第2話 一人の時間



 その後、一週間ほど学校を休んだ。


 両親も友人のルイーズも気を遣ってか、誰もダコタに休む理由を尋ねなかった。みんなが自分をそっとしておいてくれることに感謝しつつ、ダコタは暗い部屋の中で今までに撮った写真などを見返して過ごした。


 ペラペラの紙の中で、エディは笑っている。

 二人はどう見ても恋人同士だった。



(…………信じられない)


 魅了が何たるかということは理解していた。だけど、まさかこの恋が魅了の上に成り立っていて、愛する恋人が実はこれっぽっちも自分を好きではないなんて、想像すら出来ないことだった。


 初めて告白してくれた時も、初めてキスをした日も、一ヶ月記念日の時も、嬉しくて涙を流した二ヶ月記念日の時だって。エディはダコタを微塵も愛していなかったのだろうか?


 信じられない。信じる方法が分からない。


 だって、どうしてエディが魅了に掛かる必要があるのか。もちろんダコタは魅了魔法を使っていない。魅了を使ってまで意中の人を振り向かせる勇気など、ダコタには無かった。じゃあ、いったい誰が?


 答えは出ないままにダコタはベッドに突っ伏した。

 その拍子に、枕の上にあったイルカのぬいぐるみが落下する。



「あなたは全部知っていたの?」


 拾い上げた小さな生き物を小突く。


「魅了だったなんてあんまりだわ。私はどんな顔して学校に行けば良いの?クラスにはエディが居るのよ?」


 仲良く登校していた二人の関係は、クラス中に知れ渡っている。みんなは今頃どう思っているのだろう。やいやいと二人で戯れあっていた手前、バツが悪い。


 こんなことになるぐらいなら、両親やルイーズなど親しい人にだけ交際を明かして、周りには秘密にすれば良かった。学生のカップルは簡単に破局するって、女の子の間では有名な話なのに。



 だけど、いつまでも休んでいるわけにいかない。


 失恋して魔法学校を留年するなんておバカな話だし、学費を出してくれている両親に申し訳ない。もう一週間も感傷に浸ったのだから、明日は行ってみようか。


(何もなかった顔をしないと……)


 のそのそと起き上がって化粧台の前に座る。

 鏡の中の自分の目の周りは赤く腫れていた。


 ヒューストン男爵家の娘として、いつまでも涙を流すのはダメだ。エディは伯爵令息だったし、両親も彼の家柄を素晴らしいと喜んでいたけれど、この恋は終わったのだ。


 婚約を破棄されたわけではないのだから、とダコタは自分を慰めてみる。「たった三ヶ月付き合っただけ」と思えば、いくぶんか心は落ち着いた。



 それから、ダコタはエディと一緒に撮った写真をすべて破棄した。アルバムごとゴミ袋に突っ込んで、もらったプレゼントや記念に取っておいた水族館のチケットなんかも捨てることにした。


 だけど、どうしても。


 昼夜ともに行動していたイルカのぬいぐるみだけは捨てることが出来ず、結局こっそりカバンに入れて、次の日も一緒に登校した。


 三ヶ月ぶりに一人で学校へ向かう。

 そんな心細さに耐えられなかったから。

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