第19話 メルティーオアトリート

 バニリィです。先日はお姉さんが久々に家に帰って来ましたが、その理由は私とショコルさんに新作お菓子の味見をさせるためでした。


 私とショコルの香りを研究して作ったそれは、単体でも美味しく、二つの味を混ぜ合わせたならとても心安らぐ甘味を味わう事が出来ました。


 こうして発売されたザラメ社の新製品『Vanilly&Chocoluバニリィアンドショコル』は好評となり、お姉さんの夢を叶えるお手伝いをショコルさんと一緒に出来て嬉しかったのです。


・・・ 


 秋も深まりつつあるこの日、ショコルさんが慌てた様子で私に近付いてきました。


「ちょっとバタフライちゃんビッグニーズ!!!」

「どうしたのショコル、慌てた様子で……」

「し、失礼!バニリィちゃんビッグニュース!!!」今度、いつも行ってるあのお店で仮装キャンペーンやるんだってー!!!」


 呂律がおかしくなるほどの勢いでショコルさんは私に一枚のチラシを見せた。


「これは……なるほど……いつものあのお店でやるのね」

「仮装して来たお客さんには何かサービスしてくれるって話なの!バニリィちゃんも行くよね!ね!」

「そうですね、この日は特別な用事も無いので、私も行きましょう」

「ありがとー!当日はアタシも何か着ていくからねー!」


 いつものような調子で、私達は仮装していつも寄っているあのお店に行く事になりました。そういえば何の仮装をしていけばいいのかしら……自宅のクロゼットを開けても、あまりピンと来るものは入っていなくて……。


「そうだ、無いなら作ってもいいんだよね」


 ハンカチの刺繍をしていた経験が役に立ちました。手頃なワンピースをアレンジして、柔らかい羽型クッションを背中に着けて、一本角カチューシャも用意して……。


「ショコルさんはどんな仮装をするのかしら……」


 衣装を作っている間は、その事ばかり考えていました。


   * * * * * * *


 仮装キャンペーン当日。


「改めて見ても、ワンピースに着けた星と虹の模様も上手くいきましたね」


 私は思い通りにデザインしたユニコーンの仮装をして出発しました。


・・・


「みんなそれぞれ、思い通りの仮装を楽しんでいるのね」


 喫茶店への道中で、色々な人とすれ違いました。吸血鬼や狼男など、色々な姿に仮装しています。みんなそれぞれの工夫があって見ていて楽しいです。


 さて、例のあの子はどんな仮装をしているのでしょうか……まさか巨大なココアの袋を被って来るのでしょうか……いや、さすがにそれはありえないか……と思っていると。


ポロロ〜ン♪


 後ろから、おもちゃの竪琴の音色が聞こえてきた。後ろを振り向くと、そこには白いワンピースを着て、月桂樹の冠を被り、おもちゃの竪琴を持ったショコルさんがいました。


「こんばんは〜!どうかなこの仮装!」


ポロロ〜ン♪


「その姿は、泉の精霊みたいな感じでしょうか」

「そうだよ!バニリィちゃんも素敵じゃん!それってユニコーン的な感じ?」

「そ、そうよ。伝わってくれて嬉しいな」


 ショコルさんは小さな竪琴を持ったセイレーンの仮装をしていました。どうやらショコルさんも家にあるもので仮装したようで、竪琴のおもちゃは幼少期から持っていたみたいです。


「それじゃあここで立ち話するよりも、あのお店に行かなきゃだよね!」

「ええ、行きましょう」


 ショコルさんと合流した私は、二人一緒にいつものあのお店に向かうのでした。そう、あなたの経営している喫茶店。店のドアを二人で開けました。


カランカラン♪


「「メルティーオアトリート!!!!」」


 私はショコルさんと一緒に、いつもお店を切り盛りしているあなたに決まり文句を言いました。なんというか、その、『お菓子をくれないと溶けちゃうぞ』みたいな感じです……。


「ちょっと恥ずかしいかも……」

「おっ!何だかサービスしてくれる感じ!?」


 あなたは私達にサービスとして、パンプキンシェイクを差し出してくれました。


「あら、これがサービスなのね」

「ありがとーございます!ではいただきます!」


 私とショコルさんはパンプキンシェイクを飲んでみました。


「かぼちゃの味がしっかりしてて美味しい」

「これはさすがにココアは……一杯ぐらい入れてもいいかも!」


 ショコルさんはいつものような入れ方をせず、少しだけココアを混ぜて味わってみました。


「これも美味しい!将来のためにもこのココアパウダーと相性いいものを沢山知っておかなくちゃ!」

「そういう熱心な所もショコルさんの良い所ね……」


 パンプキンシェイクを飲んだ私達は、将来の夢である二人のお店についてのアイデアを話し合っていました。


「ショートケーキは売りたいなと思っています」

「アタシならチョコレートケーキもウリにしたいな!ココア大さじ1杯レベルから9杯レベルまでとか!」

「それもなかなか面白そうかもしれませんけど、ショコルさんみたいな味覚の人が何人いるのでしょうか」

「それに今回飲んだパンプキンシェイクも、すごく参考になる味だったよね!」

「ええ、とても美味しいので、これから売っててもみんな喜ぶと思います」


 私達のお話を聞いて、嬉しそうな表情をするあなた。しかし、お話は思わぬ方向へと向かっていき……。


「でさー、お店を構える所、どうする?」

「それは、出来れば住み慣れたこの町にあるといいですよね」

「ぶっちゃけ理想を言うとね、このお店の位置って色々な意味で最高だと思うんだよね」

「ま、まさかこのお店を受け継ぐとかじゃ無いでしょうね……」

「いやいやいや!これはあくまでも理想だから!他にも良さげな所があれば考えるよ!」


 ついこのお店のマスターであるあなたの目の前で語ってしまった事を、あなたはどんな思いで聞いているのかは、今の私達には分からなかったのでした……。


 そして、帰る時間となりました。


「今日はありがとうございました」

「メルティーハロウィン!!!」


カランカラン♪


 二人がお店から出た後、あなたは考えていました。



「……………………」


 いつもこのお店に寄ってくれるバニリィとショコル。二人のお店を持ちたいという夢を、どうやって支えていけばいいのかを……。


 第19話 おわり

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