにも、公園にも、涼はいなかった。
それから、かーちゃんからメッセージが届き、どうやら、会えたようだと言われたが、続きにこう書いてあった。
人生で初めてフラれたんだって 華ちゃんに そっとしといてあげて
あたしは、涼がとんでもない物好きということが分かった。
あたしは、すぐさま、駐車場に戻る為、再び走り出した。 涼が何で振られたかも知らないまま。
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