濁り/ insanity
與座 宙
第1話 非日常
「殺意は死んだらどうなると思う?」
その言葉とアラームの音と共にワタルは飛び起きた。
寝過ごしたかと思いすぐさま携帯の時計を確認するが、時刻はまだ6:30だ。
最近のワタルの中でのプチブームは起きないといけない時間より早くアラームを設定し、二度寝につくというもの。
しかし今日は少し違った、夢の中で誰かに何かを聞かれたような気がした。
普段ならここからまた少し寝るのが日常だが
今日は目が冷めてしまった。
体を起こし換気扇の下でタバコに火をつける
20歳から吸い続けているタバコとも今年で8年目の付き合いだ。
たまにはと思い朝風呂を長めに入り仕事の準備をする。
ワタルは都内では乗車率No. 1の鉄道会社で駅員として働いている。
元々駅員になりたかったわけではないが
田舎から上京してきてアルバイトを淡々としていた時に
駅によくある
「駅員募集中!」の張り紙を見て固定給だし
なんとなくその場のノリで就職した。
今日は泊まり勤務なので9:00〜翌朝9:00のシフトだ。
出社してすぐ駅長と上司からの指示の確認。
時計を正確に合わせて業務開始。
「あれ!ワタル今日泊まり勤務?」
ケイタがワタルを見つけるなり話しかけてきた。
「そうそう、今月から泊まり勤務増やそうかなと思って、深夜の業務割と好きなんだよね」
「まじか!ワタルと被るの久々だしテンション上がるわぁー笑」
ケイタとは同い年でワタルと同期入社だ
他の駅員とも割りかし仲はいい方だが
ケイタは同い年ということもあってかよく飲みに行く間柄だ。
「そういえば昨日の人身事故大変だったらいしぜ、2時間も動かなくて対応てんてこ舞いだったらしいわ。」
「あぁ、さっきちょっと聞いた。ケイタは人身事故経験あったっけ?」
「俺入社してすぐだよー!初めて目の前で見た時のあの感じ忘れきれねぇわ。ワタルは?」
「俺実は今まで一回も無いんだよなぁ。いつかは経験するって言われたけど、入社して4年経つのに目の前で見たことない。」
「それ普通ありえないよなー。ラッキーすぎるって!、、あっ、時間やべ!ワタルじゃあまたあとで!昼飯一緒に食おうぜー!」
「オッケー、じゃあまた昼休憩で」
ワタルは午前中ロマンスカーの列車監視をして
券売機付近で困ってるお客様の対応、
それから昼休憩と言う流れだ。
駅には乗車待ちの客、他の駅員達、
夏前というのもあってか、少し蒸し暑い空気がただよっている。
今日も普段と変わらない"日常"が過ぎるのだろうとワタルは思っていた。
その瞬間までは。
乗車待ちの客で少し行列ができていた。
10:46発のロマンスカーが到着する寸前だった。
その瞬間ワタルの目の前で女がホームドアをよじ登り身を投げ出した。
彼女が飛び降りる時ワタルはいきなりの事で脳が追いついていなかったが彼女の顔だけは見ることはできた。
彼女はしっかりとワタルの事を見ながら呟いていた。
「殺意は死んだらどうなると思う?」
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