実力のインフレが過ぎる時代に転生したんだが

@Nier_o

第1話 世界最強、転生す

穏やかな風が、まるで私の来訪を祝福してくれるかのように過ぎ去る大地にて。

私は、とある墓石の前で屈んでいた。


「父さん、母さん、ただいま」


そう挨拶をしながら、両親が眠っている墓石の前で目を瞑りながら手を合わせる。

私の両親がまだ天国から見守っていてくれているのかそれはわからない、けど


「例えもう生まれ変わっていて見ていなくても、最後に感謝を伝えに来た。見ての通り私はもう老いぼれ……自らの死期を悟ってしまうようになってしまったよ」


私は口元に少しだけ笑みを浮かせながらそんな縁起でもない事を口にする。


――私こと、ハイゼス・シーヴァルは恵まれていた。


ありとあらゆる術……武術の才、剣術の才、魔術の才――どれを取っても超がつくほどの一流にまで上り詰めれるほどの才能を持っていた私は運命か、はたまた必然なのか……世界で誰一人として私と肩を並べる実力の持ち主が現れない程までに己の実力を高めていた。


それもこれも全て両親のおかげなのかもしれない。


どれだけ類まれなる才能を持っていても、それを伸ばすよう強要してしまえば

伸ばすことを拒絶し才能の芽が枯れていく事もあるだろう。


しかし、私の両親は決して強要をしない人だった。


やりたいことはとことんやって、やりたくないことがあったらやらなくて……逃げたいときには逃げればいいんだと、そう幼き日の私に真剣に説いて来るような人達だった。


いつも笑顔で、何をするにしても笑っていて、退屈なんて言葉、この人達にとって存在していないんじゃないかってくらいいつもいつも本当に楽しそうに過ごしていた。


そんな明るく笑顔を絶やさない人間の元にも、死は平等にやってくる。

私の両親は真っ当に生きて、天寿を全うした。

それは何もおかしい様な事じゃない。


生きとし生きるものは皆全て、寿命という絶対的な法則ルールには抗えない。

魔法や魔力の力で寿命を伸ばしたり若返りでもすれば理論上は法則ルールから逃れられるのかもしれないが、それも言ってしまえばただの延命処置でしかない。


そうして数十分か手を合わせた後、私は目を開けて立ち上がり、そして――


「すまない」


謝罪をした。


「きっと私もそっちへ逝った方がいいのかもしれない、けれど私は……もっともっと、力を付けたい」


私は一人の人間としてこれ以上ない程に完成してしまった。

武術も魔術も剣術も、私の右に出る者は居ない。

そう豪語できる程までに私は己の実力を極めに極めた。

……だがそれでも私は、まだ上へと、高みを目指したかった。


飽くなき力への渇望、それは傍から見れば狂っているのかもしれない。

だがそれでもいい、たとえ狂人と思われようと、言われようと――私は私という存在の最高到達点にまで上り詰めたいのだ。


そこで私は考えた。どうすればこれ以上の強さを求められるのかを。

さっきも言ったが、魔力を用いれば寿命を伸ばすことだって可能だろう。

そして私にはそれを実現できるだけの知識、力がある。


――だが、それではダメなんだ。

今のこの肉体での限界はとうに知り尽くしてしている。

いくら鍛錬を積み重ねてもこれ以上強くならないことは自分が一番理解しているのだ。


これ以上この時代で長生きして更に修行をしたとしても成長しなければ意味がない。

ならばどうするか――そこで思いついた最も手っ取り早い方法こそが転生だった。

新しい肉体を持って新しい環境に生まれ変れる事ができれば、私はまた更に強くなれる可能性があると考えたのだ。


だが転生魔法なんて代物は恐らく存在しない。

存在していたとしても、それはきっと自分の記憶すら引き継げないようなちゃちな代物だろう。


でもそれは私の求める転生魔法ではない。

私が求めているのは、私を私たらしめているものその全てを来世に引き継げる。

そんな大層な代物だ。


だからこそ私は――一から転生魔法を作り出した。


もちろん本当に転生出来るのかなんて分からないし記憶だってどこか抜け落ちてしまうかもしれない。

それに、今の私の力だって完全に引き継げるかも分からない。


作った身で言うのもなんだが、転生魔法を発動させてしまえば後は成功するか失敗するかの完全な賭けだ。


――正直、なにも引き継げないというのもそれはそれでいいのかもしれない。

この欲望から逃れて来世では力に固執せず、普通に生きて普通に死ぬのもいいだろう。

……それを決めるのは来世の私、か


そんな事を考えながら、私は今一度両親の墓石を見つめ直し


「……それではな」


そう言い残してから私は墓石の前を立ち去る。

そして、自宅にて転生魔法を発動させるのだった。


――

  ――

    ――

      ――

        ――

          ――

            ――。


――――私が意識を取り戻してから最初に見た光景というのは、いつまで経っても安定しないぼやけた世界だった。

背中には、布団でも敷かれているのかというくらいにふわふわで柔らかな感触を感じる。


(……ふむ、よく見えない)


えーっと待てよ?なんだこの状況は。

よし、さっきまでの記憶をもとに情報を整理しよう。


確か、両親の墓参りに行った後、私は無事に家の中で転生魔法を発動させて、それから――――。

……いやそれだからつまり、私は未来に転生出来ていないと可笑しいという話になるじゃんけ!だけど視界がボヤけてて何も見えないよ!!確認の仕様が無いよ!!


――ただ、風があまり通っていないのを感じるにここが屋内だという事は辛うじて理解できるし、体に巡る魔力も……うん、感じられる。


「あらゼスカ、目が覚めたのね?」


その時、お淑やかな女性の声が私の耳に入り込んできた。

ゼスカ……?それは、私の事だろうか?


周りが良く見えない為、私以外の人間がこの場に存在しているかどうかが良く分からないので、その名前が私を指しているのかが良く分からない。


……だがしかし、状況を確認する為にも一応返事みたいなのは返しておこう。

これで反応を返してくれれば有難いのだが……。


あ、あうにうあこ、こんにちは?」


あれ?上手く発音が出来ないんだけど?何故?なんで?いかがして?


「ん~?どうしたの?ゼスカ、抱っこ?」


お淑やかな女性がそう言うと、私は宙に浮いた。

そして、服の感触と、包まれるような暖かな感触が体を支配した。


「あなたは本当に可愛いわね~ゼスカ」


猫撫で声で、女性が言う。


(……これってまさか!!)


――確信した。


私、赤ちゃんになっとる。

抱きかかえられとる。

転生成功しとる。

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