第9話 ちょっとした実験


 「ちょっと試したい事があります」


 そう言った春風の言葉を聞いて、オーディンはじめとした神々が、


 『え?』

 

 と、一斉に頭上に「?」を浮かべて首を傾げると、


 「スキル[鑑定]、発動!」


 と、春風はオーディンを見て、入手したばかりのスキル[鑑定]を発動したので、


 「え、ちょっとま……!」


 と、オーディンは驚いて目を大きく見開いた。当然、他の神々も同様だ。


 すると、


 「あ、痛! 痛い痛い痛い! 目が痛い! 目が痛いいいいいいいっ!」


 と、春風は両目を手で覆ってその場にのたうち回った。その様子を見て、


 『あーあ』


 と、オーディンだけでなく神々もタラリと汗を流した。


 それから少しすると、漸く目の痛みが治まったのか、


 「大変、すみませんでした」


 と、春風はオーディンに向かって頭を下げて謝罪した。


 それに対してオーディンは、


 「ああ、良いよ良いよ。これで『神』を鑑定する事は出来ないって事がわかっただろ?」


 と、手を軽く振りながら、自身に対して[鑑定]を使った春風を許しながら尋ねたので、


 「はい、痛い程わかりました」


 と、春風はシュンとしながら、再びオーディンに頭を下げた。


 その後、春風は「よし、次だ!」と言って神々から少し離れた位置に立ち、何もない真っ白な景色が広がっている方を向いて、スッと右手を伸ばすと、


 「ウインドニードル!」


 と、[鑑定]と同じく入手したばかりのスキル[風魔術]の1つ、「ウインドニードル」を唱えた。


 突然の魔術の発動行為に、神々は再び大きく目を見開いたが、


 「……」


 幾ら待っても何も起きなかったので、


 「うーん、やっぱ『専用の道具』とやらがないと無理か」


 と、春風は残念そうにそう言った。どうやら各種魔術について説明文通りなのかを知りたかったようだと神々は理解したのか、春風の言葉を聞いて、


 『ああ、無理だったかぁ』


 と、彼らも残念そうに言った。


 更にその後、


 「それじゃあ次は……」


 と、春風が小さくそう呟くと、ゆっくりと深呼吸して、


 「スキル[錬金術]、『魔石生成』発動。風属性の魔石を生成」


 と、静かに唱えた。


 次の瞬間、春風の全身から緑色のオーラのような光が出てきて、それが春風の目の前に集まり、やがてそれは、米粒サイズの緑色の結晶に変わり、真っ白な地面に落ちた。


 「……」


 春風は無言でその緑色の結晶を拾い上げると、


 「スキル[鑑定]、発動」


 と、今出来た緑色の結晶を鑑定した。その結果、


 風の魔石(極小)……属性の魔力が結晶化したもの。極小サイズの為魔術の付与は出来ないが、魔力を流す事によって内部の力を解放する事が出来る。


 と、表示されたので、


 「出来ました!」


 と、春風は笑顔で神々に、自身が作った魔石を見せた。


 神々はそれを見て、


 『おお、凄い!』


 と、驚きと喜びが入り混じったような表情になった。


 その表情を見て嬉しくなったのか、


 「よーし、だったら……!」


 と言うと、春風はすぐに新たな魔石を生み出した。


 赤い色をした「炎の魔石」。


 青い色をした「水の魔石」。


 そして、オレンジ色をした「土の魔石」の3つだ。


 どれも先に生み出した風の魔石のように大きさは米粒サイズだったが、それでも、出来上がったその魔石見て、


 「お、おお!」


 と、春風は幼い子供のように、目をきらきらと輝かせた。


 そんな様子の春風に、


 「ところで春風君。君、その魔石をどうする気なの?」


 と、アマテラスが尋ねてきたので、


 「勿論、こうするんです!」


 と、春風は笑顔でそう答えた後、真っ白い地面に4種の魔石と、ズボンの取り出したポケットから自身のスマホを置いた。


 それを見て神々は、


 『え、ちょっと待ってまさか……!』


 と、3回目になるが、一斉に目を大きく見開くと、その神々を前に、


 「スキル[錬金術]、『魔導具錬成』発動!」


 と、春風は[錬金術]の技術の1つ、「魔導具錬成」を発動した。


 すると次の瞬間、真っ白な地面に置いた4種の魔石とスマホを中心に、それらを囲うように赤い光で「円」が描かれた。


 そして、4種の魔石とスマホがふわっと浮き上がり、ぐるぐると回り始め、やがて1つになった。


 「で、出来た……」


 と、春風が小さく呟くと、春風はその出来上がったを手に取り、すぐにそれに向かって[鑑定]を発動した。その結果、


 見習い賢者の魔導スマートフォン……「見習い賢者」が作った魔導具第1号にして特別なスマートフォン。魔術の発動媒体として使用する事が可能で、魔力を用いて本体のバッテリーをチャージする事も出来る。


 「よっしゃあ!」


 そう叫んで、大きくガッツポーズをとる春風。そんな春風を見て、


 『お、おお! す、凄い!』


 と、オーディンをはじめとした神々はそう言って、大きく拍手をした。


 また更にその後、春風は自身が作った「見習い賢者の魔導スマートフォン」……以下「魔導スマホ」を手に、再び何もない真っ白な景色が広がっている周囲の景色を見て、スッと魔導スマホの画面をその何もない景色に向けると、


 「今度こそ……『ウインドニードル』!」


 と、再び[風魔術]の「ウインドニードル」を唱えた。


 すると、魔導スマホの画面が眩しく光り出し、そこから鋭く尖らせた風の塊が発射されたが、


 「うわぁ!」


 その反動によるものなのか、発射と同時に春風は後ろへと吹っ飛ばされ、


 「ぐえっ!」


 真っ白な地面に激突し、大の字になって寝転んだ形になった。


 「あ!」


 「おい、大丈夫か春風!?」


 驚いたオーディン達が慌てて春風に駆け寄ると、


 「……」


 春風は大の字になったまま、大きく目を見開いてぽかんとしているだけだったので、


 「は、春風君……」


 と、心配になったオーディンが話しかけると、


 「オーディン様……」


 と、春風が返事をしたので、


 「わ! な、何だい?」


 と、驚いたオーディンは恐る恐る尋ねた。


 すると、春風はにこっと笑って言う。


 「ちょっと怖かったけど……『魔術』って、すっごい楽しいですね」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る