第21話 聖なる夜に、告げられた事

 バニリィです。先日少し雪が降ったのかなと思っていたら、日に日に勢いは増していき、気が付いたら私達の住む町がケーキにクリームを塗るように白く染まりました。


 窓から雪景色が見える図書室で、私とショコルさんはいつものように語り合っていました。


「もうすっかり雪が積もっちゃって、アタシ達は歩きで通ってるからまだいいけど、自転車通学の子達はスリップ多発で大変だって聞いてるよ〜!」

「止むなく自転車で行く事を断念して早めに歩いて通学したり、親に送ってもらう人もいますね」

「こういう時こそ、あの暑すぎる季節がまた戻ってきて欲しいと思うよ〜!熱中症にならないぐらいにはね」

「そうね、そういえば今日はまた夜に家に来てくれませんか」

「また、例のアレってやつね……行こうじゃないの!」


 今日はカフェイお姉さんがまた新商品を持ってきて私とショコルさんに味見させるようです。私とショコルさんはこの日の授業も問題なくこなして、二人でスノーホワイト家に行きました。


「今日のショコルさんは焼き菓子みたいな情熱で授業受けていましたね」

「バニリィちゃんのためなら、この寒さを凌ぐほどの熱気で頑張っちゃうんだから!」


 雪の積もる家路を歩きながら語り合う二人。首にはそれぞれクリーム色とチョコレート色のマフラーを巻いています。


「ただいま」

「二人ともお帰りなさい、待っていたよ」

「カフェイのアネキ、今日もお世話になります!」


 先日の新製品のテストのおかげで、新たな商品を発売出来たザラメ社の社員であるカフェイお姉さん。二度目の新商品テストは、どんなものを出してくるのでしょうか。


 すっかり夜は更けて、またあの時と同じようにバルコニーに集まりました。


「さあ、これが二人へのプレゼントです」


 箱を開けるカフェイお姉さん。


「これは……」

「白いクランチにコーヒー豆が!?」


 今回カフェイさんが持ってきたのはクランチクッキーのようですが、バニラ味のコーティングに、砕いたコーヒー豆が散りばめられていました。


「今回は、ザラメ社のある街へ旅立つ前に、バニリィに辛く当たってしまった事を思い出して作ったものです……」


 バニラクランチに沢山のコーヒー豆の破片が刺さっているような見た目は、まるであの時の姉さんの感情が私にぶつかって細かく砕けた破片のように刺さっているような見た目でした。


「バニリィとのあの時のやりとりを思い出しながら考案しました……ですが、色々な想いを込めて、作ってみたのです」

「でも、あれも姉さんが叶えたい夢のためだったから……」

「多くは言いません、食べてみて語って下さい」

「よしっ、食べよっバニリィちゃん!」


 私とショコルさんは、意を決してそのクランチを食べてみました。


 …………!!


「バニラの甘味と、コーヒーの苦味がこんな形で調和するだなんて……!」

「なんか、百年の眠りも覚めちゃいそうな気がするよ!」


 カフェイお姉さんが一言。


「甘味も苦味も、強めにしてみたの。最適なバランスに辿り着くまでに数カ月を要しました」

「そうだったのね」

「これ、悩みを抱えてる今時の若者にはウケるんじゃないかな!」

「そう言ってもらえて光栄です。ではこちらも商品化に向けて検討しましょう」

「姉さん、いつもありがとうございます」

「また新作テスト楽しみにしてるからね!」


 二人で感謝を述べると、カフェイお姉さんはまた何かを言いたい顔を浮かべました。


「そして、今日はもうひとつ、あなた達二人に伝えたい事がありました」

「えっ……?」

「なになに……?」




 カフェイお姉さんが伝えた事、それは……。




「バニリィとショコルのお店を持つ夢を、私達ザラメ社が全力で支えようと思います」




「え……ええっ……えええ!?!?」

「な、なんですってーーー!?!?」


 突然の知らせに驚く二人。


「しかし、それにはひとつだけ条件があります」




 カフェイお姉さんから言い渡された条件、それは……。




「バニリィとショコルが考えたお菓子を、私カフェイに食べさせて下さい」


「ええ……」

「なんとっ!」


「甘い味、しょっぱい味、辛い味は問いません。二人の作ったお菓子がザラメ社の指標に相応しいと思った時、ザラメ社の全面支援をお約束いたします」


 つまり、二人の考えた創作お菓子がカフェイお姉さんのココロに響いたなら、二人はザラメ社の支援を受けられるという事である。


「でも、そんな事……どうして出来るのでしょうか」

「ただのお菓子好きな女子二人なだけなのに!」


 二人の質問に、カフェイお姉さんは答えました。


「私は二年前の夏の終わりに、バニリィとお話した後で、とある社員に全てをお話しました」


 カフェイお姉さんはさらに語ります。


「バニリィとショコルの話を聞いたその社員が、故郷に伝わる昔話が好きで、もしかしたらその二人こそがアリシアとカカオの生まれ変わりではないかとも言っていました」


「あ、あの引っ越し間際にペンダント渡したやつ!」

「私達がその子孫だったって話でしたね」


「やがてその話題は社内にじわじわと伝播して、ついには社長の知る事になりました」


「ザラメ社の社長さんにも……」

「これはさすがにオオゴトじゃないの……」


「今年のある日、私は社長に言われました。バニリィとショコルのお店を持つ夢、ザラメ社を上げて支援してみないかって」


「そんな事に、なるなんて……」

「アタシ達にとっては願っても無かった事だよ……!」


「もちろん、タダで支援するわけには行きません。二人で私のココロに響くお菓子を作ってからです」


「分かっていますね、ショコルさん」

「うん、当たり前じゃん、バニリィちゃん」


 私達も、カフェイお姉さんに言いました。


「「その挑戦、受けて立ちます!!」」


「期限は2月某日、その時までにお菓子を完成させて、私に食べさせる事です」


 ……こうして、夢を叶える最後の試練として立ちはだかる事となったザラメ社社員、カフェイ・スノーホワイト。


 私バニリィ・スノーホワイトと、隣にいるショコル・ブラウニーの想いを込めたお菓子を作る事が、夢を叶えるただひとつの条件。


 やがて年が明けて、新たな一年が始まる。


 この年は、二人の夢を叶え、その始発点からさらなる道を歩む年にする。


 私達二人は、寒空の星達に誓ったのでした。


 第21話 おわり

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