第11話 日直
次の日の朝、冴木陽斗はいつもより少し早めに学校へ向かった。今日は特別な日だった。陽斗と大森美優紀が日直を務める日であり、二人が初めて一緒に仕事をする機会だった。陽斗は内心ドキドキしながらも、美優紀と話すチャンスを楽しみにしていた。
教室に着くと、美優紀が既に教室の掃除を始めていた。陽斗は自分も手伝おうと近づいた。
「おはよう、大森さん。今日は一緒に日直を頑張りましょう。」
「おはよう、冴木君。よろしくね。」
二人は一緒に掃除を始めた。最初はぎこちない沈黙が続いていたが、美優紀がふと陽斗に話しかけた。
「冴木君、いつもVtuberの話してるよね。すごく好きなんだね。」
その言葉に陽斗は驚き、少し動揺しながらも答えた。
「う、うん。Vtuberは本当に面白いし、かわいいから…いつも見てるんだ。」
「そうなんだ。私も実は少しだけVtuberに興味があって…どんなところが好きなの?」
陽斗は美優紀の質問に少し緊張しながらも、答えた。
「うーん、やっぱりその人の個性とか、配信中の楽しそうな雰囲気かな。それに、星野ソラっていうVtuberが特に好きで、彼女の配信は毎回楽しみにしてるんだ。」
美優紀はその返答に内心とても嬉しく思った。陽斗が自分の分身である星野ソラをこんなに好きで応援してくれていることを知り、心が温かくなった。しかし、その感情を態度に出さず、自然に話を続けた。
「星野ソラ…その名前、私も聞いたことあるかも。彼女のどんなところが好きなの?」
陽斗は一瞬戸惑ったが、彼の熱意が勝り、思わず早口で話し始めた。
「ソラちゃんはね、本当に明るくて、リスナーとのやり取りもすごく上手なんだ。歌もすごく上手で、配信中に英語で話すこともあって、リスナーとの距離が近いんだ。あと、猫を飼ってて、その話をするときのソラちゃんが本当に可愛くて…」
陽斗は話しながら、自分がどんどん熱くなっているのに気づき、急に言葉を止めた。
「ご、ごめん、大森さん。つい熱くなって早口で話しちゃって…」
美優紀は優しく微笑んで答えた。
「そんなに好きになってもらえて、その子もきっと喜んでると思うよ。冴木君が一生懸命話してくれるの、素敵だと思う。」
陽斗はその言葉に救われた気持ちになり、ほっとした表情で美優紀を見つめた。
「ありがとう、大森さん。そう言ってもらえると嬉しいよ。」
二人はその後も一緒に掃除を続け、徐々に自然な会話が増えていった。美優紀は陽斗の話を聞きながら、心の中でソラとしての自分を重ねていた。
(陽斗君がこんなにソラのことを好きでいてくれるなんて、本当に嬉しい…)
美優紀は自分の感情を隠しながらも、陽斗との会話を楽しんだ。
掃除が終わり、授業が始まるまでの少しの時間、二人は教室の隅で話を続けた。陽斗は少し緊張しながらも、自分が切り抜きチャンネルをしていることを話した。
「実は、自分で切り抜き動画を作ってるんだ。ソラちゃんの配信から面白いシーンや感動的なシーンを選んで編集してるんだ。」
美優紀は陽斗と亮太の会話から切り抜きチャンネルを作っているのが陽斗だと知っていた。しかしそのことを本人に気付かれてはいけないと思い、驚いたように答えた。
「へえ、すごいね!冴木君、そんなこともしてるんだ。切り抜き動画って、編集とか大変じゃない?」
「うん、確かに大変だけど、それ以上に楽しいんだ。ソラちゃんの魅力をもっと多くの人に伝えたいから、頑張れるんだ。」
美優紀は陽斗の熱意に感心しながらも、自分がソラであることを隠し続けることに複雑な気持ちを抱いていた。しかし、彼の情熱が自分を支えてくれていると感じ、彼との交流を大切に思った。
その日の放課後、陽斗は一人で部屋に戻り、パソコンの前に座った。彼は美優紀との会話を思い出しながら、切り抜き動画の編集に取り組んだ。
「もっと良い動画を作って、ソラちゃんのファンを増やそう。」
彼は新たな決意を胸に、編集作業を続けた。美優紀が少し興味をもってくれたこと、そして喜んでくれると思うと言ってもらえたことが彼にとって大きな励みとなり、星野ソラの応援を続ける力になっていた。
一方、美優紀もまた、自室で次の配信の準備をしていた。陽斗との会話を思い出し、彼が自分のことをどれだけ応援してくれているかを改めて感じた。
(陽斗君がこんなに頑張ってくれているから、私ももっと頑張らなきゃ。)
彼女はその決意を胸に、配信の準備を進めた。陽斗との交流が彼女にとっても大きな支えとなり、星野ソラとしての活動に一層の力を注いでいくことを誓った。
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