第1話 呪われた骸骨公爵様とクビになった聖女 1


__冬のある日。


アルディノウス国の王都から離れた田舎の村のシルビスティア男爵邸に、社交界デビューするドレスや宝石などが届いた。


成金だったシルビスティア男爵家は、領地を持たない爵位をお金で買った男爵家。でも、成金だったのは昔のこと。お父様も数年前に他界し、今では名前だけの貧乏貴族になってしまっている。その私__リリアーネ19歳に、ある日突然、たくさんのドレスなどが届いたのだ。


「リリアーネちゃん……凄いですわ」

「お義母様……どなたからでしょう?」


書斎の長テーブルに広げられたたくさんの贈り物を前に、お義母様と驚いて見ていた。


お義母様は、若く可愛らしい後妻だ。私を産んだお母様は、私が幼い頃に他界。その後再婚したグラッドストン伯爵家の令嬢だったエイプリル様が私の義理の母となった。


お義母様と結婚した時は、まだ貧乏男爵家ではなかったから領地のない男爵家でもグラッドストン伯爵様は結婚を認められたのだろう。


お父様は、いずれお金でどこかの領地も買おうとしていたし……。でも、隣国フェアフィクスと戦争が起きて、商売が上手くいかなくなった。そして、5年前に終わった戦争。その頃には、すでに我が家は没落寸前の貧乏貴族になっていた。


「きっと、リリアーネちゃんを見初めたのね!」

「見初める場所はないんですけどね……」


絶対にそれはないのです。夜会にも参加できない貧乏令嬢に、見初める場所などないのです。


天真爛漫に言うお義母様は、何というか天然だった。


「でも、これで社交界にデビューできるわね。嬉しいわ」


お義母様が嬉しそうに笑うが、送り主が分からずに困惑する。心当たりを思い浮かべても、心当たりがなくて表情が曇ってしまう。


「リリアーネちゃん。どうしたの? 嬉しくないの?」

「そんなことありません。でも、社交界にデビューしても、ずっと夜会に参加できるわけではないですし……どなたかわからないので、ちょっと困っているだけです」

「……ごめんなさいね。私が、ちゃんとしないといけないのに……お父様にも、私たちのお金を増やすようにお願いしているんだけど……」


お義母様と、お義母様の産んだ弟のノキアの二人には、グラッドストン伯爵様から使えるお金があるらしい。だけど、多くを渡せばそのお金が私にいくことをグラッドストン伯爵様は、懸念しているのだろう。だから、わざと増やさないのだ。


お義母様と弟は、お父様が他界してから、お義母様の実家であるグラッドストン伯爵家でお世話になっている。でも、私はお義母様の実の娘ではないし、お義母様との結婚後に貧乏になってしまったシルビスティア男爵家を、グラッドストン伯爵様はよく思わなかった。


私だけはお義母様たちと一緒にグラッドストン伯爵家でお世話にはなれなかった。私だけが、お義母様と血が繋がってないから、グラッドストン伯爵家で厄介になる理由もない。


だから、今はこの貧乏なシルビスティア男爵邸に一人で住んでいる。

お義母様は何度も「リリアーネちゃんも、一緒に行きましょう」と言ってくれたけど、その言葉には甘えられなかった。


今日のように、定期的に差し入れと言って、お菓子や食材を持って来てくれるお義母様は、私が元気でやっているかを気にしてくれている。それだけで、私には十分だ。


シルビスティア男爵位を継いだ弟ノキアにも、お義母様にも、シルビスティア男爵家の娘として何も出来なかったことが申し訳ない。本当なら、グラッドストン伯爵様を頼ることなく、シルビスティア男爵家で二人も生活ができるようにしなければならなかったのに……。


その二人が肩身の狭い思いをしないように、仕送りも欠かすことなくしていた。

それでも、グラッドストン伯爵様が二人の面倒を見てくれなければ、二人は路頭に迷ってしまう。そんなことはさせられない。


「お義母様。グラッドストン伯爵様の言うことはもっともです。私のことはお気になさらないでください」

「でも、リリアーネちゃんも私の大事な娘なのに……」

「そう言って、下さって嬉しいです。でも、これだけあればすごく高く売れそうですね。お金にしましょうか? そうすれば、もっとノキアにもお金を渡せます。学校に必要ですよね」

「それはダメ。これは、リリアーネちゃんのものだもの。ちゃんとお城の夜会に行って欲しいわ。可愛いリリアーネちゃんなら、すぐに素敵な方に見初められるわ」

「そんなことないですよ……」

「そんなことないわ。リリアーネちゃんは立派な聖女様だから、誰かが見初めたのよ。夜会に行けば、もっと声がかかるはずよ。私にはわかるわ!」

「ははは……そうだと良いです……」


お義母様。全然外れです。私はすでに聖女をクビになっているのです。

でも、言えない。言えば、きっとお義母様は反対する。

見初められても、もう遅い。私は、近いうちにどこかの妾になる予定なのだから……。




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