第14話 家族の絆とは 7
「エイプリル。気がすんだか?」
塩を撒いて満足気なお義母様に、グラッドストン伯爵様が言う。
「今度来ても、ノキアちゃんには手を出させませんわ」
「ノキアに、ちゃん付けはやめなさい。あれは、甘えん坊ではない。お前よりもずっと強い」
「あら、つい言ってしまいましたわ」
コツンと自分の頭を付いたお義母様に呆れ気味なグラッドストン伯爵様。お義母様の天然ぶりにも動揺しないのは、親子で慣れているからだ。
「グラッドストン伯爵様。私のせいで申し訳ありません」
そう言って、頭を下げた。ノキアの現状を始めて目にした。グラッドストン伯爵様が、私にノキアのことを考えろと言っていたことを思い出す。彼は、ノキアを案じていたのだ。
ずっと、彼の威光がノキアを守ってくれていたことに、目尻が熱くなった。それと同時にノキアの現状に胸が痛い。
顔を上げられない私の頭を、お義母様が撫でる。その優しさにそっと頭を上げた。
「リリアーネちゃんに非はないわ。そうでしょ? お父様」
「……問題を起こしたのはノキアだ。聖女のことは、私が口出すことはできん。それに……」
グラッドストン伯爵様が、ジロリと私に張り付いているジークヴァルト様を見た。
「結婚するなら、今までとは違ってノキアの見方も変わる。没落男爵という噂もいずれ消えるだろう。本当にフェアフィクス王国の公爵家ならな」
「あの……間違いありません。この結婚はラッセル殿下も薦めて下さった結婚です。お疑いなら、どうぞ王都でご確認ください」
そう言うと、背後から伸びた手に顎を取られて顔を向けられて、ジークヴァルト様にジッと見つめられる。
「ラッセル殿下の薦めでも、先に求婚したのは俺だ。間違えないように」
「は、はい!」
「いい返事だ」
お義母様も、グラッドストン伯爵様も見ている前でくっつかれて恥ずかしい。
「ラッセル殿下の紹介ということは、間違いないのだろう。それに、フォルカス公爵という名前は聞いたことがある」
そうだろうと思った。グラッドストン伯爵様はジークヴァルト様の名前を聞いても先ほどの親たちと違ったから……。
「知っていたか」
「はい。申し遅れましたが、レグナード・グラッドストン伯爵と申します」
「俺は先ほども名乗ったが、ジークヴァルト・フォルカス公爵だ」
「聞き覚えがあります。戦中は、名ばかりですが騎士団の幹部でもありました。前線に出ることは叶いませんでしたが、役職には付いておりましたので……」
「ずいぶんと家格の良い伯爵家なのだな」
グラッドストン伯爵家は、代々続く家門だ。由緒正しい家柄だった。そんなグラッドストン伯爵様に、名ばかりとはいえ騎士団の役職に就くことは珍しくない。
「でも、隣国ならリリアーネちゃんは、国を出ちゃうのね……寂しいわ」
「すみません。お義母様……突然のことで、話がすぐにできなくて……」
「話がゆっくりと出来なかったのは、あの親たちのせいよ? せっかくリリアーネちゃんとノキアと三人で親子水入らずでお茶をするはずだったのに……でも、遅くないわね。みんなでお茶にしましょう!」
にこやかにお義母様が両手をあわせて言う。
「姉さまが、国を出る?」
すると、玄関からノキアの呆然とした姿があった。
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