第2話 エイネリア訓練校へ
アルティの適合が確定してから1時間ほどたち使者は検査に関する書類をまとめ終え、騎士団に帰還しこれを処理するという。
4人と1匹に見送られる中で使者はアルティにこう告げる。
「ドラゴンを召喚したエイネリアは聖国ミネルヴァの歴史上、初代騎士団長しか確認されていない。検査用のエイネン結晶は霧散してしまって君のエイネン属性を知ることはできなかったが……」
神妙な面持ちで使者は言い、後にこう続けた。
「そのドラゴンがいるだけで君は将来を約束されているようなものだ。だが……困難な道にもなるだろう。どうか、挫けずに素晴らしいエイネリアとして頑張って欲しい。貴女のエイネンに祈りを」
使者はアルティの功績とその希少性を告げ、またその偉大性を示したのちに彼女のこれからを案じて馬車に乗り込んで王城の方へと去って行った。
「私がエイネリア……か。まだ信じられないや」
アルティはすっかりおとなしくなったドラゴンを撫でながら小さくなっていく馬車を眺めている。
未だに自分が魔力を持ち、その訓練を受けられることに実感が湧いていないのだ。
使者の言っていた訓練校とはエイネンと呼ばれる力に適合した人物が各々の属性や傾向にあった訓練を受ける言わば養成所のような場所だ。
管轄は聖国ではなく騎士団といったところや、エイネンの強さによって階級があるものの本質としては学業を修める学校と呼ばれる施設に近いものだ。
「でも、本当に嬉しいな。アルティちゃんがエイネリアになれなかったら私一人で訓練校に行かなくちゃいけなかったんだもん。そんなの寂しいよ」
そう発したのはリリーだ。
彼女は先天性のエイネリアで、生まれながらにしてエイネンに適合があった一人である。
一般的にエイネンへの適合は両親からの遺伝か後発性で何らかの属性に適合するかの2択である。
聖国ミネルヴァではその比率はほぼは半々といったところである。
エイネリアとは字のごとくエイネンに適合した人のことを称する言葉であり、聖国ミネルヴァ以外の諸国でも共通の呼称である。
「リリーちゃんなら1人でもきっと大丈夫だと思うんだけどね。でも、同じ学校に通えるなんて嬉しいな。正直、適合するの諦めかけてたし……」
アルティは少し曇った表情で返事をする。
「アルティ」
そんなアルティをみた彼女の父はそっと肩に手を置き話しかける。
「お父さんは誇らしいぞ。今回やっとの思いでエイネンへの適合がなされたことはもちろんだが、これまで検査に落ちたとしても次には適合してるって、大きな声でいってたアルティのことが。お前は本当にやってのけたんだ。すごいよ」
父の言葉がアルティの心に響く。
優しく、時に厳しく、いつでも見守っていてくれていた尊敬する父の思いが、ただ純粋に嬉しかった。
「うん……ありがとうお父さん。私はなれたんだよねエイネリアに」
「ああ」
父親はただ優しく頷く。それを聞いたアルティの頬に水が伝う。
「これからだよね、みんなのために生きていくのは」
「ああ」
アルティの瞳から零れる熱い雫で前が見えなくなる。
「ドラゴンさんもいるんだもんね。きっと上手くいくよね」
「もちろんさ。お父さんの自慢の娘だ。誰にもできないことをやっていけるさ」
そう言って父は優しくアルティを抱きしめる。
「お父さんっ!!」
アルティは不安と喜びが混じり合った不思議な感情を抑えきれずに涙を流した。
父の胸中で、大好きな母の前で。信頼している親友の前で。召喚後抱きしめたままのドラゴンの上で。
恥じらいもなく大きな声で泣いていた。溢れる涙がドラゴンの角や口元を通って床に染み込んでいく
アルティは夢への第1歩を踏み出した。
――数日後。
朝を告げる大聖堂の鐘が鳴り響く頃、アルティの自宅に一通の書簡が届いていた。差出人はエイネリア訓練校の校長から。
内容はこうだ。
「アルティ=ノーラ殿。まずはエイネンへの適合を心よりお祝い申し上げます。早速だがこのような書簡を送らせて頂きました理由についてですが、貴殿はドラゴンを召喚されたとのこと。その際に本来判別する予定でありました、エイネン属性の再検査を致したく、ここにご報告と御足労頂きたい所存です。エイネリア訓練校」
そう。本来の適合検査であればその時点でアルティのエイネンの属性と傾向が判明していたはずなのだが、彼女の場合は水晶が砕けてしまったためにそれを判別できないままでいた。
そもそも、エイネンとは何か。
それは世界の概念そのものと言っていい。
万物がエイネンにより象られており、エイネリアは自身が適合した属性を扱うことが出来る。
例を挙げるならば『土』のエイネンに適合した者が居たとする。
その人物は『土』に関わるエイネンを行使できるのだが、万能では無い。
というのも、エイネンには『傾向』があるからだ。
これは、エイネンをどの様な形で扱うことが出来るのかというものであり、多様である。
リリーを例に挙げると、彼女の属性は『土』であり傾向は『造形』。
つまり、彼女は土を用いて何らかを形作ることに特化しているエイネリアということである。
これは彼女が先天的なエイネリアであり、両親の属性傾向を色濃く受け継いでいることに由来する。
逆に後天性のエイネリアはこれに属さない場合がほとんどでありアルティの能力もそうであると推測される。
後天性のエイネリアはその総数で見れば3割程であり多様かつ代替の無い希少な能力である事が多いため、能力によっては国家の資産たりうる可能性もある。
そのためか、訓練校もできる限り早く彼女のエイネン属性と傾向を調査しようとしているのだろう。
「つまり私は訓練校に通う前に行かなきゃ行けないってことだよね?」
「うん、そうみたいだね。でもアルティちゃんなら大丈夫だよ! ドラゴンさんも居るし心配ないって!」
少し不安げな表情のアルティにリリーはそう優しく答える。それを聞いたアルティもまた安堵の息を漏らす。
「そうだね、他の国に比べて私たちの国は安全だし大丈夫だよね」
そう言いながら、アルティは帰宅するというリリーを見送り訓練校へ向かう準備を始めるのであった。
翌朝、アルティは王都にある訓練校へと向かっていた。
「ふう、やっと着いたみたいだね。南の門から入ってって言われているけど、ここで合ってるのかな?」
アルティの目の前には堅牢な造りの学舎とその周囲を覆う塀があり、金属製の扉の前には2名の騎士が駐在している。
「あの……手紙が届いて来たんですけれど、訓練校の入口ってこちらであってますか?」
アルティは恐る恐る駐在する騎士に声をかけると、騎士は毅然とした態度で答える。
「ああ、ここで間違いない。確認のため届いた手紙を拝見しても?」
そう言われ、アルティは肩にかけたカバンから手紙を取り出し騎士に手渡す。
すると、騎士は少し焦ったような表情をした。
「こ、これは……失礼した。アルティ=ノーラだな。中に入っていいぞ。建物の中央にある階段から5階へ行き、1番大きな扉の部屋に差出人が待っておられる。粗相のないようにな」
それを聞いて、もう1人の騎士が動き出し2人で扉を開ける。アルティは言われるがままに訓練校の敷地へと足を踏み入れていくのだった。
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