第15話 亜麻色の長髪と黒い短髪

 バニリィです。先日の工場見学、社会人としての姉さんを改めて見る事が出来たり、ショコルさんと一緒に美味しいお菓子が出来る様子を見れたりして、楽しい一時を過ごす事が出来ました。


 あのお菓子、プラズパは一日一本食べれば十分な所、ショコルさんはアレを10本一気食いしたとか仰っておりました。二年前の夏のあの日を思い出すだけでもう……私ったらいつまであの事件を引っ張っているのかしら……!


 ともかく、ここ最近は湿気が強くてジメジメした気分が続き、このままではココロまでベシャベシャになって、最悪の場合カビが生えてしまいそうです。そんな気分を打ち消すために、何か出来る事は無いかと考えておりました……。




ざあああぁぁぁぁぁぁ……


 学校の外では雨が降りしきる日、亜麻色のロングヘアーの私はいつもどおり図書室で本を読んでいました。そこに、黒いボサボサの髪のショコルさんが決まってやって来ます。


「バニリィちゃん、何見てるの?」

「ヘアカタログを見ているの、ショコルも見ますか?」

「うん!見てみたい!」


 ショコルさんは私が見るものなら何でも目をキラキラさせて飛びついてくる。今二人で見ているヘアカタログには、主に女性向けのヘアメイクが色々掲載されている。有名なモデルの子達が色々な髪型を明るく華やかに見せてくれる。髪型を工夫すればあなたの香りも広がりやすくなる!なんて事も書かれていた。


「あ!これいい!これいい!これもいい!!!」

「色々あって、目移りしちゃいますね」

「ねえバニリィ、今度の休みに美容室行きたい?」

「そうですね、私もこの中のどれかを試してみたくなりました」

「その意気その意気!良い感じに行っちゃおうよ!」

「いつも勢いだけはすごいの、見習いたい所ね」


 そんな訳で、私はショコルさんと同じ日と同じ時間に美容室を予約した。一体、どのような髪型を選ぶ事になるのでしょうか……。


   * * * * * * *


 美容室へ行く日が来ました。


 私はショコルさんと合流して、隣り合わせの席に座りました。担当するのは二人の美容師さん。私の担当からは抹茶の香りがして、ショコルの担当からは、ほうじ茶の香りがしていました。お互いどんな髪型にするかはまだ内緒なので、美容師には目配せでヘアスタイルをお願いしました。


「それでは、よろしくお願いします」

「バリカン的なやつ、アタシ苦手だから使わないでねー」

「分かりました」


 バリカン……確かにあれは私も子供の頃怖かったのでした。今でもあの不快な音を聞くだけで、今までの厭な記憶が全て掘り起こされるような思いをします。アレが平気な人は一体どうやって慣れたのでしょうか、今の私には想像出来ません……


シャキシャキ、シャキシャキ……


 髪を切って整える音。


「この前友達の姉が仕事してる所に工場見学に行ったの。プラズパ詰め放題もやったんだよ」

「そうでしたか、ザラメ社のお菓子、私も好きなんですよ」


 美容師と他愛もない会話をするショコルの声。


 お店のスピーカーから聞こえる、流行りのアーティストの音楽。


 私の耳には、色々な音が聞こえている。私はちょっとだけ眠るような感じで、出来上がりの時を待っていたのでした……。


 ……こうして、色々な音を聞いているうちに……。


「出来ましたよ、お客さん」

「こんな感じに、なりましたか……」


 私バニリィの髪は、もともと長めの髪を活かしたツインテールヘアになりました。


「思ったよりもすっごい感じ!」


 隣のショコルさんは、ボサボサめの髪を上手く整え、野性味のあるウルフカットになっていました。


「では、新しい髪のお二方、ご対面です」


 ヘアスタイルが完成して、向き合った私達は、お互いの髪型を見つめ合いました。


「……ど、どうでしょうか……!」

「この髪型のバニリィちゃんも可愛い!ツインテールでバニラの風味も2割増している感じだよ!」

「ショコルさんも、思ったより髪が柔らかかったのですね」

「でしょでしょ!雑誌で見てこれやってみたいって思ったから!」

「今日は良い感じに仕上がりましたね、では帰りましょうか……」


 私達がお店から出ようとすると……。


ザア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!!


 ドアを開けた瞬間、目の前を覆うゲリラ豪雨。傘があってもずぶ濡れになってしまう程に。わたし達二人をこの建物に閉じ込めるかのように。


「……ちょっと雨宿りしよっか」

「そうですね」

「ハーブティー、サービスしておきますね」


 美容師が二人にハーブティーを差し出した。遠くの地方から採れた葉を使っているとの事で、優しい風味が染み渡る良い味でした。


「美味しいハーブティーですね」

「うん、余計なもの入れなくても良い感じ!」


 さすがのショコルも、これにココアの粉は入れなかったそうです。後で聞いた話によると、以前どこかで本当にやっちゃって、飲んだら頭の中に銀河が広がったと仰っていました……。


「……やっと、雨が止みましたね」

「また降り出す前にバニリィ家に急ごう!」


 私達は駆け足で家に急ぎました。陽に照らされた雨水が水蒸気となって立ち昇る道を、新たなる髪型になった二人の香りが駆け巡ります……。


   * * * * * * *


「……以上が、この間の出来事でした」

「学校でも、今日の二人の髪型良いねってみんな言ってたんだよ!」


 あなたの目の前には、ツインテールのバニリィとウルフカットのショコルがいます。二人は嬉しさが溢れ出るようにお話しています。


「姉さんにも写真を送ったら、『私も何か変えてみよう』って返事が来たの」

「しばらくはこの髪型で楽しい事色々しようね!」

「ええ、では今度の休日、何かお菓子作りでもしてみましょう」


 新しい髪型となったバニリィとショコル。この二人ならジメジメした季節の中でも、明るく楽しく過ごせる事でしょう。


 第15話 おわり

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