第15話 願い
「あれ? 今回は船酔い大丈夫なんだな」
「前に貰った薬を解析して作ったんだ」
ショウは船に乗る前に買い物をしていた、恐らく薬の材料だろう、というか解析は前回の周に済ませたのか……
「予想が正しければ多分主は来る 自らね」
「そうか じゃあ頑張れよ 俺は船内見てくる」
そしてハルは船内へと消えていった
そんな話をしていると予想通り来た、こっちに来る理由というものは存在しないのに
「君……」
「僕は 船酔いじゃありませんよ」
彼女は驚いた顔をする
「凍れ」
そう詠唱すると彼女の足元から腕まで凍りつく
「やはり貴女だったんですね」
「どういうことかな これ」
「僕ら この夢の主と遭遇しないとそもそも先の日に進めないようになってるんですよ」
「それで?」
「それはアンさんも同じだから船酔いしてると思ってショウに話しかけに来たのか」
ハルが船内から姿を現す、片手にはウィルから貰ったナイフを持っている。
ショウが船酔いしなければアンが話しかけに来ることは無い、しかし今回も話しかけに来た、男探しといっても中性的な見た目のショウに話しかけに来るのは無理がある
「アタシも君達と……」
「なら2回目の時に暴露すべきでしたね 自分も夢に巻き込まれてると」
「……」
「この夢を創り出してるのはどうやら貴女で間違いないようですね」
「ここまで証拠が揃っちゃってるからな」
正直信じたくなかったが、夢の主は彼女で間違いないらしい、出来れば手にかけずに自分からこの夢を終わらせて欲しい、そう思っていた
「君達には全てを話そうか」
今まで一切発していなかった魔力が時解き放たれる、莫大な魔力に世界が揺れ、ショウがそれに反応する
「おい! 何する気だ!」
「やるしかないのか……」
ハルは走り出し、覚悟を決める、このナイフで、刺さなければ……
彼女は聞く耳を持たずに詠唱を始める
「我が夢の中の住民達よ 眠りから覚め 真実を見届けよ」
「アンさん!」
ナイフが徐々に彼女に近づいていく
しかし……
「ハル またアタシを見つけてくれるかい?」
「アン!」
彼女は涙を流していた、ハルはナイフを投げ捨て、彼女を抱きしめようとする
その瞬間、世界が真っ白に包まれた
2人が目を覚ますと、またソロスの町の宿だった
「あの詠唱……」
「何も分からないけど 多分そういうことだ 僕らは戻ってこれたんだ」
大きな喪失感を抱えたまま、彼らは船に乗った、いつも来るはずの彼女は来ない、いや彼女そのものが世界から消えてしまっていた
「アンさん……」
「彼女を探そう……」
そう言いながら2人は手がかりもないまま探し続けたが、見つからなかった
「ねぇ 本気であの人のこと好きだったの?」
「わかんねぇ 本気と言われれば本気だと思うし そうじゃないなら本気じゃねぇって思う」
「曖昧すぎるね」
「あの人 一人でいる時すげー悲しそうな顔すんだよ…… 俺が隣にいればあの人はあんな顔しなくて済む アンさんには正直あの顔をして欲しくない……」
「……」
ショウは何も言えなかった、ハルは彼女に愛を与えたかったのだ、彼は気がついていないだろうが、そこまでの思いがあるなら立派に好きなはずだ、だがもう……
「でも俺にとって1番楽しいのはショウといることだ」
「ハル……」
「だから大丈夫だ 旅が終わるまでそういう事は忘れて旅をするよ」
「うん 僕もそのつもり」
改めて自分たちは旅に縛られているような気がした、でも終わってからでいいだろう、それからでも遅くない
2日目、いつものレクム島に着いた、ここでも探索を続ける。
何も見つからない……
そう思った時、ハルはある物を見つけた
「なんだこれ」
見つけたのは石版のようなものだった、そこに刻まれていたのは……
「麗しき海賊 アン ここに眠る……」
「これって……」
彼らは理解が追いつかなかった、これがアンさんの墓標だということ。
ショウはその場に魔法陣を書き始める
「何してんだ……」
「それは多分墓石の一部だ 風とか波とかで運ばれてここに落ちてたんだと思う」
「じゃあ……」
「うん」
そう言いながら魔法陣を書き終え、手をかざし詠唱を始める
「それは今ここにあってはならないもの 元の場所に帰るための道を示せ」
詠唱が終わると、石版は動いた軌跡を示し始める、2人はそれを追いかける。
追いかけた先にはアンが立っていた
「ちゃんと見つけてくれたんだね」
「アン…… さん……」
彼女の体は透明になっていた、白いワンピースを着た彼女は恐らく幽霊あるいは亡霊なのだろう
「ごめんね アタシの未練に巻き込んじまって」
「全てを話して貰えますか……」
ショウは声にならない声で彼女に話しかける
彼女からは全てを聞かなければならない、真実を教えてもらわねばならない
「アタシは数百年前に生きた海賊 アン」
彼女はそう話し始める、初めて会った時の絵本の中から出てきた感じは本物の海賊だったからだ
「アタシは海がもっと広かったころ 世界を股に掛ける大海賊だった 仲間も多く 楽しい生活を送ってた」
「昔の旅人って訳か」
ハルは悲しい顔をしながらも彼女と話していく、ショウはその2人を見て何も言わない事にした
「そういう感じだね でもアタシは途中で病気にかかっちゃって 海賊団は解散して 流れ着いた国で余生を過ごそうと決めたんだ」
アンは曇った顔をしながら話し続ける
「でも その国の王子に一目惚れして アタシ達は駆け落ちしたんだ ちょうどハルに似たいい男だった 今考えたら王子と駆け落ちなんてとんでもない事だけどね」
「そりゃ 凄いな」
2人は少し笑顔で話す
「それでアタシ達はこの島でゆっくりと過ごしてた でも長くは続かなかった」
「何が……」
「王子は国に帰らされたんだ 結局追っ手に見つかっちゃってね でもアタシと約束をしたんだ」
「俺が王になったら 必ず君を姫に迎えに行く その時までここで待っていて欲しい」
彼女は涙を流しながら話を続ける
「アタシはずっと待ってたんだ でも生きてるうちに来なかった アタシが死んでも彼が来てくれることはなかった」
「そんな……」
ハルも少し目に涙が溜まっていた、だが涙を堪えてる
「いつの間にかこの世界に残ってしまった自分は 彼の生きた証を見つけるために 彼の国に行ったんだ」
彼女の声が震え出す
「彼は王になってなかった なれなかったんだ 色んな文献を漁っていくうちに 彼が途中で戦争に出て敗れた事がわかった」
「……」
「アタシは姫になんてなりたくはなかった ただあの人の隣にいれるだけで良かった 彼に行かないでと言えなかった自分が今でも悔やみに悔やみきれない」
ハルはついに涙を流してしまった、堪えていたが限界だった
「ここに戻ってきて アタシを成仏させてくれる人を探したかった アタシをちゃんと見つけて アタシの全てを受け入れてくれる人に出会うために」
ハルは涙が止まらない、ついに声まで出てしまう
「泣かないでハル アタシは君達と一緒にいられて楽しかった でも君はこんな亡霊なんかに本気で恋しちゃいけないよ」
「だって…… だって……」
「ごめんね アタシのわがままでこんな事に巻き込んじゃって」
「貴女にはずっと笑っていて欲しい……」
それがハルの答えだった、初めは軽い気持ちで彼女と接していた、だがあの3日間は自分にかけがえのないものを彼女に与えてもらった、今まで忘れていた感情を、忘れてしまった誰かに与えてもらっていたものを。
ハルは座り込んで泣き続ける、止まらない涙が砂の上に水溜まりを作っていく
「ショウ アタシからのお願い 聞いてくれるかな」
「はい……」
その願いは既にわかっていた、そして自分ならそれを叶えられてしまうことも
「アタシを 成仏させてくれ」
「嫌だ やめてくれショウ……」
「アンさんは多分 今までも色んな人を夢に巻き込んでしまってるんだ 彼女自身が術式なんだ この世に残っている限り それを制御する術はないと思う」
「そんな…… そんな……」
ハルは砂を掴む、そして指の隙間からこぼれ落ちていく
「これ以上いろんな人を巻き込むわけにはいかない 成仏させてもらえる人をアタシは探してた」
「魔法陣を書きます」
そう言いながら魔法陣を書き始める。
アンはハルの前に来る、彼女の透明な体は彼をすり抜けることはなく、しっかりと彼を抱きしめた
「ごめんね ハル あなたはいい男 彼に似て アタシに光を与えてくれる青い太陽」
ハルは顔を上げられない、涙を流してる顔を見せたくない、彼女の温かさが体を包む
「君の旅が終わったらまた会いに来て! 話を聞かせてよ!」
涙を流しながら笑顔で話す、その笑顔はまるで空で光り輝く美しい太陽のようだった
「アン……」
「ごめん…… 準備出来ました……」
ショウも涙を流す、親友の事を思うと、胸が痛くなる
「ありがとうショウ君」
そう言いながら彼女は魔法陣の中心に立つ
「ごめんねショウ君 ハルを頼むよ」
「ええ 必ずまた会いに行きます」
そういうと詠唱を始める
「それはかつて人であったもの 道を外れ迷いし魂 今こそ正しく天に我が導き 彼女に想い人との出会いを」
詠唱を終わらせようとしたが、まだ続ける
「天に還るその魂 再びこの世に生まれ落ちて再び我々に出会いを」
追加の詠唱を終え、彼女が光に包まれる
「さようなら アンさん」
「またね 2人とも」
そう言って消えていく
彼女は見た、その先にいた彼を
「あぁ ここにいてくれたんだね…… モルガナ」
彼と再会を果たす、ずっと待ち続けた彼を
「さようなら」
ハルは声にならない声で言う
いつかまた、必ず会いに行くその日まで
その後の彼らは終始無言だった、アルスの町の宿屋で一泊して次に進むのは決まっていたため、最低限の会話で進んでいく。
そして、次の日の朝が来た
「ショウ おはよう」
「ハル…… もう大丈夫なの?」
「あぁ さすがにずっと落ち込んでたらアンに笑われちまう」
一晩たった親友は元気を取り戻していた、この先ずっとあの調子ではまずいと思ったのか、最低限の元気は取り戻している
「ハル……」
「なんだ?」
「いや なんでもない」
彼は気がついてるか分からないが、成仏の詠唱に追加して、ある願いをした、詠唱ではないから実際にその願いが届いてるかは分からない。
ショウは黙ったままにするつもりだ、おそらくこの先ずっと話さないだろう
「なんだよ じゃあ旅に行こうぜ」
「うん」
そう言って2人は町を出る。
道を歩いていくと
「頑張るんだよ2人とも」
2人はそう言われたような気がして、後ろを振り向く。
その道の両側にはネリネの花が咲き誇っていた
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