第16話:朱音ちゃんと一緒に買い物に出かける

 そしてそれからしばらく経った頃。


 俺は朱音ちゃんと他愛ない話をしながら一緒に買い物を楽しんでいっていた。


「へぇ、来週は友達と一緒に遊園地に行くんだ? それは楽しそうだね!」

「はい、そうですよ、久々に遊園地に行くんで凄く楽しみです! あ、ちゃんと先輩にもお土産を買ってくるので楽しみにしててくださいね! ……って、すいません、私ばっかり話をしちゃって。しかも先輩には私の荷物を持たせちゃって本当にすいません……」

「はは、全然良いよ。荷物持ちくらい余裕だからさ。だから朱音ちゃんも俺の事は気にせずに買いたい物はどんどん買っていっていいからね」

「先輩……はい、本当にありがとうございます。ふふ、やっぱり先輩はすっごく優しい先輩ですよね」

「そうかな? まぁ朱音ちゃんにそう言って貰えると俺としても嬉しいよ」


 そんなわけで今日は朱音ちゃんの荷物持ちを担当させて貰っていた。まぁせっかくの買い物なんだし朱音ちゃんには楽しく買い物をして貰いたいという俺からの心意気だ。


 という事でそれからも俺達は一緒に楽しく買い物をしていっていた。しかしその途中で……。


「そこのお姉さーん、今暇ー? 良かったら俺達と遊ばないー?」

「ん?」

「え?」


 その途中で俺達は見知らぬ二人組の男に声をかけられた。まぁ誰がどう見ても朱音ちゃんへのナンパだな。


(すいません先輩……)

(ん? どうしたの朱音ちゃん?)


 すると朱音ちゃんはすぐさま俺に近づいてそっと耳打ちをしてきた。


(ちょっとだけ彼氏のフリをして貰っても良いですか?)

(あぁ、もちろん、良いよ)


 朱音ちゃんは申し訳なさそうな顔をしながら俺にそう言ってきた。まぁ緊急事態なので俺は朱音ちゃんからのそのお願いを快く引き受けていった。


(ありがとうございます、先輩……ふふ、それじゃあ……)


 すると朱音ちゃんはすぐに笑みを浮かべながら目の前のナンパ男達にこう言っていった。


「あ、ごめんなさいー。今ちょっと彼氏とデート中なんで。だからそういうのは別にいいですー」

「えー!? そんな冴えない男が君の彼氏なの?? あはは、マジで勿体ないっしょー! そんな冴えないブサイクな男なんかよりも俺達と一緒に遊ぼうよー」


(は、はぁ? なんだコイツら……?)


 何だか唐突にめっちゃムカつく事を言われてしまった。冴えないは余計だろ。まぁ別にカッコ良いだなんてちっとも思っていないから別にいいんだけど。


「…………」

「……?」


 そんな事を思っていると、隣に立っていた朱音ちゃんは笑った顔から一瞬にしてムッとした表情になっていっていた。


 俺はどうしたんだろうと思いながらキョトンとしていったんだけど、でもそれからすぐに朱音ちゃんは……。


―― むにゅっ……!


(え……あ、ちょっ!?)


 すると朱音ちゃんは俺の腕をぎゅっと掴んできて、そのまま自身の胸を思いっ切り俺に押し当ててきた。あまりにも唐突過ぎて俺はビックリとした顔をしてしまった。


「あはは、アンタ達が何を言おうとも私の彼氏の方がよっぽど素敵なんでー。だから私はアンタ達なんかには絶対になびかないんでさっさと帰って貰えますかー?」

「は、はぁ? いや俺達がそんな冴えない男に負けてる訳ないだろ! いいから俺達と遊べよ!」

「あぁ、そうだよ! 俺達の方が絶対に良い男に決まってんだろ! だからほら、さっさと俺達の方に来――」


―― ガシッ!


「来いよ……って、あ、あれ……?」


 そう言ってナンパ男達は朱音ちゃんの肩に腕を伸ばしてきたので、俺もすぐさま自分の手を伸ばしてそのナンパ男の腕を掴んでいった。


「……まぁ俺に対して暴言を吐くのは全然構わないんだけどさ、でも流石に初対面の女の子の身体を触ろうとするのは駄目じゃないかな?」


―― ぎゅぅぅうう……!


「え……って、あ、ちょっ!? い、いたっ!? いたたたたっ!」

「え? あ、お、おい! タケ!? どうしたんだよ!?」


 そう言いながら俺は男の腕を力強く握りしめていった。すると男は途端に痛がり始めていった。


 まぁ昔から身体を動かす事が好きだったおかげで、俺の見た目は冴えなくても筋力や体力などに関しては普通の人なんかよりは遥かに高かったりする。


「んー、どうしたよ? 別にそこまで強く握ってる訳じゃないんだけどな? はは、でもどうするよ? せっかくだしもっと本気で握りしめていってみようか?」

「い、いてて! わ、わかったよ! じょ、冗談だって! 冗談! 彼氏がいる子をナンパなんてするわけないだろ? 全部冗談だよ! だからもう許してくれって!!」

「……はぁ。わかったよ」


 ナンパ男があまりの痛さに全力で許しを懇願してきたので、ちょっと可哀そうに思えて俺は掴んでいた腕をパっと放していった。


「い、いてて……クソ……何ていう馬鹿力だよ……」

「ん? 何か言ったか?」

「あ、い、いえ、そ、その……あ、あはは、何でもないですってー! そ、それじゃあ失礼しましたー!」

「あ、ちょ、ちょっと待てよタケ! 俺を置いてくなよーー!」


 俺はもう一度男の腕を掴むモーションをしていくと、ナンパしてきた男達は慌てた態度ですぐに走って逃げていった。


 とりあえず危機は脱する事が出来たので、俺はホッと安堵していきながら朱音ちゃんの方を見ていった。


「先輩ありがとうございます! 本当にカッコ良いです!!」

「はは、まぁそりゃあ後輩を助けるのが先輩としての役割だしさ」


 すると朱音ちゃんは満面の笑みを浮かべながら俺にそんな感謝の言葉を述べてきてくれた。なので俺も笑いながらそう返事を返していった。


 でも俺は朱音ちゃんが俺の腕に胸をぎゅっと押し当ててきた事に対してはしっかりと注意していく事にした。


「あ、でもさ……一応今は彼氏という設定ではあったけど、でもそうやって無暗に異性の腕をぎゅっとしたりはしない方がいいよ?」

「え、何でですか?」

「い、いや、そりゃあ……朱音ちゃんがそうやってぎゅっと抱きついてくるとさ、その……俺の腕に朱音ちゃんの肌が当たるからだよ」


 流石に朱音ちゃんのおっぱいが俺の腕に当たっていると言うのはセクハラ案件になりそうだったので、俺はその部分だけは言葉を濁していった。


「そ、それにさ……男って物凄く単純な生き物だから、女の子がそんな簡単にスキンシップをしてきたらもしかしたらワンチャンいけるかもって思われて、そのままホテルとかに無理矢理連れて行かれる可能性だってあるでしょ?」

「あー……まぁ確かに昔からそういう事件とかは多かったりしますよね……あと最近だとお酒で酔わせてラブホに無理矢理連れて行こうとする人とかもいたりしますもんね……」

「うんうん、そうだよね……って、え? な、何だか具体的すぎる例を挙げてきたね? ま、まぁいいや。とにかく俺が言いたかった事は、どんな人であっても変な事をしてくる可能性は十分にあるって事だよ。だから幾ら俺達が仲が良いと言ってもさ……もう少し節度を持って付き合おうね」

「はい、そうですね。すいません、先輩に助けて貰えてちょっと浮かれちゃいました。でも……」

「でも?」

「でも、本当に……ふふ、本当に先輩は私の事を大事に思ってくれてるんですね?」


 朱音ちゃんは俺に向けてそう言ってきた。朱音ちゃんの事を大事に思ってるか。そんなのはもちろん……。


「はは、そんなの当たり前でしょ? だって俺にとって朱音ちゃんは一番大切な後輩なんだからね。だからこれからも朱音ちゃんに何か危ない事とか起きたらさ……その時は必ず俺が助けてあげるからね」

「う……そ、そんな真顔でそんな嬉しい事を言ってくれるなんて反則ですよ……」


 朱音ちゃんはほんのりと顔を赤らめながらそう返事を返してきた。そして朱音ちゃんは笑みを浮かべたまますぐに続けてこう言ってきた。


「ふふ、それじゃあ……これからも私が危ない時は絶対に助けてくださいね、先輩?」

「あぁ、うん、もちろんだよ」


 こうして俺は朱音ちゃんとそんな約束を交わしていった。


 そしてその時の朱音ちゃんは顔を赤くしながらもとても嬉しそうな笑みを浮かべていってくれていた。

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