第2話
「さすがだな、一ノ瀬。先生方は皆、お前のことを信頼しているよ」
時は流れ、俺は2年生になった。
去年の夏、俺は5年間片想いしていた幼なじみに告白し見事に玉砕。
それだけならばよかったのだが、幼なじみの彩花には好きな人がいた。それは、俺の元親友。青山愛斗だった。
俺はこいつに恋愛相談などをしていたが、こいつは元々彩花のことが好きで、俺と仲良くなったのも彩花とお近づきになるためだった。そしてそれは達成され、かつ恋人になることまで達成してしまった。
今から丁度1年前、それを知った俺はあいつに復讐することに決めた。
どう復讐するかは決めてないが、とりあえず復讐するためには自分を変えなくてはいけないと俺は考え、まず学力向上を図った。
その結果、1年の学年末テストにおいて、1位を獲得。そこから2年の1学級中間、期末においても俺は1位をキープした。
ふむ。いい気分だ。1位というのは何においても自分を優越感に浸らせてくれる。勉強自体はあまり好きでは無いが、それによりこの感情が呼び起こされるのなら悪くない。しかも、教師からの信頼も得られ、将来的にも安定する可能性が高い。
「さて、夏休みはなにすっかなー」
期末テストが返却され、俺は明後日からの夏休みの過ごし方について考えていた。
その時
「あの、ちょっといいですか」
後ろから、今にも消えそうで、しかしどこか儚く美しさのある声が聞こえた。
「...あの、なんでしょ...!?」
その声の方向に振り返ると、俺は驚嘆した。
「あの、そこまで驚かなくてもいいじゃないですか。クラスメイトなんですし」
「...いや、驚くだろ普通」
そこに立っていたのは、西園寺瀬奈という女子だった。
なぜ女子が立っているだけで驚いたのか。いや、まあ俺みたいな女性経験皆無な人間なら誰でも驚くだろうが...
この西園寺瀬奈は、普通の女子とは違う。
まず、非常に博識抗弁であること。確か1年の時、おれが学年末で1位になる前まで1位の座を守っていたはずだ。
次に、性格。成績が物凄く良いのに、彼女はそれを鼻にかけない。視野が広いとでも言うべきか。教室で汚れがあったらすぐに掃除する。勉強に困っている人間がいたら即座に教鞭をとる。人の気遣いがここまで上手い人間は他に知らない。
そして極めつけは、その容姿。
美しい色素の薄い白銀の髪は、周囲との次元の違いを思わせるほど。シミやニキビなどは恐れおののき自ら発生しないとでも言うような白い肌。特別身長が高い訳では無いが、しっかり身体も引き締まり、出るとこはでて引っ込むとこは引っ込む。まさに黄金比といっても過言では無い。
これらの要素により、西園寺はこの学校で1番の美少女。天女様であるとされ、ファンクラブや彼女を慕う女子生徒のサークルがあるそうな。
よく考えてみろ。そんな天女様にお声をかけられたんだ。そりゃ驚くだろ?な?
「そう、ですか。それはすみません」
「ああいや、謝ることじゃねえよ」
まあ天女様言うてもこいつも人間。ましてやクラスメイトに声をかけられただけで驚くのはさすがに失礼だ。
「まあ、俺も悪かった。で、俺になんか用か?」
「あ、はい。あの、連絡先を教えて欲しいんです」
ザッ ―。刹那、クラス全員が俺の方見た。
「...あの、なんで?」
「え?あ、ええと、その、理由が必要でしょうか」
「いや、別にいいっちゃいいけど、なんで俺なんかの連絡先を欲しがるのかなって」
「それは...欲しいからです」
ダメだこいつ会話ができねえ。
頭いいってのは嘘だったのか?
「...悪い、やっぱダメだ」
「!?な、なんでですか?」
「よく考えたら、俺とお前は今日初めて会話しただろ。そんな間柄で、連絡先はまだ渡せない」
「そんな...」
しょぼん...と天女が俯く。
すげえ。こんだけ見た目が良いと、これだけでも絵になるんだな。
「...まあ、絶対に交換しないとは言ってねえ」
「...え?」
「まあ要は、あんま俺ら仲良くないから連絡先交換しませんってことだ。なら、今後仲良くなることがあれば、俺はお前と連絡先交換してやるってこと、まあ保証はしねえけど」
「...本当、ですか?」
「ああ」
「じゃ、じゃあ、お友達からお願いします!」
「っ、わ、分かったよ」
「はい!」
満面の笑みでそう堪える西園寺。
めっちゃかわいいな、人気が出るのも頷ける。
周囲を見渡してみると、皆目がハートになっている。何人かぶっ倒れてるが...
「それじゃあ、また!」
そうして、自分の席に戻っていく西園寺。
席に戻った彼女は、1人の女子から質問攻めされているようだ。
今までそこまで気にしていなかったが、 どうやら、天女としてあがめられる彼女にも信用出来る友人はいるらしい。
「おいお前ら、帰りのホームルーム始めるから、席に着けー」
なにはともあれ、これで夏休みが始まる。
夏休み中は、復讐するための計画を練るなどして時間を使うかもなと考えながら、担任教師の有難いお話を右から左へ聞き流していた。
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