第22話 二人にしか出来ない事を

 バニリィです。新年を迎えて、数日が経ちました。あと少しで学校を卒業して、これからの進路はどうなるかと思っていた所、とても嬉しい知らせがありました。


 ザラメ社の社員である姉カフェイは、バニリィとショコルのお菓子のお店を持つ夢をザラメ社が全面的に支援すると言いました。私達の事をお姉さんがある社員にお話した事でそれが社内に広まり、あの二人こそが悲哀の物語の主役である二人の生まれ変わりではないかと言われていました。


 そのため、私とショコルさんはあの一大企業の支援を受けられるまたとないチャンスを得たと思いましたが、ひとつだけやらなければならない条件がありました。それは……。


「カフェイのアネゴのココロを動かすお菓子を作る事なんだけど、アタシ達に出来る事なのかな」

「そのために今こうして二人きりでお話しているのです」

「アタシとバニリィちゃんのパラダイスを最速で実現するなら、この挑戦勝たなきゃだよね!」

「しかし、私達のお菓子が認められなければどうなるか……」

「だからこそ一発合格を狙わなきゃだよ!アタシだってもうそれしか考えて無いんだからさ!ダメならダメで、その時考えるものよ!」

「ショコルさんには、勝つ以外無いって感じなのですね。その想いにはこちらも勇気を貰えます」

「でしょ!という事でアタシがカフェイさんに出すのはね……!」


 まずはショコルさんが、お姉さんに作るお菓子について語りました。


「アタシは、チョコレートケーキで行ってみようかなって思う!でもさすがにココアパウダー大さじ9杯入れるのは、さすがのカフェイさんでもこれは無いわーって感じかな?」

「そうだと思います。お姉さんはコーヒーには砂糖もミルクも最小限しか入れなかったのです」

「それなら、アタシが思う、誰が食べてもサイコーなチョコレートケーキを作ってあげようと思うの!それで、バニリィちゃんなら何作る?」


 ショコルさんがチョコレートケーキなら、私は……。


「イチゴショートケーキを、食べさせたいです」

「イチゴショートケーキ!そういえばアタシ達が着ているこの制服も、イチゴショートケーキがデザインのもとになったって聞いた事があるよ!」

「そういえば、そうでしたよね。他の学校の制服も、色々なケーキのデザインを取り入れているそうですよ」

「あらためて見ると最高に可愛いデザインよね!卒業後も大切にしたいぐらい!」


 ついつい制服の事で盛り上がっちゃう所もある私達。ですが今の目的はお姉さんのココロを動かすお菓子を作る事。そのためのヒントを得るために、私とショコルさんはいつもお世話になっているあのお店に立ち寄るのでした。


・・・


カランカラン♪


「こんにちは、マスター」

「今日はショートケーキとチョコレートケーキをお願いします!」


 二年前と半年ぐらい前から行くようになった、あなたの経営する小さな喫茶店。嬉しい事も何でも話したこの場所で、私達は『売り物』としてのケーキの味をその口で味わいました。


「誰にでも優しさを分けられるような味……」

「特に何か加えなくても良い味……何?ココア大さじ9杯入れないアタシが珍しい?今のアタシは真面目に勉強したい気分だから」


 あのショコルさんまでもが真摯な姿勢でケーキを賞味しました。その様子を目の前で見ているあなたは少しだけ戸惑う様子でしたけど、これからに向けて頑張る意思を、確かに感じ取っていました。


「マスター!今日も美味しいケーキをありがとうございます!」

「私達の目指すべきものが、今分かった気がします。どうか最後まで見守っていて下さい」


 私達は深く感謝の意を述べて、喫茶店を後にしました。


   * * * * * * *


 後日、私とショコルさんはそれぞれの自宅の台所でケーキ作りの研究を始めました。


「ショコルさん、上手く出来ていますか?」

「うん!ケーキに使うココアパウダーを大さじ8杯から少しずつ減らして、最適な量を探している所なの!」

「ショコルさんらしいやり方なのですね……」


 私の傍らにはショコルさんの映るスマホかあり、お互いの顔を見ながら通話をして砂糖の量や、焼き時間などの情報交換をしました。本当は隣同士で一緒に作りたかったのですが、毎日自宅に招くのも負担になると思いまして。


「ところでさーバニリィちゃん、こんな事聞くの初めてだと思うんだけど……」

「何でしょうか……」

「直接話すのも緊張する事ならこういう時に話せるんじゃないかなーって思って……言って良い?」

「はい」


 ショコルさんは私に問いました。


「バニリィちゃんが嬉しいって思う事は、何かな?」


「そ、それは……」


「ただし、ショコルさんと一緒にいる時ーとかは無しだからね、それ以外の答えを頂戴」


 私は少しだけ考えて、答えました。


「私は、私が施した事によって誰かを笑顔に出来た時が、一番嬉しいと思います」

「なるほど……アタシはバニリィちゃんに会う前までは、アタシさえ楽しけりゃいいやーって思って、ついバニリィちゃんにも猛烈にアタックしてたんだけど、怖気付いて逃げなかったバニリィちゃんにいつも優しくされるのがすっごい嬉しかったの」

「ショコルさん……そんな事を……」

「アタシもバニリィちゃんの人柄に触れてから、今の所はバニリィちゃんのためにする事を、もっと多くの人達に出来たら良いなって思ってね……!」


 画面の向こうのショコルさんは、私の目の前で今まで言わなかった事を沢山話してくれました。彼女にも、こういう考えがあったんだと、あらためて認識しました。


「……それではショコルさん、引き続きケーキ作り頑張りましょう」

「あいよっ!バニリィちゃん!!!」


 こうして私達は日々ケーキ作りの研究を重ね、カフェイお姉さんが指示した期限前、最後に一緒に私の家で過ごせる日に…………。




「出来た……やっと完成した……!」

「これでアネゴのココロを動かせる……!」




 目の前には、私バニリィと、隣のショコルでしか作れないただひとつのケーキがそれぞれ置いてありました。これをカフェイさんに渡せば、二人の願いがついに叶う……!


「決戦前日って事で、士気を高めとこうね!」

「はい……乾杯!」


 二人で、完成したケーキを食べ合い、明日に向けての気合いを込めたのでした。




 そして、当日。


 ザラメ社の車に乗ってカフェイお姉さんが自宅に来ました。


「さあ、二人のココロの味、ご賞味させていただきます」


 第22話 おわり

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る