21 / 疑似断片

 空中の扉から、神社の境内に降り立つ。拝殿の方を見ればチヨが右手側の林の方へ顔を向けていた。


「……ヘルメスが、消えた……?」


 ぼそりと呟く。それから目を細めて、


「アカリちゃん、やっぱり底が知れないなぁ……うん。それじゃあ」


 チヨの目がこちらを向く。


「シズクちゃん、あなたを服従させたらアカリちゃんと戦ってもらおうかな」


「————っ!」


 そうか。ヘルメスがわざわざ例外的に「勝利の強制」だけは有効としたのは、チヨの意図を汲んでのことか。


「……随分と、弟子思いの良い師匠を持ったみたいだね」


「子供っぽいのが難点だけどね♧ ま、扱いやすいという意味では助かってるかな◇ ……さて、と」


 チヨが、クロちゃんの肩に手を置く。


「それじゃあ改めて、【瀝血燎原】を——」


「————っ! チヨ、まだ諦めてなかったの……?」


「諦める?」


 きょとん、とした顔をチヨはこちらへ向けた。


「何言ってるの。そうした方が良いって勧めてくれたのはシズクちゃんでしょ。もしこの場に他の契約者、真祖の断片がいるなら、私の決闘の相手がその誰かになるかも————って。それに、同じことはシズクちゃんにも言えるんだよ?」


「つまり、チヨ側の真祖の断片か契約者が、ここに居るかもってこと……?」


「そういうこと♡ もちろん私はそんなことしてないけどね◇ でも、どうせならセラちゃんに山を焼いてもらって証明した方が良いでしょ? そうして、あなたたちは焼け野原になった付夜山を見るたびに思い出すの。あれをやったのは、自分たちだってね……♤」


 つまり、第三者がいるかもしれないから、なんてのは方便で。

 チヨの目的はただ、山火事を起こしたという罪をクロちゃんに背負わせること。

 そして、その原因を作った私に責任感を感じさせて苦しめること。

 ただそれだけだ。


「……どうして。どうして、ただ私達を苦しめるためだけにそこまで————そうなった時、一番苦しむのはチヨなんじゃないの……?」


「苦しむ? 私が、罪悪感に?」


 ふっ、と嘲るようにチヨは嗤った。


「私にそんな、あるわけないじゃん」


 ————資格?


 その言い方はまるで、私の言葉を暗に肯定してるように聞こえる。


 まさか、と口を開きかけた。その時だった。


 空から飛んできて、私達の間に着地する一つの影。赤いチャイナドレスの巨乳美女、リリネットだ。


「間に合っタ! アカリからの伝言! 伝えるヨ!」


 彼女は私の方へ駆け寄ってくると、言った。


「ヘルメスの無力化に成功! なんかうぎゃーって感じデ! すごかっタ……!」


「う、うん……」


 なに一つ伝わってこないけれど、まあいいか。


「あとモいっこ! シズクの霊札アニマ・カルタ、もうナイって!」


「つまり、チヨはもう私の魂を魔力リソースとして、何かに使った……?」


 奉魂決闘のシステムでは通常、霊札を魔力リソースとして運用するなんて不可能だ。だけど、チヨにはその奉魂決闘の運営者、ヘルメスがいた。

 横紙破りはお手の物というわけだ。


「アカリちゃん、そんなことまで教えてたんだ。……ま、話が早くて助かるけど♡」


「——永続化の儀式は既に完了している。そういうことだな?」


 ヴァレンタインが確認するように尋ねる。


「そういうことです。なので……せっかく来てもらって申し訳ないのですが、シズクさんの霊札はもう、返せません。だから、決闘にも意味なんて……」


 答えたのはクロちゃんだった。チヨはヴァレンタインを一瞥もせず、


「さて、と。なんか乱入されちゃったけどどうする? シズクちゃん?」


 答えるかわりに、私は自分の霊札を引き抜いた。


 宣言する。


「——決闘開始デュエルム・イネムス


 セカイが塗り変わる。

 さっきまでいた決闘空間だ。漆黒の空を血の魚たちが泳ぎ、大地は漂白されたように真っ白。周囲には墓標のごとき十字架の立ち並ぶ。

 宙に浮遊する円卓も椅子も、すでになく。

 あるのは決闘を行う者たちのために用意された専用テーブル——決闘卓。


「対戦相手はもちろん、チヨ」


「だよね◇」


 私はデッキをセットすると決闘卓の端に設けられた刃で指の腹を切る。指を押しつけて、血を決闘卓に吸わせる。


 対面を見れば、チヨの側も慣れた様子で同じく決闘卓に指を押しつけていた。


 宣誓の声が重なる。


「「真祖の心臓に誓う。我が血と魂を賭けて、誇りと覚悟を胸に戦うと」」


 ふと横に目をやると、リリネットは腕を組んで胸を保持しながら私達の様子をじぃっと見ていた。

 おそらく、倉見に頼まれて私達の戦況を確認するつもりだろう。


 ……それにしてもおいしそうな身体をしている。


 いや、今はそんなこと考えてる場合じゃないか。ぱちんと自分の頬を叩く。


「暁シズク。アカリから念話が来た。リリネットの報告と同じ内容だ」


 真祖の断片とその契約者は念話という一種のテレパシーで会話ができるらしい。もっともそれにはお互いがお互いに心を許す必要があり……クロちゃんと私との間にそういうことが起きなかったのは、アカリの考えによると、クロちゃんの側が心を開いていなかったからだろう、とのことだった。


 アカリが念話での情報共有を試みたのは、リリネットが間に合わなかった時に備えてのことだろう。

 アカリは依然ヴァレンタインの契約者だ。この決闘によって時の止まった現実世界の中でも、思考・活動ができる。


 ……とはいえ、リリネットの到着から随分と遅れての念話は気になる。このタイムラグを思うに、ひょっとするとアカリは相当なダメージを受けていて、念話を行うこと自体が難しい状態なのかもしれない。


「はいはーい。シュウからの質問デスッ!」


 ……と、呑気な声で挙手したのは、リリネットだ。豊満なおっぱいが揺れている。

 さては彼女、インナーを着けてないな?


「……………………とのコト、デス!」


 一際大きく胸が揺れて、リリネットは倉見の代弁を終えた。


 ————どうしよう。胸に集中しすぎて質問の内容聞いてなかった。インナーはつけてないっぽい。


「シズクさんの魂は特別なんです」


 あ、良かった。クロちゃんが答えてくれるっぽい。

 倉見の質問は私の魂についての話のようだ。おそらく「なぜチヨは私の霊札アニマ・カルタを儀式に使ったのか?」とでも訊いたのだろう。


「そもそも、今のシズクちゃんに魂はないんだけどね◇ 上級屍食鬼グレーターグールだから。あっても魔力リソースとして見做せるほどの量じゃあない。……だけど、シズクちゃんには『疑似魂魄』とでも呼ぶべきモノがある。つまり、霊札アニマ・カルタに変換されているのはソレってわけ♡」


 クロちゃんの言葉に続けて、チヨが説明してくれた。


「モいっこ質問デス! 霊札って魂を5分割したモノなら、元の魂がどんなに少なくても5分割できるのデハ——ってシュウは言ってルケド、そのヘンどうなノ?」


 私が、「上級屍食鬼である私に霊札がある理由」として立てた仮説だ。どうやら、倉見も同じ発想に至っていたらしい。


 が、チヨは首を横に振って否定する。


「それは無理♧ 理論上はできるかもだけど、水の一雫ひとしずくを五つの器に分けるようなものだからね◇」


 ……それにしても、意外だ。てっきり、チヨは「そんなのあとでアカリちゃんにでも聞いてきなよ」とか言うのかと思ったけれど……いや、でも思い返してみれば、普段のチヨはけっこう世話焼きなところがあった。


 もしかしたら、私やクロちゃんへの態度は「自分は今の暁シズクを認めるわけにはいかない」とか「自分は黒沼セラを許してはいけない」とかそんな風に自分で自分を縛ってしまった結果————なのかもしれない。


「ジャーその、疑似魂魄ってナニ?」


「……シズクちゃんが魂を喪失したとき、、誰かさんが虐殺してくれたおかげで周囲に主を失った魂がたくさんあったみたいなんだよね」


 チヨがざわとらしく言う。


「肉体なき魂は肉体を求め、魂なき肉体は魂を求めた——そうして、シズクちゃんにはたくさんの人の魂が宿った。だから、シズクちゃんの持つ疑似魂魄は高密度の魔力リソースでもあるってわけ◇」


 アカリからも同じ話を聞かされた。どうやらそれが彼女たち二人の共通見解らしい。

 どうしてそう思ったのか、までは聞けてないけれど事実として儀式は成功してしまったらしいし、私に疑似魂魄とやらがあるのは事実なのだろう。


「…………ふんふん。シュウから追加の質問デス! それって人格などに影響はあるノカ?とのコト!」


「ないよ」


 即答だった。


「疑似魂魄がちゃんと魂の代替として機能するなら、シズクちゃんは谷間愛好者クレバレッジ・アディクトなんて呼ばれてない。私が着替えるたびにじめっとした目で凝視してきたりなんかしない。プールでよだれを垂らして注意されたりしない」


「ちょっと待って、2つ目と3つ目は小学校の頃の話でしょ!?」


「2つ目は中一の夏休みごろまで続いてたよ」


 チヨの目が怖かった。


「…………ごめんなさい」


「ともかく、上級屍食鬼としての本能を獲得するはずがない」


 もしかしなくても、私の不甲斐なさがチヨに道を踏み外させてしまったのでは……?


「オッケー! シュウからの質問は以上ダヨ! たしかにあの子の視線すごいよネ!」


 あっやば。リリネットにもがっつりバレてる。

 自分の食事衝動を自覚したせいだろうか、普段よりも視線が明け透けというか……胸を見たくなるのが止められなくなってる気がする。


「……じゃあ、始めよっか谷間愛好者クレバレッジアディクトちゃん」


 怒ってるな、これは。なんだか気迫が尋常じゃない気がする。声の調子は平坦なのに——いや平坦だからこそ、何かぞっとするものがある。


 私は頷いて、クロちゃんを見た。この空間、私以外の女の子みんな巨乳だ。

 いや違う。そんなこと考えてる場合じゃない。

 頬を叩いて自分に喝を入れる。


「……クロちゃん。私の霊札がもう返ってこないから、私達にとってこの決闘は意味がない——ってさっき言ってたけど、そんなことはないよ」


「?」


「私の霊札はたしかに帰ってこないかもしれない。それでも、幼馴染の暴走を止めることと、クロちゃんを自由にすることなら、できるはずだから——」


 チヨがこちらを睨む。私の言葉が不服だったらしい。


 そりゃ、常日頃から暴走してるような女に暴走してると言われたらムカつくだろうけれど。


 この状況を招いたのが私の不甲斐なさによるものだとしたら尚更、私はチヨを止めないといけない。彼女が、これ以上罪を重ねる前に。


「真名拘束。真紅の血のクローディア————黒沼セラの陣営に要求する。チヨ、あなたがやろうとしてることを今すぐに中止して。それに加えて、クロちゃん——黒沼セラを解放して」


「どうして……私まで……」


 クロちゃんが呟く。どうしても何も、知り合いが苦しめられてるならそれをなんとかしたいと思うのは普通のことだと思うけれど。


「へぇ♧ 真名拘束、ね……ふふっ」


「……?」


 焦りも驚きもしないのは想定の範疇。だけど、笑った……?


「それ、通らないよ◇」


「え——————?」


『真名拘束、不成立。擬似的な真祖の断片に、真名のコールは行えません』


 チヨの言葉を肯定するように、アナウンスが流れた。


「どういうことだ? 何故真名拘束が通用しない……?」


 問うのはヴァレンタイン。

 私達の狼狽がおかしかったのだろうか。チヨはさらに笑う。


「あはははははは!! あーおっかしい。自信満々で宣言したのに残念だったね♡ そのマヌケヅラ見てたらさっきまでの苛立ちとかどうでもよくなっちゃった◇」


 それはなんとなくウソな気がする。


「ねぇ、もしかしてさ、私がセラちゃんを上級屍食鬼に戻したのは、ただ【瀝血燎原】を使わせるためだと思った?」


 正直、私はそう思っていた。


「まさか、決闘でも上級屍食鬼にしておく理由があるとでも……?」


 ヴァレンタインも同様だったらしい。


「今のセラちゃんは、真祖の血の効力が上級屍食鬼の心臓によって抑制されている。……その結果として、決闘奉魂のシステム上では『擬似的な真祖の断片』として見做される。そういう風に、ヘルメスがいじってくれた」


「またあいつか……」


「信用ならぬ男とは思っていたが、よもやここまでとはな……! 運営が特定勢力に肩入れするなど、運営の風上にも置けん——!」


 ヴァレンタインがすごく真面目なキレ方をしてくれた。


「それはごもっともだけど、」


 チヨも頷く。


「だけど、永続化した奉魂決闘で必要になるってこともあってね♡ ま、詳細は夜が明けてからのオタノシミってことで◇」


「……で、今のクロちゃんもその『擬似的な真祖の断片』だから、真名拘束は使えないってこと?」


「そういうこと。そもそも、真名って概念自体が真祖の断片にしか適用されないモノだしね。だから、シズクちゃんの要求も拒否させてもらうよ。何度だって拒否させてもらう。たかがカードゲームに負けたらぜんぶおしまい? 冗談じゃない」


 ……それは、契約者みんなが思うことだと思うけれど。


「ま、そういうワケだから。……ああでも、もう一つの要求を私の言う通りに変更してくれたら良いよ」


「嫌な予感がするんだけど……それは、なに?」


 チヨは隣に立つクロちゃんを指差した。


「セラちゃんに自分で自分を食べてもらうの」


「————っ!」


「死にたいならさ、勝手に一人で死ねばいい……そう思わない? それにホラ、今なら上級屍食鬼になってるんだからシズクちゃんに食べてもらうまでもなく死ねるかもよ? セラちゃん、これってナイスアイデアじゃない?」


 クロちゃんは言葉に迷ったようだったが、最終的に首肯した。


「えっと……はい。そう、ですね。なんで今まで、自分で思いつかなかったんだろう。それが、良い……うん、そう思います。自分で自分の始末がつけられるなら、それが良いですもんね……」


「うんうん! 心が弱いセラちゃんは痛みで自殺を中断しちゃうかもだけど、それもエクストラ・ペナルティの強制力があれば成し遂げられ——」


「————黒沼セラの陣営に要求する。チヨ、あなたが黒沼セラと結んでいる契約の一切を破棄し、命令権を破棄し、黒沼セラを、自由の身にすることを。そして、黒沼セラには自殺を禁止する」


 遮るように、私は再度エクストラ・ペナルティの要求を行っていた。


 チヨがあんなことを言うのを、これ以上聞いていたくなかった。


「……ふうん。そんなにセラちゃんが欲しいんだ? しかも自殺を禁止ってことは……そんなにおいしかった? この子の身体は」


「そんなんじゃない」


「口ではなんとでも言えるよね。わかってるのかな、我慢できずにセラちゃんを食べようとしちゃったシズクちゃんの人間ごっこに、説得力なんてないってこと」


「たしかにクロちゃんの舌も血も……思い出すだけでたまらなく欲しくなる」


 にわかに口内を満たしたよだれを飲み込んで、


「そんな私が、何を言っても説得力なんてないのはわかってる。……でも」


 血肉を欲するお腹を抑えて、


「クロちゃんには、死んでほしくないんだ。おいしいからとかそんな事情抜きに…………知り合いが死ぬのとか、苦しい思いをするのとか、嫌でしょ?」


「たとえそれが、自分のことを自殺の道具くらいにしか思ってない相手であろうとも?」


「当然」


 そもそも、私は自殺しようとしたところを、あのおねえさんに救われた身。


 たばこのにおいと赤と黄色の神秘的なオッドアイ。彼女に飛び降りを止めてもらえたから、私は人間として生きられたんだ。


 だから、あの人に救われたように私も、誰かを救いたい。


 それが私の我侭エゴだ。


「…………シズクさん。私、言いましたよね。人を殺したって」


 クロちゃんが声を震わせて、言う。


「忘れてませんよね。シズクさんの両親を、殺したって言ったこと……それでも、同じことが言えるんですか?」


「言うよ。何度だって言う。……たしかに、人殺しの過去は変わらない。変えられない。でもさ、これから人を殺さずに罪を償って生きていきたいと思えるなら、それでいいんじゃないかな?」


「どうして、そこまで……」


「私には怒る資格も贖罪を求める資格もないからだよ。それは、チヨの言うところの『本物の暁シズク』のものだから」


 そもそも今の私に、私を生み育てた両親の記憶はない。私の家族といえば父方の親戚にあたる桜木家であって、本当の両親のことは、写真でしか見たことがない。


 だから、こんな言い方は良くないけれど——私にとっては、赤の他人にも等しいのだから。


「へえ。認めるんだ。自分がニセモノだって」


「たしかに、チヨの視点では私はニセモノだろうね。……今の私とチヨが執着する暁シズク。両者は身体こそ同じだけど、その記憶も感情も心も、連続してはいない——だから私とはまったくの別人だとは、私も思うし」


 結局、私は私でしかなくて、チヨの知る暁シズクではないのだ。


 海水の一滴が海そのものではないように、暁シズクの残滓である私もまた、暁シズクではない。


「…………私、シズクさんのことを勝手に、私を罰してくれる人だと思ってました……事情を話せば、私の死を望んでくれるに違いないと…………でも、違うんですね…………」


 クロちゃんを横目に見て、チヨはわざとらしくため息をついた。


「あーあ。つまんないこと言うからセラちゃんががっかりしちゃったじゃん。…………じゃ、こっちの要求ね。私に絶対服従。私の命令には絶対に従うの。たとえそれが、セラちゃんを食い殺せって内容だとしても、ね」


賭けアンティを認識。敗者は勝者の要求に従うエクストラ・ペナルティを負います』


 荘厳な鐘の音が賭けの内容が確定したことを告げる。


 私が要求するのは、クロちゃんの自由。そしてチヨが要求するのは、自身への絶対服従。


「先行後攻はランダムで、良いかな?」


「うん」


 私が了承すると、空を泳ぐ魚の群れが円を描くように回りだした。そうして何巡かすると……私の側で止まった。


『先攻は【白き腕のヴァレンタイン】陣営』


 ライフ・カードを展開し、カードを5枚ドローする。そして、


「……ライフ・デッキの残りカードをすべて山札へ追加」


「へえ。デッキ・アウト対策かな」


 チヨが目を細めた。私は答えない。


「まあいいや。それじゃ、さっさと始めてさっさと終わらそ」


 チヨもライフ・カードを展開し、ドローした5枚のカードを手に持つ。


「人生最後の自由時間を、どうか楽しんでねニセモノちゃん♡」


「……チヨ。ここで降参して、立ち止まってはくれない……よね」


「あはっ。するわけないじゃん。私はもう、取り返しのつかないことをしてるんだから」


「警備員さんを屍食鬼にしたこと?」


「………………」


 チヨは答えない。答える気がないのだろう。


 仕方ない、切り替える。


「じゃあ……いくよ」


 ふう、と息を吐き。心を整えて、力強く宣言する。


「――私のターン! ドロー!」



(続く)

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