第12話 滅びの危機
(さーて、王様とやらは一体どんな
と、春風が心の中でそう呟いていると、クラリッサに「ウィルフレッド陛下」と呼ばれた王冠をかぶった男性が、スッと立派な椅子から立ち上がって口を開いた。
「はじめまして、異世界より召喚されし『勇者』達よ。私の名は、ウィルフレッド・バート・ルーセンティア。先程、我が娘クラリッサが話した通り、このルーセンティア王国の国王である」
そう自己紹介した男性ーーウィルフレッドを見て、クラスメイト達が皆、ゴクリと生唾を飲んでいると、
「そして、こちらにいるのは我が妻にしてルーセンティア王国王妃、マーガレット・フレヤ・ルーセンティア。その隣にいるのは、もう1人の我が娘にしてクラリッサの妹である、ルーセンティア王国第2王女、イヴリーヌ・ヘレナ・ルーセンティアだ」
と、ウィルフレッドは自身の隣に座る女性と、その更に隣に座る少女を見てそう紹介した。それに合わせるように、マーガレットと呼ばれた女性と、イヴリーヌと呼ばれた少女は、春風達に向かってペコリと頭を下げた。
そんな彼女達を見て、女性とクラスメイト達も、皆、大慌てでペコリと頭を下げた。当然、春風もキチンと皆に合わせて頭を下げた。
そんな春風達を見た後、
「さて、勇者達よ。突然の事で皆、困惑しているようで申し訳ないのだが、どうか落ち着いて我々の話を聞いてほしい」
と、ウィルフレッドは真面目な表情でそう言うと、女性とクラスメイト達はザワザワとそれまで以上に困惑し出したが、
「……」
ただ1人、春風だけは、ウィルフレッドの話を静かに且つ真剣に聞こうとしていた。
そして、ウィルフレッドは更に真面目な表情で口を開く。
「今、この世界は
そう言った瞬間、女性とクラスメイト達は皆、
『えぇっ!?』
と、一斉に驚きの声をあげたが、
「驚くのも無理はないだろうが、どうか落ち着いてほしい。その理由を説明する為に、少し昔の話をしよう」
と言って女性とクラスメイト達を落ち着かせると、ウィルフレッド更に話を続ける。
「今から500年前、この世界は2柱の悪しき『邪神』と、その加護を受けし2つの『悪しき種族』、そして、邪神の配下である魔物達によって支配されていて、彼らによって多くの人間達が苦しめられていた」
『……』
「しかし、そんな人間達の救いを求める祈りが届いたのか、ある時、天より5柱の神々が現れ、邪神達に戦いを挑んだのだ」
「5柱の神々……ですか?」
と、女性が尋ねると、
「そうだ。『炎の神カリドゥス』、『水の女神アムニス』、『風の神ワポル』、『土の女神カウム』、そして、神々を束ねるリーダーである『光の神ラディウス』の5柱だ」
と、ウィルフレッドは神々の名前を答えたので、クラスメイト達は「オォ!」と感心していたが、
(……違う。アマテラス様達が言ってたのと違うぞ!?)
と、春風だけは表情にこそ出さなかったが、心の中ではアマテラス達が言ってたのと違う事に戸惑っていた。
ウィルフレッドは更に話を続ける。
「当然、邪神と悪しき種族達、そして魔物達もこれを迎え撃った。神々だけでなく、人間達にも容赦なく攻撃してきたのだ。だが、神々より『力』を授かった人間達は、神々と協力してこれを撃退していった。そして、激しい戦いの末、遂に神々と人間達は、悪しき種族と魔物達を退け、大元である2柱の邪神は、神々によってその『力』を奪われ、地中深くに封印されたのだ」
「倒す事は、出来なかったのですか?」
と、再び女性がそう尋ねると、
「うむ。残念な事に『力』を奪われても尚、邪神は強大な存在で、神々の力をもってしても倒す事は出来ず、結局封印するという事になったのだ」
と、ウィルフレッドはそう答えたので、女性は「そう……ですか」と渋々ではあるが納得した。その様子を見て、ウィルフレッドはまた話を続けた。
「ともあれ、こうして邪神はいなくなり、それと同時に悪しき種族も姿を消した。残念な事に魔物の方は今も人々を苦しめてはいるが、それでも邪神達の支配よりはマシと言えるくらい、人々は神々のおかげで平和な日々を送るようになり、その後、神々を崇め奉る組織として、『五神教会』が設立されたのだ」
『……』
「しかし、それから長い時を経て、邪神達は封印から目覚めた。今は何処にいるのかわからないが、いずれ我々の前に姿を現すだろうという状況だ」
「そ、そんな!」
「それだけでも人々に不安を与えていたが、今から17年前、とある1人の女性が、死ぬ間際に1つの『予言』を遺したのだ」
「よ、予言……ですか?」
「そうだ。それは、蘇った邪神の加護を受けた『悪魔』によって、
ウィルフレッドのその言葉を聞いた瞬間、女性とクラスメイト達は「ええっ!?」とザワザワとし出した。勿論、春風だけは冷静に話を聞いていたが。
しかし、そんな状態の彼女達を前にしても、ウィルフレッドは話を続ける。
「当然、最初人々は誰1人その予言を信じてはいなかった。だが、今から数年前、蘇った邪神の1柱が、神々と人々に対して宣戦布告をし、それと同時に、奴は強力な魔物達を生み出して、それらを世界に解き放ったのだ。我々はその魔物達を『邪神の眷属』と呼んでいる。恐らく、予言に出てくる『悪魔』というのは、この邪神の眷属の事を言っているのか、もしくはそれに関係している存在の事なのだろう」
その話を聞いて、クラスメイト達はタラリと冷や汗を流したが、女性はというと、
「そ、それでその……その事と私達に、一体どのような関係があるのですか?」
と、恐る恐るといった感じでウィルフレッドに尋ねた。
その質問に対して、ウィルフレッドは答える。
「うむ。実は世界中に邪神の眷属が放たれてから暫く経ったある日、五神教会の神官達が、神々より1つの『神託』を授かったのだ。それによると、邪神の眷属達は数こそ少ないが、それぞれが強大な力を秘めている為、この世界の人々では太刀打ちする事が出来ず、神々でさえも勝てるかどうかはわからないという」
その答えを聞いて、ますます女性とクラスメイト達は「そんな!」と騒ぎ始めが、それでもウィルフレッドは話をやめなかった。
「しかし、神々は神官達に、『神託』の他にとある『秘術』を授けた。それは、別の世界から『勇者』という名の救世主を召喚する、『勇者召喚』という名の秘術だ。そして今日、我々はこの秘術を用いて、別の世界から『勇者』を召喚する事に成功したのだ」
と、ウィルフレッドからの説明を聞いて、
「ま、まさか……それが私達……ですか?」
と、女性は滝のようにダラダラと汗を流しながらそう尋ねると、
「そうだ。神々に選ばれ、その加護を受けた、蘇った邪神とその眷属達を滅ぼし、世界を、人々を救う希望の救世主『勇者』。それが、其方達なのだ」
その言葉を聞くと、女性とクラスメイト達はは口をあんぐりと開けて何も言う事が出来なくなっていた。
しかし、春風だけは、
「……」
と、気付かれないように無言でウィルフレッド達を睨み付けていた。
その瞳に、強い「怒り」を宿して。
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