O氏の遊園地

朽木桜斎

宇宙からのエロ

 知的生命体が搭乗とうじょうした銀色にピカピカと光る船団せんだんが、宇宙の外から地球の上空までやってきた。


「おい、見ろ」


「ああ、この星を支配する種族は、絶滅の危機にひんしているようだ」


「人間という種族のようだな」


「ひどく個体数が減少しているようだ。さて、どうしたものか……」


「これを使用したらどうだろう?」


 タコのような宇宙人の触手のひとつに、人間の文化が生み出した一冊の本が乗せられていた。


「エロ本というものらしい。さきほど地上から拾ってきたのだ。これを使って人類とやらは、長らく繁殖を繰り返してきたのだとか」


「それはいい。それを用いれば、人類はさほどときを置かずして、また繁栄するに違いないぞ」


「では、これを大量にコピーし、全地球上にばらまこう」


「そうだ、それがいい」


 かくして知的生命体たちの作戦は遂行すいこうされた。


 銀色の大きなポッドに入れられたエロ本は、たちまちのうちにスキャンされ、そのデータから大量生産されたコピーは、またたくに地上にあふれかえった。


「これで大丈夫だ。またのちほどこの星に足を運ぼう。そのときにはきっと、この地球の大地は、あふれんばかりの人間で満たされていることだろう」


 こうして知的生命体の船団は、宇宙のどこかへと去っていった。


―― 地球の時間にして100年後 ――


「これはいったい、どういうことだ……?」


「人間の姿など、ひとつもないぞ……あるのはわれわれがばらまいた、エロ本の山だけだ……」


「人類などすっかり、絶滅しているぞ……」


「おかしい、どうしてだ……」


「まったくわからない……われわれの知能をもってしても解明できないとは、人間とはまったく、未知の種族だ……」


 宇宙人たちはただただ、うずたかく積み重なったエロ本の大地の上で、呆然ぼうぜんと立ち尽くしていた。


 彼らは気がつかなかった。


 いや、永遠に気づくことはなかった。


 彼らがばらまいたエロ本とは、BLマンガだったのである――

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