第10話 潜む影

2日目は、城の中で働く人の調査に出た

暗殺ともなれば、やり方はいくらでもある、正面突破ではなく毒を盛ることだって可能だ、怪しい人物を片っ端から探すため2人はそれぞれ別々の場所で調査を始める。


「この料理美味しいですね」

「ありがとうございます 王にお出しする料理は我々が毎日時間をかけて作っておりますので」

ショウは厨房で調査を進めていた、ちょうど試作の料理があったので試食をさせて頂いたのだが、思ったよりも美味しい、砂漠に生えてるサボテンも味付けをしっかりすれば食べられるものなのだなと感心する。

ショウは料理長に質問する

「それで 明日の式典には僕も出席させてもらえることになったのですが ここで作られた料理が出るんですか?」

「えぇ 私達が腕を振るう料理をお出しするつもりです それこそ このサボテンのカルパッチョは明日の為の料理なんです」

そう言いながら料理長は笑みを見せる

ショウは「ありがとうございます」と一言言うと次の部屋へと歩みを進めていった


「なんなんだあの化け物……」

「もうかれこれ100人近くと模擬試合してるぞ……」

「どうやら王のお気に入りの旅人らしい 確かに強さは折り紙付きだな」

兵士達の目の前では、模擬試合が行われている、どうやら最近来た旅人対兵士達なのだが、もはや組手と化している。

ハルが108人目を倒し、調査の続きを始めようとすると、前から大柄の男が歩いてくる

「あなた凄いですね ただの旅人ではなさそうだ」

「まぁ アルフ王国の元副騎士長候補にはなったことありますからね」

そういった自己紹介をした時、大柄の男は思い出したように話す

「まさかガンゲル殿の馬鹿弟子とはあなたの事ですか?」

「教官を知ってるんですか?」

久しぶりに聞いたその名に少しだけ驚く

「ええ 先生とは定期的に連絡を取ってます こないだ来た手紙では『馬鹿弟子が世話になるかも』というような手紙が来ましたよ」

「別に教官の弟子になった記憶は無いですけどね……」

勝手に弟子呼ばわりされている事に少し思う所はあったが、最後までこんな自分でも、ちゃんと面倒をみてくれていた所は、自分の事を弟子と思ってくれていたからなのかもしれない、と思う

「ですが あなたの強さは先生からの鍛錬の賜物という事は見て分かりますよ」

「そうですか ありがとうございます」

強いと言われて悪い気はしない、ハルは照れながら返す

「是非とも本気でお相手してみたい所です」

大柄の男の不敵な笑みがハルに向けられる。気味の悪い殺気をハルはその身に感じた


「あらーこれも似合うわね」

「これもいいんじゃない?」

次にショウが向かったのは、式典当日に王が着替える場所だ、だがしかし入るには服を試して欲しいと頼まれたので、ショウは渋々そのお手伝いをしながら調査をする事にした。

しかし……

「あの……これ女性が着るものですよね?」

「ええそうよ」

「僕 男なんですけど……」

「関係ないわ! 似合ってるもの!」

ショウは思ったよりも中性的な見た目をしているようで、女性服の着せ替えをさせられていた、周りの女性達は自分に似合う服を見つけては試着させてくる、まるで着せ替えを楽しんでるようだ

その様子を見つめる1人の男性?にショウは話を聞く事にした

「貴方が明日王の服をお選びに?」

「そうよ 私がデザイナーをやってるシルヴィアよ〜 よろしくねん」

ショウは理解する、体は男性だが見た目を女性のようにしている人がこの世界にはいたりする、そういった人のファッションセンスは男性女性共に人気であり、流行を作る者達なのである

「1つ聞きたいんですけど 魔法は使えたりしますか?」

「ん そうねぇ 一応2級を取ってるわ 服の仕立てに魔法の糸を使えるのが良いのよ〜」

「そうですか…… ありがとうございます」

確かに魔法の糸を教わる事ができるのは2級からで、自分も一応教わったが裁縫ができないため全く使っていない

「でもあなた すごくお似合いだわ〜!」

「可愛いわよ ショウちゃん!」

「ちゃんはやめてください……」

恥ずかしすぎて顔が燃えるように熱い、初めて受ける対応に彼の羞恥心は限界だった

「そうだ! このままお化粧もしちゃわない? きっと似合うわよ〜」

「えっ!?」

「いいわねぇ! では早速!」

「あっ! ちょっと! やめてください〜!」

ショウの悲鳴が部屋に響き渡った


ハルは次に執事の集まる部屋に行った、王の身の回りの世話のため、献身的に働く人達の為の指導が行われている。

執事の指導の様子を眺めていると

「おや あなた 執事の仕事に興味があるんですか?」

「うおわぁっ!」

ハルは驚く、いつの間に後ろにいたのか分からない、気配のない老人に質問をする

「びっくりさせないでくださいよ……」

「ほほ これは失礼」

「もしかしてあなたが執事の中で1番の古株のロオスさん?」

「そうです 私はロオスと申します」

老人はそう名乗り、頭を下げる、ハルも頭を下げないといけないと思い、遅れて頭を下げる

「して 執事に興味があるのですか?」

「いえ あー 執事の服を着てみたいなーなんて思いまして……」

ロオスはとたんに笑顔になり

「そうでございますか! ちゃんと返却頂けるのであれば着てもよろしいですよ」

「いいんですか!」

実のところ執事には少し憧れがあった、黒のスーツ、白い手袋、見た目はこの世にある職業の中でも1番と言っていいほどに好きなものだ

「ですが 服を着るだけでは勿体ない 是非とも指導を受けていかれては?」

「いえ……指導までは別に……」

「受けて 頂けますよね」

そう言いながらロオスは圧をかけてくる、老人とは思えないぐらいの圧の恐ろしさに、ハルは負けた

「……はい」

ハルはそう答えてしまい地獄の執事指導を受けることになってしまったのだ


「あぁ 疲れた……」

執事の指導は正直騎士学校の時よりも大変だった、紅茶の入れ方などの繊細な作業は初めてなのに何故かできたのだが、何よりも姿勢の強制が厳しい、木剣で叩かれることはないが、棒でいちいち体のズレを強制してくる、その圧と指導の回数、時間に彼の心は疲弊してしまった。

ふと前を見ると、向こうからドレスを着た女性がやってくる、遠くからでも美しい、明日の式典に向けて既に現地入りしてる他国の姫もいるのだろう。

そしてその女性はハルの目の前で止まる

「ハル!? どうしたのその姿」

彼女からショウの声がして驚く、彼は女ではない、だが化粧をして、ドレスも着た彼はその辺の周りの女性よりも綺麗で可愛らしい、ステラと並べても全く見劣りしないだろう。

ハルは悪戯心でその場に片膝をつけてショウの手を取る

「ショウ 貴女をお迎えに上がりました」

ショウはドキッとする、執事の服に身を包んだハルが本気でエスコートしに来るとここまでかっこいいものなのか、今まで彼に感じたことの無い感情が湧く

「うん よろしく」

ショウがそう言うと2人は見つめ合う、何故かこのまま……

「おいおい 2人とも なーにやってんだよ」

「「えっ!?」」

急に王の声がして2人は我に返る、危なかった、というかこの状況を王に見られたのでアウトではあった

「なになに おもしれぇ事やってんじゃん」

「違う! これは別にその」

「服をお借りしてるだけです! お化粧も勝手にさせられました!」

2人は顔を赤くしながら否定する、決して2人はそういう関係ではない、見た目が違うだけで一瞬そういう事をやってみたくなっただけなのだ。

2人を見ながら王は話す

「まぁまぁ 落ち着け とにかく大事な話がある からとにかくまずは2人とも服を返してきてくれ あとお嬢様は化粧も落とすこと」

「お嬢様……」

王にもからかわれ、ショウは赤らめた顔を隠すしかなかった


服を着替えた2人は王の自室へ呼ばれた、中では王が待っており、隣には傍付きの魔術師のファウが立っている、どうやら今回は彼も今回の話し合いに参加するようだ

「で 調査の方は進んでいるのか?」

「ええ まぁ」

「そうか 遊んでるだけじゃなくてちゃんとやってくれてるようで良かった」

「ただ 誰が犯人の可能性があるかは断言できません 誰もが怪しいと思えてしまう」

ショウは今までに会った人皆をそういう目で怪しんで見てしまっている

「まぁ そうなるか……」

「1つファウさんにお聞きしたいことがあります」

「なんでしょうか」

「今回の暗殺の件はあなたが予感されたと王は言っていました その根拠を教えてください」

「分かりました いいでしょう」

そう言いながらファウは奥から水晶玉を持ってきて、台の上に置き、起動する

「私は動物達と視界を共有し それを水晶玉に写したり 記録したりする事ができます」

水晶玉の中に景色と人々が映る

「これはあなた方がこの国に入る1日前の門近くの様子です」

街の中にフードを被った男が入っていく、門番からはちょうど死角で見えなかったのだろう、そのまま街の角を曲がっていった

「と このように不審者が中に入って来ており そこから行方を追えていません」

「なるほど」

「こんなやつ見た事ねーな」

ファウは水晶玉を片付ける

「そうですか ありがとうございます」

「いえいえ 調査のご協力が出来て何よりです」

そして2人は王と少し話をして楽しみ、そのまま宿屋に帰った

その2人の様子を見つめる存在がいたが2人は気が付かなかった

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