第1話ー③「みんな」

「あー、ダメだダメだ、全然上手く行かん。どうしたら、ええんじゃあぁぁぁ」 

 猛アプローチ作戦は全敗。羽月のハードルはこれまで飛んできた物よりも、高く、どれだけ挑戦しても、超えられる気がしなかった。


 「知らねぇよ」


 「だってぇ・・・・」


 部室で着替える私に対して、朝はいつも通りに見えた。


 「それより、変な噂広まってるぞ」


 「どうでもいいよ、そういうの気にするタイプじゃないし」


 「晴那と羽宮、付き合ってるって。お前のアプローチを悉く、断ってるから、羽宮は最低の阿婆擦れだってさ」


 「そう見える?そう見える?はぁー、照れるぅぅ」


 「バカで良かった」


 「それで、その噂の出どころは?」 

 バカのワードで、あたしの頭は冷静になった。


 「春谷。アイツ、お前の出まかせを言いまくり。相当、恨まれてるな」 

 春谷は失神事件の時、羽月の悪評を話していたヤツのことだ。 

 どうやら、あたしに対して、相当深い恨みを抱いているようだ。無理もない。あたしだって、同じようなことするかもしれないのだから。


 「いいんじゃない?言いたいヤツには言わせておけば」 

 あたしとしては、これ位の噂でへこたれるあたしではない。 

 でも・・・。


 「あたしよりも、羽月はどうなんだろう・・・」


 「気にしてないんじゃない?」


 「そんなこと・・・」


 「だって、それまでもこうだったんだろ?だったら、何とも思ってないだろうよ。晴那、友達なら、少しは羽根田を信じてやれよ」


 「わざと言ってんの?朝?」


 「何が?」


 「詩っちょ、晴那っちょ、話はいいから、ミーティングしない?今後の部活についてとかなんだけどさ?」


 いきなり、現れたのは、陸上部主将で三年生の宝多先輩である。

 次の県予選に出場予定の為、顔を出している我が部の部長である。

 種目は走り幅跳びを種目としている。一応、凄い人


 「すいません」

 あたしと朝は口を揃えて、同じ向きで話していた。 

 あたしと朝は先輩の言う通り、着替え終わり、部活に向かった。


 ミーティングが始まると顧問の森先生はいつになく、真剣だった。


 「お前等、今度の期末ダメだったら、覚悟しておけよ」


 「私は余裕だけど、頑張れよ、お前等。なっはははー」


 こんなバカみたいな物言いの宝多先輩は頭がいい。


 あたしは覚悟しないといけないと思った。これしかないのかと思った。 

 これ以外でしか、羽月と仲良くなる方法は無いのかと・・・。


 4


 「羽月、勉強教えて!お願い!」 

 それ以降も、色んなアプローチを続けて来たあたしだったが、このままだと本当にまずいと思い、羽月に説得を試みた。


 「お断り致します」


 「な ん で?」


 「私、人に教えるのが、嫌いなの。それが出来なくて、ああだこうだ言われるのが、面倒なの」


 「そんなこと言わないでよ、だって、あたしたち」


 「そういう友達の使い方する人間は、大体、友達ではなくて、パシリとか、ぞんざいな扱いする人って、統計が出てるらしいよ」


 「えっ、そうなの?」


 「大体、矢車さんに教えて貰ったら、いいでしょ?」


 「いや、天の指導はアレだから」


 「誰の指導がアレですの?」 

 いきなり、何の前触れもなく、天がポッと現れた。


 「指導は実りのある物、指導をする気がある方には、ちゃんと指導したいとは思っていますが、晴那は勉強に対しての集中力が無いから」


 「いや、よく分かんない用語ばっか、押し付けてくるんだもん。眠たくなる」


 陸上の時は、凄い集中してるのに、興味もない勉強だと眠たくなってしまう。自分でも、全然訳が分かんない。


 「とにかく、私は晴那に指導する時間があるなら、今度こそ、羽月さんを倒す為の勉強時間を手に入れたいですわ」


 「そうですか、頑張って下さい。それでは、本日の営業は終了しました。それでは、さようなら」


 「羽月!」


 妃夜はそう言って、教室を一目散に、飛び出していった。


 「また逃げられましたね。これで一週間ずっと、避けられてるというか。これで友達なんて、片腹痛いですわね」


 「Don't say that, it's pathetic.」 

 (そう言ってやるなよ、可哀想だろ)


 「まぁ、晴那は考え無しにやるからですわ。本当に無鉄砲と言うか、何と言うか」


 「どうしたら、心開いてくれるかなぁ?」


 「まぁ、焦らずじっくりやるしかないですわね」


 「それもそうだね、じゃあ、代わりに矢車先生のご指導を」


 「私は貴女の家庭教師じゃないの。それじゃあ」


 「Why don't you try doing it by yourself once in a while?Well, maybe it's impossible.ファイト!晴那!」

 (たまには一人で勉強してみたら?まぁ、無理かもしれないけど)


 2人は足早にその場を後にした。  

 なんで、こうなったんだろう?わたし、何か間違ったかな?


 勉強はいいアイディアだと思ったのになぁ。一体、どうしたら、いいのか? 

 無い頭で考えても仕方ないので、練習に行こうと思った。 

 県大会も近いので、例外的に認められていたのだった。


 しかし、今回のテストが全然ダメだったら、両親にも、顧問の小松先生にも、どやされる。何としてでも、羽月の支援は必要だ。 

 どうにかして、ここを乗り切らねば

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