第16話 霧の中
2人は今まで色々な事を旅の中で経験してきた。
魔物との戦い、森の中でのキャンプ、一国の王の護衛、想い人を待ち続け夢の中に誘う幽霊、数多の人との出会いと別れ。
そしてこれらを乗り越えてこれたのは彼らには最初から何一つ変わっていない旅の目的があるからだ。
「太陽に行く」
キアラール山に登って、その山頂に何があるかは分からない、だが太陽に行けるとあの本には書いてある。
全ては登りきるまで分からない、太陽へ行くとはどういうことなのか。
全てを知る旅の終わりが徐々に近づいていた。
2人は港町を出て、先へ進んでいく、そして森の中に入る
「ショウ 山まではあとどれぐらいなんだ?」
「一応山の麓には村があるんだ その村で準備をして登りたいんだけど その村までがどれぐらいか分からないな」
正直調べてきたとはいえ文献の少なさが足を引っ張った、誰も正確に距離を測っていなかったからだ、だが正確に距離を図れない理由が急に彼らを襲い始める
「まぁ 方向は合ってるはずだからこのまま歩けば……」
地図に夢中になって気が付かなかった、森がとても濃い霧に包まれている、木が数本ある以外は1面真っ白の世界だった
「ハル?」
さっきまで隣にいたはずの親友がいない、最悪の想像を一瞬する、そして彼を探して走り出した
「なるほど こうやって旅人を分断するのか」
親友とはぐれてしまったが、ハルは依然冷静さを失っていなかった、道中に邪魔してくる魔物を切り伏せ、先へ進んでいく。
「ショウなら1人でも大丈夫だろ」
そう信じながら剣を片手に歩く。
しかし後ろから声が聞こえた
「ハル」
あまりに聞き覚えのある声に後ろを振り向く、そこにはおばあちゃんが立っていた
「ハル 久しぶりだね……」
「ばあちゃん?」
ありえない、有り得るはずがない、こんな離れた場所にばあちゃんがいるはずがない、そう思いながら先へ進もうとするが、一応彼女へ一言だけ声をかける
「ばあちゃん 旅が終わったら会いに行くからね 元気で待っててね」
そう言いながら前を向き、進もうとする。
そこにはショウの姿をした顔の見えない謎の男が立っていた
「ハル やっぱりか」
「お前 誰だ」
明らかにショウではない存在に苛立ちを覚える、剣を構え、切りかかろうとする
「ごめんねハル」
剣を振る手が、直前で止まる。
偽物と確信できている、俺には分かる、だが彼の言葉をハルはちゃんと聞かないといけない気がした
「僕のせいだ」
「何が言いたいんだ」
剣を下ろし、その続きを聞く
「これは僕の過ち ただ一つだけの」
そう言いながら幻影は消えていく
「おい! どういう事だ! もっと話せ!」
そしてそのまま霧が晴れた、道は先へと続いていた
「なんだったんだ……」
今の状況を理解できない、理解できないことはあまり考えたくないタチだ
「早く合流しなきゃな」
そう言いながら山の麓の村を目指し再び歩き始めた
親友とはぐれたショウは歩きながら杖を使い魔法で魔物を爆発させていく
「とりあえず村を目指すか」
そう言いながら道無き道を進む。
旅の中でハルと一緒に歩かなかったことは無い、町の中などは例外だが、旅の道は常に彼が隣にいた。
それは一種の安心感だった、旅の中で隣に彼がいないことがこんなにも不安だったとは。
だが信じていない訳では無い、彼を信じて村を目指す。
しかし目の前にそれを阻む4人組子供が現れた
「おい ショウ お前マジでムカつくんだよ」
「いつも部屋の隅で本ばっか読んでキモいんだよ」
4人はみんなで笑っている。
孤児院の時の記憶が蘇る、あれは僕をいじめた4人組だ。
昔はいじめられていた、周りの同年代の子供達とは上手く馴染めなかった、話ができない子供だった。
そんな自分をいじめてきたのが彼らだった、誰も救いの手を差し伸べてはくれない、いじめ段々とエスカレートしていった。
いよいよ嫌になって、孤児院を抜け出し、あの木の下で本を読むようになった、そんな時声をかけてくれたのがハルだった
「お前らか……」
あの時の記憶が蘇る、憎しみを込めて、最大限の魔力を込めた詠唱をする
「死ね」
そう言い放つと、幻影は4人とも消えた、彼らはあくまで幻影だが、あの時やってやりたかった事を今ここでできたことに少し笑みがこぼれる
「ふふっ…… はは……!」
自分でも何故笑みがこぼれたのかが理解できなかったが、高揚感と全能感が自分の頭を支配していた
「随分と酷いことするなぁ」
そう声をかけられて我に返る、後ろを振り向くと声の主が誰だかわかった
それはハルの姿をした顔の見えない謎の男が立っていた
「死ねはないでしょ 死ねは」
「なんだよ 君に関係ないだろ」
ショウはこんな幻影を見せてくる森に苛立ち始めていた、このまま森を燃やしてしまおうかと思ったが、ハルが危険だと思いやらなかった
「まぁ気持ちは分かる 俺だってお前を憎んでる 死んで欲しいとまでは思わねーけどな」
「……」
そう言われてショウは何も言えない
「お前……」
「僕は……」
そう彼に告げようとすると、幻影が消えたと同時に霧が晴れた、道は先へと進んでいる
「ごめんねハル……」
そう言いながら歩き始める、山の麓の村を目指して
霧が晴れてから麓の村に着くまでは早かった、そしてほぼ同時に森を抜けた2人は合流する
「ショウ!」
「ハル!」
2人は再開できたことの喜びから抱き合う、ハルの力が少し強かったが、いつもの事だった
「大丈夫か? 何も無かったか?」
「うん 魔物を倒しながら歩いてただけ……」
「そうか それは良かった……」
お互い、何かあったのは何となく雰囲気で察せたが、親友とはいえ、言えない事の一つや二つはあるものだ、そういうことはお互い気にしないようにしている。
だが2人の心の霧は残ったままだった。
2人はそのまま近場の村に入っていく、近くにそびえ立つ高い山がおそらくキアラール山だ、ついにここまで来たのだと思う。
2人を出迎えてくれたのは村の女性だった
「あ 初めまして この村に宿屋ってありますか?」
しかし女性は何も発さない
(なんだこの人……)
(あぁ すいません 人と言葉で話すのは久しぶりすぎて 声が出ませんでした)
「わぁ! なんだなんだ!」
ハルは驚いて後ろに飛ぶ、頭の中に声が響いてきた
「これ…… 言葉の代わりに意思を脳内で共有している?」
「そうなんです この村は自分の意思を脳内で伝達したり 相手の思考を読み取る事ができるんです」
2人は驚いた、大陸を超えると信じられない事が起こる、最初の森だってそうだ
「じゃあ 俺たちが考えてる事が筒抜けってことじゃねぇか」
「そういう事だね」
「大丈夫ですよ ある程度コントロールはできますから」
そう言われても安心は出来ない、余計な事はあまり考えないようにしようと2人は思った
「宿屋ですね 民泊がありますのでそこまで案内しますよ」
「「ありがとうございます!」」
2人は彼女の案内を受けて歩く
「この辺には何をしに来たんですか?」
「そうですね 俺たちキアラール山を登ろうかと」
そう言いながら近くの山を見る、今までの山とは比較にならないほど高いその山は、山頂部分が雲より高い所にありそうだ
「あの山ですか…… うちの村の人達は結構登り慣れてる人が多いですよ」
「そうなんですか!」
「山の山頂には何かあるんですか?」
2人が1番気になっていた所だ、太陽への行き方の手がかりがあるかもしれない
「んー そうですね 特に何かがあるとは聞いた事がありません でも絶景が広がってるとは聞きました!」
「そうですか ありがとうございます!」
どうやらそれらしい手がかりはないようだ、あとは自分たちの目で確かめるしかない
「着きました! ここが民泊です」
「ありがとうございます!」
「ゆっくりしてから山を登りたいと思います」
女性に感謝をしながら民泊に入っていく。
彼らの心の内を聞いてしまった彼女は不穏な顔をする
「太陽…… ですか……」
太陽関連で知っていることを彼らに話そうか迷ったが、そうはせずにそのまま自宅へと帰っていった
彼らは民泊で食べ、飲み、早めに眠った、次の日は朝から店で買い物をすませ、山登りへ挑む
山道への入口では村人達が最後まで着いてきてくれていた、どうやら村人以外が山を登るのは滅多にないことらしい
「本当に大丈夫ですか? ガイドの1人もつけないなんて」
「大丈夫ですよ 山を登るのは初めてじゃないですから」
「俺達の使い古しだが これを持ってけ 崖を登る時はそれを引っ掛けて登るんだ」
「あ ありがとうございます」
そう言って渡されたのは、小さなピッケルのようなものだった
「では 幸運を祈っています」
「ありがとうございます 行ってきます!」
「この村の料理美味しかったです! 帰りもまた食べに行きます!」
そう言いながら2人はゲートをくぐった、目の前にそびえ立つ山との戦いが始まる
「なぁ 俺 今どういう気分だと思う」
「どうしたの急に」
2人は山道を歩きながら話す
「楽しい」
「いや めちゃくちゃ不安」
意外な返答だった、ここまで不安なハルをショウは見たことがなかった
「教官と模擬試合した時ぐらい震えてる」
「あぁ あの時の」
「そうだ 前も言ったかもしれないけどあの時が人生で1番怖かった」
ハルは話してて違和感に気がつく
「えっ? あの時?」
ショウは気がついた、反射的に出た一言に
「あっ」
「ショウ…… まさか見に来てたのか」
「不可視の魔法をかけて見に行ったんだよ」
今までも模擬試合の話はしてきたが、見に来ていたのは初耳だった
「なんか情けないところ見せちゃったな 普通に負けると思った」
「いや でもかっこよかったよ 僕も頑張れって声かけちゃったんだ」
「やっぱりあの時のあの声はショウだったのか 空耳じゃなかった」
「聞こえてたんだ……」
少し恥ずかしい気持ちになる
「まぁ でもショウの声が聞こえたから俺は最後頑張れた 不思議と体が動いたんだ」
「そっか あの時凄かったよ かっこよかった」
「だろ!」
2人はたわいもない会話を続ける、だがしかし山はこの調子で登らせてくれるほど優しくはなかった
「ショウ! 大丈夫か!」
「うん!」
2人は山の崖を登る、小さなピッケルを使いほぼ垂直の壁に挑む。
今までこんな山はなかった、垂直の壁、雲の中の猛吹雪、今までのどの山よりも辛い壁紙彼らの体力と魔力を奪っていく。
「あっ!」
ショウが足を滑らせる、ハルはその手を掴み、既のところで何とか保つ、ピッケル1本で支えられてる2人分の体重は限界に近い
「ありがとう」
「次の崖で一休みだ 頂上までまだどれぐらいあるかわからない」
ショウはハルと違い、低体温対策の魔法、荷物を軽くする魔法に落下対策用の術式を組んである、もう既にいくつもの術式を組んでこれなのだ、心身共に限界だろう。
体制を整え、2人は再び壁を登る
崖での休憩から約30分壁を登り続けている、2人の体力は限界に近い、一足先に壁を登ることが厳しくなったショウを背中におぶりながら、壁を登っていく
「ごめん…… ハル……」
「大丈夫だ 絶対登りきるぞ」
そう言いながら一つ一つ、ピッケルを使い上に登っていく、呼吸が荒いが、何とかなってるのはショウの更なる補助魔法のおかげだろう。
その時、視界が晴れた
「ハル 雲を抜けたよ」
「あと少しだ……」
全身が悲鳴をあげる、かろうじてショウの荷物の分の重さがないだけだが、かろうじて登れている、これなら荷物をあまり持っていかない方が良かったと後悔する。
がしかし、頂上まではあと一息だ、最後の力を振り絞りハルは登る
「これで!」
最後、ピッケルをしまい、山頂に手をかける
「うぉぉぉぉぁっ!」
声を上げながらハルは登りきった、直ぐにショウが荷物をおろし、寝たままのハルに声をかける
「大丈夫! ありがとう! 本当にありがとう!」
「はぁ はぁ いいってことだ 俺のわがままだからな」
2人は一息ついてすぐに頂上の景色を見る、山頂は分厚く雪が残っている
絶景、今までにないほど美しい青空、下に広がるは雲の海とも呼べるほど無限に続く雲、そして空には青く光輝く太陽が彼らを見つめていた
「すげぇ…… こんなのが有り得るのかよ」
「綺麗だ……」
2人はしばらく景色を楽しむ、30分ほど景色を楽しみながら休憩をして、ついに本題に入る
「じゃあ 手がかりを探すか と言っても……」
「もう見えてるね あれが怪しい」
彼らが見つめる先にはあったのは山頂には不自然なもうひとつの雪の山だった
「ショウ 溶かせるか?」
「うん もちろん」
そう言いながら杖を出し、魔法で雪を溶かしていく
「思ったより時間かかりそう」
「まぁ 気長に溶かそうぜ 太陽は待ってくれる」
そうして雪を溶かしていると、不自然にも溶けない白い物体が顔を見せた
「なんだあれ」
「わからない 雪を溶かしきってから調べよう」
そして徐々にその物体の全容が見えてくる
「全部溶けた 結構魔力持ってかれた〜」
「ありがとうショウ 俺が調べてくる」
そう言いながらハルはその物体を調べ始める。
巨大な白い物体は卵のような形をしている、しかしその大きさはとてつもないほど大きい、あの赤いワイバーンが10匹は用意に入りそうな位だった。
ショウはその白い物体の一つだけ色が緑色になっている部分を見つける
「なんだこれ」
そう思いながら手を触れると、その物体がいきなり動き出す
「なんだなんだなんだ」
「ハル! 何したの!?」
「なんもしてねーよ! 触っただけだって!」
それが原因なのはわかってるが、決して自分のせいだとは思ってない、勝手に動きだしただけだ。
そしてその白い物体の一部が扉となって開く
「中に入れるのか」
「もちろん行くんだよね」
「当たり前だ これで太陽に行けるかもしれないからな」
そう言いながら2人は白い物体の中へ入っていった
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