番外編

番外編:独断と偏見で選ぶリゾラメTier表〜白き腕のヴァレンタイン編〜

 ……これは月代チヨにクローディアが奪われてから、大まかな作戦を固めたあとの一幕。


「アカリがヘルメスを、私とヴァレンタインがチヨを相手にする――そういう想定で進めるんだよね」


「ええ。私が彼なら儀式を妨害されないために、儀式の中心地を守るように陣取るもの。チヨがクローディアを連れ去ったのも、ヘルメス以外の真祖の断片が必要だったから、という理由もあるでしょうし」


「……作戦を固めるのはいい。だが我々は敵の手の内を知り尽くしているわけではない。結局は出たとこ勝負となる。それを忘れるな」


 ヴァレンタインが釘を刺す。


「そうだね。となると、あと考えるべきは――」


「デッキね。シズク、あなたは決闘に勝利してクローディアをチヨから取り戻したい。そうでしょう?」


「うん。まだ話したいことも、聞きたいことも、たくさんあるし……なにより、あの子を放っておけない」


「なら考えるべきはどんなカードをデッキに入れるべきか――ね。というわけで、ユイ!」


 アカリが指をぱちん!と鳴らすと部屋の扉を開けて青髪のメイドが一人、ホワイトボードを押して入ってきた。


 ちなみに今シズクたちがいるのは「太白館」一階のダイニングである。


 メイド――ユイはテキパキと準備を始める。


 ホワイトボードを設置し、肩から下げていたバッグからプロジェクターとノートPCを取り出し、ケーブルで接続し、ホワイトボードにスライドを投影する。


 あれ? 思ったよりだいぶ手が込んでるな?

 そんなシズクを置き去りにしてユイがホワイトボードの横で一礼する。


「では、不肖この斑鳩ユイがおすすめカードの解説をさせていただきます」


「え、えっと……はい。よろしくお願いします?」


 ふん、とアカリは呆れたふうに腕を組む。


「ユイ、カッコつけなくていいわよ」


 するとユイは真面目な相好を崩して破顔する。


「にゃはは。誰かにリゾラメのレクチャーするなんて久しぶりだから、真面目にやりたくなっちゃって……」


「変に気負わなくていいってば」


「ではでは。改めて。知ってると思うけど自己紹介を。私は斑鳩いかるがユイ。メイド業務の傍ら、あかりんの練習台をしてます! リゾラメにはちょぉっと煩いカモだけど、よろしくね。しずしず!」


「よ、よろしくお願いします……?」


「気にしないで。それじゃ、さっそく始めてくれる?」


 ユイは「あいさー」と答えるとリモコンでスライドを操作する。


 スライドには「リゾラメとは……〇〇〇〇〇が全て!!」と大きな文字で書かれている。


「まず、リゾラメにおいて最も重要なカードが何か、しずしずは知ってるかな?」


「えっ……うーん…………眷属……いや権能?」


「うんうん。どっちも確かに大切だね。でもよく思い出してみて。リゾラメの勝利条件を」


 深紅断片クリムゾン・フラグメンツの勝利条件、それは――


で、相手プレイヤーを攻撃――――あっ」


「そう! つまりリゾラメは――真祖の断片がすべて!!」


 スライドの伏せ字部分がアニメーションでくるっと回転し、「真祖の断片」の五文字となる。無駄に手が込んでるスライドだ。


「真祖の断片の登場条件と効果テキストによってやるべきこと、組むべきデッキ内容はまるで違う。……つまり、レンくんのデッキではTier1クラスのカードも、くーちゃんのデッキではTier5……ゴミカードになるかもしれない。まずはこの点を覚えておいてほしい」


 切り替わったスライドにはヴァレンタインとクローディア、二人をモチーフとしたと思しきミニイラストが描かれていた。色使いやデフォルメの仕方がこなれており、お金が稼げそうなクオリティだ。


「たとえばレンくんの登場条件は墓地に権能が5枚ないといけないから、デッキは必然的に権能が多めのものになる。眷属はあんまり入れられないわけだ。

 一方、くーちゃんの登場条件はフィールドに自分の眷属が3体以上。つまり、序盤に眷族を3体フィールドに出せるようなデッキにしたい。

 デッキの組み方、考え方がまるで違うってワケ」


「それに加えて真祖の断片が持つ効果も考慮することになる」


 と横からアカリが言う。


「たとえばヴァレンタインの効果には墓地から眷族を召喚するものや、墓地の権能を使用するといったものがある。つまり墓地にカードを送る、ということが大きなデメリットにはならない」


「だから《痛み分け》や《廃棄処分》みたいな、自分のカードを捨てるタイプの権能を惜しみなく使える」


 シズクの言葉にユイが「イエス!」と大きな声で答えた。


「というわけで、これがリゾラメの大前提。真祖の断片同士の相性が悪ければ、どんなに上手くデッキを組んでも負けてしまうことすらありうる……君たちは自分の魂を賭け金に、そういうゲームに挑んでいるってことを自覚したほうがいい」


 ユイの言葉にシズクは説得力を覚えた。流石は経験者。それも、前回の奉魂決闘における準優勝者だ。


「さて、そこで今回はレンくんの効果テキストと相性の良いカードでTier表を作ってみました! あくまでも独断と偏見だし、たぶんこれからしずしずもカード生成すると思うから、あくまで参考程度にとどめておいてね!」


 ユイがリモコンを操作しスライドを切り替える。


「ではさっそくTier0から! 《廃棄処分》! 以上!! おわり!!!!」


 ホワイトボードには《廃棄処分》のカード画像と効果が映し出されている。


 【権能】《廃棄処分》

 行動権-1。自分の手札を任意の枚数捨てる。捨てた枚数-2回分の行動権を得る。


「……さっきはああ言ったけど、真祖の断片の効果に関係なく強い効果というものも当然存在する。それが、行動権を追加する効果ね。

 なんせリゾラメは使えるマナが毎ターン1で固定されてる。ターン経過で利用可能マナが増えることはないし、マナを使わなかったからって、次のターンに持ち越すこともできない」


 その説明を聞いてシズクが訝る。


「マナ……?」


「カード使用時に支払うリソースのことね。リゾラメの用語で言えば行動権のこと」


「おっと。別ゲーの用語出すのはよくなかったね。ごめんごめん。……ま、要するに1枚のカードでどれだけ行動権を稼げるかが一つの判断基準になるかな。そういう意味で、効果で権能を発動したり眷族を召喚したりできるカードも評価は高くなりがち。あの辺は実質行動権を1稼いでるようなものだから」


「なるほど……」


「さて。それを踏まえて《廃棄処分》の何が嬉しいかって話なんだけど……なんと言ってもレンくんとの相性がいい! カップルと言っても過言じゃないね」


「過言だ」


 ヴァレンタインが即座にツッコミを入れたが、無視してユイは続ける。


「レンくんの登場条件で参照されるのは権能の使用回数じゃなくて、権能が何枚自分の墓地にあるか。つまり、手札を捨てる効果で墓地を肥やしていけば、そっちの登場条件は割とすぐ満たせるってわけ。

 ……もちろん、手札が0枚じゃあせっかくの行動権を無駄にしかねないけれど……そこは【生命転化】でカバーできるからオッケー」


「あのズルいやつ!」


「ズルくない。文句ならヘルメスに言え」


「そうよ。ルールで許してるほうが悪いのよ」


「カードゲームってルールで認められてるズルをどれだけ重ねられるかの勝負みたいなとこあるからねぇ〜」


「わ、私の味方が一人もいない……!?」


「ま、実際【生命転化】の引き直し効果が『カード枚数5枚未満なら5枚まで引ける』って仕様じゃなかったら、《廃棄処分》のランクはもうちょい下だったかもねぇ。発動時に行動権を消費するタイプの権能だから、行動権収支としては手札4枚捨ててようやくプラスって感じだし」


 なるほど。評価としては行動権を稼げるから強い、というより「手札を墓地に送れるから強い」という面の方が大きいのかもしれない。シズクはそう理解する。


「さて、じゃあ次はTier1いってみようか。《廃棄処分》に比べると控えめだけど、こっちも私としてはかなりオススメ」


 スライドには3枚のカードが映し出されていた。



 【権能】《有能な執事》

 カードを1枚引く。1回分の行動権を追加で得る。



 【権能】《棺の増産》

 山札の上から3枚を墓地に置く。



 【眷属】《博識な見習い魔術師》

 種族:キャスター

 召喚時に以下の1, 2から一つ効果を選んで発動する。

 1. 山札から権能を1枚選んで手札に加える。その後山札をシャッフルする。

 2. 手札の権能を1枚コフィンエリアに置く。山札から権能を1枚選んでコフィンエリアに置く。その後山札をシャッフルする。



「……なるほど。この辺のカードが強いってことは説明されなくてもわかる。

 《有能な執事》は行動権消費なしで使える権能だから行動権純増でドローまでできるところが良いし、《棺の増産》は行動権消費なしで墓地にカードを送れるのが良い。そして、《博識な見習い魔術師》は2枚の権能を一度に墓地に送ることができるのが良い。あと地味にライフ・カードの破壊にも使える」


 満足げにユイがうなずく。


「そういうこと! しずしずも分かってきたね!」


「そ、そうですかね……ていうか、《ギガントグール》はここにも入らないんですか? 戦闘力は高いし、一度にライフ・カードを2枚も破壊できるし、けっこう強そうだったのに」


「んにゃーアレも悪くはないんだけど……召喚条件の『怪物3』がねぇ……問題でねぇ……」


「というと?」


「えっと、『怪物n』って召喚条件は墓地の眷属をn体ゲームから除外しないと召喚できないってことなんだけど……レンくんの効果ってさ、自分の眷属すべてに蘇生を与えるやつじゃん? つまり眷属を墓地から召喚できるようになるわけじゃん? なのに《ギガントグール》は墓地にある眷属を1回召喚するごとに3体も持っていくじゃん? …………そこがねぇ」


「な、なるほど」


「あと、レンくんのデッキは権能多めになりがちって話さっきしたでしょ? だから、そもそも3体の眷属を要求してくること、それ自体がかなーり重いんだよね」


「た、たしかに……」


「《ギガントグール》はくーちゃんのデッキのが採用しやすいかな、と私は見るね。眷属を墓地へ送るだけなら【生命転化】とか《超☆爆発アルティメット・スーパー・スター・ヴァニッシュメント・エクスプロージョンC4》みたいな盤面を更地にするカードとか、やりようはあるし」


「ユイ。そのカード、もう《超☆爆発アルティメット・スーパー・スター・ヴァニッシュメント・エクスプロージョンC4》って名前じゃないわよ」


「おっと。そうだってね……《超爆発》、か……」


 ユイは少し考えて、


「………………………………やっぱりさ、なかったことにしない?」


「え?」


「だってさ、結局あれって、くーちゃんが自分の真名を隠匿するって目的を悟られないための巻き添えだったんでしょ?」


「なんでそれを」


「盗聴器の音声を聞いてたのはユイよ」


 アカリが言う。なるほど、それなら知ってるはずだ——と納得してしまったがそれどころではない。


 ユイがシズクの肩を掴む。


「あの時はかっこつけてあかりんに合わせちゃったけどさ……その理由を聞いちゃったらさァ…………話、違ってくるじゃん………………?」


「ひっ」


 警備員の屍食鬼に襲われた時の何倍も怖い。シズクは怯えていた。


「知りたい……? ねえ知りたいかなしずしず? どうして私がこんな、怒ってるのか」


「は、はい……」


 強制的に言わされたようなものだった。


「それはねぇ……その辺のカードがねぇ……私の思いをベースに生まれたやつだから、なんだよねぇ…………!」


 肩を掴む力がより強くなる。圧力とは面積が小さいほど高まるもの——ユイの繊細で華奢な指先から伝わる圧力は針がごとくであった。


「はっ……えっ……!?」


「ねえしずしず?」


 うってかわって猫撫で声で、ユイが言う。


「これから、しずしずにもたくさんカードを生成してもらおうと思うんだけど…………ああ、気持ちよさで頭バカになったら首切りでリセットしてあげるから食人の心配はしないでいいよん」


「く、首切り……!?」


「へーきへーき。あたしも通った道なんだからさ。それで大学の一限出たりしてたし」


 眠気がすっきり取れて便利なんだよねぇとユイは続けた。


「アカリ! この人頭おかしいんじゃないの!?」


「だからこそ【集血の決闘】に臨めた、とも言えるわね」


「解説してる場合か————!」


「そんで、もし強いコンボを見つけたらそれがたとえ大切な思い出を踏みにじるような結果になるとしても、使ってもらうから。なにがなんでも、あのバカ娘連れ戻してもらうから。覚悟、してよね?」


「……は、はい」


 肯定以外の選択肢は、なかった。


 けれどその一方で、シズクは楽観視していた。大切な思い出がカード化される、というのはいいとして、それを踏みにじることになるような凶悪コンボなど見つかるはずがない。


 ————そう、楽観視していた。



独断と偏見で選ぶリゾラメTier表〜ヴァレンタイン編〜・了

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