ピエロの棄却

自らの失敗で人を笑わせる、ただそれだけだった人生の終着点はピエロだった。

仮設感満載のスケルトンゾンビのバーで安酒をひっかけていると、となりに魔女が座った。

「ツバメの生首カクテルをくれよ」

「今日は少し調子がいいようですねぇ、ウィッチどの」

魔女は怪しげな笑みを浮かべ、置かれたグラスを振って応えた。


「『ピエロはシケた面でグラスを揺らさない』あたしの地元じゃ有名なことわざじゃがな?」

魔女はグラスの中で回るツバメの生首を眺めながら唐突に話しかけてきた。

「『ピエロはロッカールームで泣いている』同じく私の地元では有名なことわざです。」

「『しかしここにロッカールームは無い』という続きがあったはずじゃが?」

痛いところを突かれた私はどうしようもなくおどけてみせた。

「そうかい。」

魔女は少し私を睨むと、グラスを傾けた。

カウンターに置かれたグラスにはツバメの生首はなかった。


「私の人生のテーマソングは『The great pretender』ですかね」

「そんな情熱的な恋をしたのかね。」

「『世界一のハッタリ』ですよ。」

「曲のタイトルだけで好きを語るような若人は嫌いじゃぞ。」

またしても痛いところを突かれた私は、呆れ顔で追加のカクテルをもらう魔女を横目に、代金を置いてプログラム表を確認した。


今の居場所はここだ。


『次はァ!?世界一のハッタリピエロ、ジャック・マーティンのお出ましだァ!!』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る