第25話

「では、こちらがゴブリン討伐の報酬になります」


 ガチャリとコインの擦れる音と共に、それなりに中身が入っていそうな革袋がテーブルに置かれる。

 

「そういば、報酬なんてものが貰えるんでしたね……。剣の修行のつもりだったので、報酬のことなんて完全に忘れてましたよ」

「ハッハッハ! 剣が振れればそれで満足ということですかな? 良い傾向です!」

「人を戦闘狂バトルジャンキーみたいに言わないで下さいよ……。ただ忘れてただけです」


 ブライド先生とくだらないことを話しながら革袋を受け取る。

 そして、革袋を開いて中を覗くと――銀貨が大量に入っていた。

 

「え……マジか」

「どうされましたルーカス様?」

「……本当にこれが報酬で合っているんですか?」


 俺の言葉に受付嬢が慌てた様子になる。


「す、少なかったでしょうか……? ゴブリン1匹は銀貨2枚ですので、12匹だと銀貨24枚が相場になるのですが……」

「ゴブリン1匹が銀貨2枚……? た……高ッ!」

「そっちですか……。紛らわしいですぞルーカス様」


 受付嬢は俺の言葉に安堵したように胸を撫で下ろしていた。

 何か難癖を付けられるのではないかと心配させてしまったかもしれない。


「すみません、今日が初めてだったもので……」


 それにしても銀貨24枚……ブライド先生と山分けしてもそれなりの額だ。

 最弱と言われるゴブリンでこれなのだから、もっと難しい依頼を受けている熟練の冒険者たちは大層な報酬を貰っているのだろう。


「冒険者っていうのは意外とお金持ちなんですね……」

「それでこそ、命の懸け甲斐があるというものです」


 たしかに……。

 俺だってゴブリン相手とはいえ、かなりの窮地を乗り越えてきた。

 あの6匹と命を張って戦った報酬が銀貨12枚だと考えると、途端に安くも感じる。

 そもそも自分の命を秤に乗せている時点で、等価のものなんてあるのか分からないが……。


「身を以て、冒険者という仕事のピーキーさが分かりました……」

「ハイリスク・ハイリターン。これぞ冒険者家業の魅力ですからな」


 俺みたいな小心者には、一生縁のなさそうな魅力だ。


「俺に冒険者は無理そうです」

「くくっ……ルーカス様はやはり変わっておられる。普通こうして魔物討伐から生還してきた若い男は自信をつけるものです。そして、冒険者として一旗揚げようとさらに意気込む」

「俺はこれでも貴族なもので……。せっかく命を懸けるなら、金のためより、領地とその民のためにしたいものです」


 大して考えたわけでもなく、口にしてみた言葉。

 それを聞いたブライド先生は、やけに感銘を受けた顔をしていた。

 

「……どうか、その清らかな御心のまま成長なさってください」


 周囲を見れば、受付嬢も、冒険者たちもウンウンと何度も頷いている。

 皆めっちゃ盗み聞きするじゃん……。


「…………やっぱ、お金の方が良いかもしれない」

「まったく……天邪鬼ですなぁ」


 周囲からやけに温かい視線で見送られ、俺はギルドを後にするのであった――。


 ◆


 屋敷に戻ると帰りが遅くなった俺を心配してか父様に母様、それにレイラが外で待っていた。


「ルーカスにぃ様おかえり!」


 天使・オブ・天使。

 マイスイートシスターが満面の笑みで俺の方へ駆けてくる。


「ただいまレイラ〜〜〜!」


 ギュッと抱きしめると期待通りキャッキャウフフと喜んでくれる。

 あ〜、このために俺は生還したんだ……。


「だらしのない顔ですなぁ……」

「ちょっと黙ってて下さいよブライド先生。俺は今、人生の絶頂を迎えているんです」

「……左様でございますか」


 たっぷりとレイラを愛でると、彼女はまた「いや〜!」を発動した。

 服が汚れたのが嫌だったらしい……。

 汚くてゴメンよ……。

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