ブラック・スター
「ゲス博士、とうとう完成したそうだな」
世界征服を策謀する悪の秘密結社・ブラック団の総帥であるルシファー小野田は、あやしげな研究室へ入ると、せっせとネジを締めている白髪の老人に話しかけた。
「ひっひ、そうじゃとも総帥。世界征服のための秘密兵器、『ブラック・スター』がついに完成したんじゃよ」
ゲス博士はネズミのような歯をカチカチいわせながらそう答えた。
「ふふふ、そうか。ではさっそく見せてもらおうか」
「おうとも総帥。ブラックスターはすでに街へ出て大暴れしておる。愚かな世間は大騒ぎじゃ。テレビをつければすぐにわかるぞい」
「くくっ、それは楽しみだな」
ゲス博士は黄ばんだリモコンでテレビのスイッチを入れた。
*
「みんなー! 僕たちのデビュー曲、どうだったかなー!?」
「最高ーっ!」
「ありがとう、みんなー! じゃあ改めて自己紹介だよっ! 僕たち、世界征服系アイドル、ぶらっく☆すたあず! せーの、君のハートを、征服しちゃうゾッ!」
「きゃーっ! 征服してーっ!」
「みんなー! ブラック団に入ってねー! 僕たちと一緒に、遊ぼうよー!」
「入るーっ!」
ステージ上で笑顔を見せる少年たちの姿に、全世界はいつまでも釘づけになっていた。
*
「なんだ、これは……」
「AIのはじき出した結果じゃ。こうするのが一番、世界征服への近道じゃそうな」
「そう、なのか……まあ、目的が達成されるのなら、別にかまわんか……」
ブラック団、というか、ぶらっく☆すたあずの人気は加速度的に上昇し、さほど時を置かずして、ブラック団の世界征服は本懐を遂げた。
しかし世界が崇拝するのはぶらっく☆すたあずであって、間違っても総統・ルシファー小野田ではなかった。
小野田はむなしさと孤独感に支配され、かといって何もやらないのも退屈だったから、いまではぶらっく☆すたあずのグッズ売り場で手売りのスタッフをしている。
「はーあ、世界征服なんて、つまらないものなんだな……」
その後彼は、ブラック団の総帥を退職し、実家の農業を継いで、細々と暮らしましたとさ。
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