第23話 早く思い出して
呪われたのは、四か月前だった。
ある日、フォルカス公爵邸に贈り物が届いた。中身は焼き菓子だった。その時に、フォルカス公爵邸に遊びに来ていた甥のカミルが欲しいと言うのであげれば、その時に嫌な気配を感じた。カミルが箱を開けて焼き菓子を一つ取った瞬間、呪いが焼き菓子から出て来たのだ。慌てて手を出してカミルを庇った。そして、カミルと二人で呪われてしまった。
俺が庇ったおかげで、カミルに降り注いだ呪いは少量だった。そして、呪いに包まれた俺は、身体すべてが骸骨姿になっていた。
カミルは、フェアフィクス王国とアルディノウス王国の架け橋となる次期王太子殿下。彼が暗殺されるわけにはいかない。ましてや、フェアフィクス王国で危険に晒されたとなれば、またフェアフィクス王国との戦に発展する恐れがあった。だけど、フェアフィクス王国で呪われたのだ。
フェアフィクス王国の人間はそうそう頼れない。このまま、フェアフィクス王国に置いておけずに、密かにカミルを連れてフェアフィクス王国を脱出した。
そして、アルディノウス王国の王城に近づいた時に、雷雨に見舞われて、カミルの身を案じて道中にあったひと気のないシルビスティア男爵邸へと立ち寄った。
そこで、リリアーネと出会った。
ずっと何百年もリリアーネを探していた。もともと前世の記憶は多少はあった。ただ、鮮明ではなかった前世の記憶。それでも、少しずつ前世の記憶が戻っていた。
それでも、霞みかかっていた記憶。それが、あの雷雨の夜にリリアーネと出会って霞みが晴れていくように思い出した。呪いをリリアーネが少しからずも解いたせいもあるだろう。
いや、あの雷雨の夜にリリアーネに出会ったせいですべて思い出したのかもしれない。
呪われて骸骨姿になったのも、前世の姿に引き寄せられたせいだろうか。まぁ、どちらかでもいい。
「骸骨様……ノキアのこと。ありがとうございます」
アルディノウス王国のグラッドストン伯爵邸を出立して、フェアフィクス王国に向かっていた。そして、夜に差し掛かると骸骨姿になっていた。
この姿では、街にも入れずに仕方なく森の中で一夜を過ごすことになった。
森の中の樹のそばに敷物を敷いて、リリアーネと二人、手を繋いで森の中で転がっている。
「リリアーネは家族のことばかりだな」
「それは……そうかもしれません。ずっと気にしていたので……」
「だが、もう気にする必要はないだろう……グラッドストン伯爵は真っ当だ。彼がいれば、ノキアはほっといても大丈夫だ。それに、こちらも助かる。カミルも友人がいないし、自分で守る力のある子供でないと、そばには置けないからな……魔法を覚えれば、ノキアは役に立つ」
「はい。今までグラッドストン伯爵様には、迷惑をかけました。お義母様にも……」
「アルディノウス王国の王城での仕事なら、あのバカな貴族たちはそう手は出せん。安心してフェアフィクス王国に来てくれ」
「はい」
握った手を引き寄せてリリアーネの指にそっと口付けをすると、彼女の頬が染まる。
この顔だ。そして、魔力が出てくれば、リリアーネの背中から光が羽のように広がった。
柔らかい光が、身体を包む。そうして、リリアーネを腕に抱きとめて彼女はそのまま眠ってしまった。無防備な寝顔が愛おしい。
「リリアーネ。今度こそ俺を見て」
骸骨姿でリリアーネを抱き寄せると、腕の中にすっぽりとはまる。リリアーネのおかげでだんだんと人型に戻ってくる。
リリアーネの薄い銀色の髪を掬うとうなじが見える。そこにそっとキスをする。早く、俺が付けた魔法の紋章が現れることを願って……
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