第5話ー⑦「ブーメラン」

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 妃夜の自宅に辿り着いた頃には、彼女は目が覚めていた。 しかし、妃夜は先ほどのことを一切覚えてはいなかった。 

 家に到着し、妃夜のご両親にご挨拶をする過程で、彼女の美人のお姉さんはすぐに妃夜を連れて行き、あたしはばいばいも言う暇も与えてくれなかった。 

 あたしは事の経緯を話し、謝罪したものの、妃夜のお母さんは、ありがとうと言ってくれた。 彼女のお父さんも、大変だったねと言ってくれた。


 本当に凄いのは、あたしじゃなくて、中村なのにな。


 気になったのは、その背後であたしを睨みつけるもう一人のお姉さんだった。あれは何だったんだろうか。


 話が終わった後、あたしは妃夜のお母さんに、たこ焼きを託し、羽月家を離れることとなった。 

 あたしと朝、かーちゃんの三人はSUVに乗り込み、家路に着こうとしていた。


 「ごめん・・・」


 「謝んなくていいよ。生きてるんだからさ」


 「でも・・・」


 「後悔したって、何も始まらないよ。詩もそう思うだろ」


 「そういうのいいんで、早く焼きそば食べたい」


 弱気なあたしを前にしても、2人はいつもの調子を崩さなかった。


 「うん・・・」


 家に帰るとにーちゃんが焼きそばを作っていたが、あたしは焼き鳥を食べた後だったので、シャワーを浴びに風呂場に行き、全てを終わらせた後、一人、真っ暗な自分の部屋に戻った。


 部屋に放置していたスマホを確認すると天から、電話が来ていた。 

 仕方なく、あたしは電話をすることにした。


 「やっと繋がりましたわね。Bonjour晴那」


 「今、そんな気分じゃないんだけど。切っていい?」


 「相変わらずの塩対応、わたくしは心が広いから」


 「何の用?切るよ」


 「あなたが、羽月さんをおんぶされていたことが、拡散されてましたわよ」


 あたしは黙り込んだままだったが、天は話し続けた。


 「何があったかを聴く程、わたくしは野暮ではございませんが。あなたのことが心配でお電話した次第ですの」


 「あたしは平気だよ」 

 あたしはベッドに倒れ込んだ。


 「嘘をおっしゃい。小学生の頃からの付き合いであるわたくしが、あなたのそういう所、見抜けないと思って」


 天の言葉は何処か、抜けているような声で言葉の一つ一つに温もりを感じた。


 「あたし、間違ってたのかな・・・」


 天は無言であたしの話を聴いていた。


 「あ・・・たし・・・あたしじゃ・・・。妃夜を救えない。あたしは自分ばっかりで何も・・・、何も・・・」 

 電話越しに泣きじゃくる一歩手前の声であたしは親友に言葉を投げかけていた。


 「何か言えよ」


 「わたくし、気の利いたこと言う程、野暮ではございませんわ」


 「電話切るぞ!」


 「その言葉、絶対に羽月さんの前で言うんじゃありませんこと」


 「天・・・」 

 受話器越しからも天の口調が、明らかに変わっているように思えた。


 「羽月さんはあなたに救われていると思いますわ。少なくとも、わたくしには出来なかった。それは同時に、あなたも同じじゃなくて?」 

 天の言葉を追求しようとしたが、今はただ、その言葉に耳を傾けることに集中した。


 「だから、使命感とか、罪悪感じゃなくて、もっと自分を愛してもいいじゃなくて?わたくしのように?」


 天の言葉にあたしは何も言い返せなかった。 

 その言葉を聴いた後、恥ずかしくなって、あたしは電話を切った。 


 妃夜と連絡を取り合ってはいたものの、あのことを皆に黙って貰うように頼み込んだ。 

 合宿や追い込みで忙しくなり、彼女に会うことも、海に行くこともなく迎えた全国大会初日。 

 あたしは予選5位という過去最低の記録を叩き出して、あたしの夏は幕を閉じた。

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