アンロック

宮坂大和

第1話 プロローグ

「うん。なかなか面白かったな」


 やっぱり暗号系はハズレがないな。推理小説の中にも色々とジャンルがあるけど、俺は暗号系が一番好きだ。なんというか、わかった時のなんとも言えないあの感じが好きだ。


「さてと」


 そんじゃ次の推理小説でも読みますかな。

 家から持ってきたものは、もうなくなっちまったから、小説投稿サイトでいいのがないか探すかな。

 最近じゃ結構面白いのがあるから、こうやって探しているだけでもかなり楽しいんだよなぁ。


「あ、やっと見つけた!」

「げ……」


 サークルの部室に勢いよく入って来たのは、俺の幼なじみである二葉恵里ふたば えりだった。幼稚園の頃から一緒で、学科は違えど同じ大学に入っている。


「ちょっと武尊たける。げってなによ、げって」

「心の声だよ。それが思わず漏れちまっただけだ」

「ふーん。こんな可愛い幼なじみを見て、そんなことを思うなんて、武尊って見る目がないんだね。可哀想に。病院行けば?」

「いい加減わかれ。俺はお前のそういうところが嫌いなんだよ」


 確かに恵里は、容姿も整っていてスタイルもいい。だいたいのやつは、恵里のことを可愛いと言うだろう。実際俺もそう思う。ただ、こいつの性格が昔からどうにも苦手だ。


「まぁいいや。それよりもさ武尊。頼みがあるんだよね」

「断る」

「まだ何も言ってないじゃん!」

「そうか。断る」


 聞くまでもない。恵里の頼み事なんて、どうせ

 面倒事に決まっている。俺は面倒なことが何よりも嫌いなんだ。


「いいから、話くらいは聞きなさいよ!」

「あーもう。うるさいなぁ。わかったわかった聞くだけな」

「うんうん。よろしい」


 ったく。本当にこいつは……。


「んで?」

「うん。武尊って暗号とか好きだよね?」

「いきなりだな。まぁ推理小説読んでるし、嫌いではないな」

「だよねぇ」


 恵里が暗号とか言い出すなんて、どういう風の吹き回しだ? 恵里はお世辞にも頭がいいとは言えない。高校や大学の入試の時だって、俺が付きっきりで勉強を教えて、何とか合格したくらいだ。

 そんな恵里が暗号に興味を持つとは思えないんだがなぁ。


「それでさ、やっぱり詳しかったりする?」

「うーん。どうだろうなぁ」


 正直な話、返答に困る。暗号と言っても色々な種類がある。人に解けるような単純な暗号はもちろん、戦時中に使われた鍵暗号。特定の人間にしかわからないような隠語を使ったものなんてものもある。他にも例をあげたらキリがないくらいの種類がある。ただの暗号と言っても奥が深いんだ。

 って、前に読んだ推理小説の主人公が言ってたな。まぁ実際その通りだと思う。


「そっかぁ。でもまぁいいかな」

「何が?」

「ねぇ武尊。これから用事ないよね?」


 ちょい待て。何か話が飛んだぞ。

 てか、用事ある? じゃなくて用事ないよねってのが気に入らないんだが。まぁ確かに用事はないけどさ。


「え? 何? もしかしてあるの?」

「いや、ないけど」

「だよね。それじゃあ行こう!」

「行こうってどこにだよ」

「ん? 私の実家」

「は? 何でだよ。てかそもそも話を聞くだけじゃなかったのかよ」

「細かいことは気にしないの」


 全然細かくねぇんだが。

 つーか、実家に行くってことは、俺らの地元、宮城に帰るってことじゃあねぇかよ。

 いくらなんでも急すぎるっての。


「俺は行かんぞ」

「何でよ?」

「当たり前だろ。俺には帰る理由がない。それに帰る金がもったいないの」


 新幹線で片道、一万ちょいだぞ。往復で二万。そんな金があるなら課金したい。


「大丈夫よ。交通費は私が出してあげるから」

「だとしても面倒くさい」

「武尊のその何でも面倒くさがるの直した方がいいよ」

「余計なお世話だっての」

「ともかく、いいから来てよ」

「そもそも、何でいきなり帰るんだよ。まずはその理由を話せ」


 いくらなんでも情報がなさすぎだわ。


「あれ? 言ってなかった?」

「言ってないねぇ」

「あーごめんごめん」


 こいつ、本当に悪いと思ってるのか? いや、絶対に思ってない。俺は昔っから恵里のこういうところに振り回されてきたんだ。本当にもういい加減にしてほしいぜ。


「実はさ。金庫が見つかったんだよね」

「金庫?」

「うん。ほら、先月おじいちゃんが死んじゃったじゃない? それで色々と整理していたら、物置から見つかったんだよ」

「ふーん」


 ってことは、恵里のじいちゃん、正鷹まさたかさんの遺産か?


「それでね。その金庫何か変でさ」

「変って?」

「色々と文字が書かれていたり、ダイヤルの数が多くてさ、開けられないんだよね」

「なるほどな」


 つまり、特殊金庫ってやつか。だから、暗号とか言い出したってわけか。


「でもさ。そういう金庫を開けるプロがいるわけだろ。その人たちに頼めばいいんじゃないか?」

「私もそう思ったんだけど、お母さんは大事にしたくないから頼まないって言っててね」

「あー確かに言いそうだな」


 恵里のお母さんは、俺と同じでかなりの面倒くさがり屋だ。口では大事にしたくないって言ってるけど、実際は面倒だからやりたくないが正しいだろう。


「でもね。私は中が気になるの。だからどうしても開けてみたいのよね」

「ふむ。んで、俺に開けろってことか?」

「そういうこと」


 なるほどなねぇ。


「ま、そういうことだから、早く行くよ」

「いや、行かねぇけど」

「何でよ!? 今のはどう考えても行く流れだったじゃん!」

「そんなの知らんがな」

「暗号付きの金庫だよ。興味あるでしょ?」

「まぁ確かにな」

「じゃあなんで行かないのよ」


 どんな暗号なのか、めちゃくちゃ興味あるし、解いてみたいって気持ちもある。


「面倒くさい」


 結局のところこれである。

 いや、まじでダルいだもん。いくら新幹線でも、東京から宮城まで二時間ちょいだ。それに恵里の実家までは、仙台駅を降りてから車で更に二時間だ。いくらなんでも面倒くさすぎる。


「はぁ……じゃあ報酬はこれって言ったらどうする?」

「ん? って、お前これは!?」

「そ。超激レアのキングシカ・ダブルホーンよ」

「何でお前がこれを……」

「昨日当たったんだよねぇ」

「まじかよ……」


 大人気ゲーム『シカロボ』のアプリ版で、キングシカ・ダブルホーンは、排出率0.001%以下の超激レア機体だ。

 このゲームのやばいところは、ガチャに課金が出来ないことだ。つまり、ゲーム内で貰える石でしかガチャを回すことが出来ない。だからガチャを回すだけでもかなり大変なのだ。それでもって、この排出率の低さ。

 そしてなりより、このキングシカ・ダブルホーンはめちゃくちゃ強い。今の環境じゃぶっ壊れと言っても過言じゃないくらいに。


「どうする? 武尊が来てくれるってなら、トレードしてあげるけど」

「ぐ、ぐう……」

「あーそういえば、友達にもトレードしてくれって頼まれていたんだっけなぁ」

「あーもう! わかったよ! 行くよ! 行けばいいんだろ!」

「そうそう。初めっからそう言えばいいんだよ。武尊」


 くっそう……。また恵里に負けちまった。昔っからこういうことに関しては、恵里に敵わないんだよなぁ。


 そんなわけで、俺、丸岡武尊と二葉恵里は里帰りすることになったのだった。

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