勇者が力を隠す理由〜生まれ持った特殊能力は万能チートではなく、犠牲の上に成り立つ破滅の力でした〜
チドリ正明
第1章 レミーユ・ヴェルシュの興味
第1話 勇者様とは
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勇者は生まれながらにして強大な特殊能力
を有し、高い身体能力と知性を兼ね備えていた。
心には魔王討伐への使命感を宿し、賢者、僧侶、戦士の三名と出会う。
彼らはいつしか勇者パーティーとして名を馳せていき、様々な困難に立ち向かう。
全ては魔王を討伐するために。
力をつけた勇者パーティーは魔王の元へ辿り着いたが、やむ無く敗戦を喫してしまう。
しかし、勇者パーティーは魔王軍に致命的な大打撃を与えることに成功していた。
彼らの犠牲が実り、魔王の侵略は十数年ほど停止することになる。
その間、人類が悲しみに暮れる猶予はなかった。
各国は手を取り合い、時を経て迫り来る魔王の脅威に対抗するために、新たな勇者探しに奔走した。
これまでは勇者候補の中から自然発生的に現れる勇者を探していたが、勇者育成機関——セイクリッド・アカデミーを設立することで、才能を厳選してより効率的な勇者の選定を目指したのだった。
やがて、月日が流れ、魔王は侵略を再開した。
しかし、新たな勇者は一向に現れない。
勇者候補と呼ばれる特殊能力を持った存在は生まれてくるものの、彼らの大多数は勇者になり得ないのだ。
勇者が現れない以上、仲間となる存在も意味をなさない。
今も尚、人類は魔王の脅威に怯えて暮らしている。
まだ現れぬ救世主を夢に見ながら……震えて夜を明かすのだ。
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これは勇者様と魔王の闘いを記した文献の一節です。
今では、世界の半分以上が魔王の手中にあり、人類は絶望的な状況に陥っています。
私が在籍しているアルス王国の勇者育成機関——セイクリッド・アカデミーは、危機に瀕した世界を救い出せる勇者様を見つける為の機関でした。
勇者、賢者、僧侶、戦士を目指す為に四つのコースが設けられており、勇者候補の中から本物の勇者様を見つけ出し、勇者様の仲間となる存在を育てる事を目的としています。
当初は自然発生的に現れる勇者様を待ち望んでいたようですが、それではあまりにも効率が悪いということで、各国はアカデミーの設立に乗り出したのです。
それが数十年前の話。
各国には同様の機関が幾つもありますが、中でもアルス王国は特別でした。
その理由は、アルス王国には数千年前の勇者様が残してくださった聖剣があるからです。
しかし、そんな策を講じても尚、百年前を最後に勇者様は現れていません。それはつまり一度として聖剣を抜ける人物がいなかったことを意味します。
本来、勇者様は魔王を殺せるほどの強大な特殊能力を持つ『勇者候補』という、特別な存在の中から選ばれるのが当たり前ですが、そう上手くはいかなかったのです。
というのも、勇者候補の絶対数が限られているせいで、アカデミーは慎重に慎重を重ねた生ぬるい教育ばかり続けているからです。
おかげで人材が殆ど育っていないのが現状です。
過去には未熟な勇者候補から優秀な勇者候補まで……多くの勇者候補を魔王討伐へ赴かせたこともあるみたいですが、そのどれもが失敗に終わっています。
聖剣を持たない勇者では力不足だったのでしょう。
そんな状況に私は辟易していました。
私たちエルフの英雄である賢者モルド様が百年前の勇者パーティーに所属したように、私も賢者として世界を救いたいと考えていたのに……アカデミーの現状は悲惨そのものです。
アカデミーに入学して一年になりますが、このままいけば勇者様が現れることなく人類は滅びるでしょう
そう悲観していたある日のこと……。
私はある一人の人間の姿が目に止まりました。
ふと興味が湧いたので何の気なしに声をかけてみたのです。
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