絶叫

渡貫 真

絶叫

おや、見ない顔だね。

あぁ、君もあの噂を聞いてやってきたのか。

噂は本当だよ、私は呪いを売るんだ。ただし、効果は一切保証しない。

陰陽師がどこにいるか分からないし、最近は闇の浅瀬が暴かれ、その深さからはみんな目を背けてしまっているからね。

生半可な呪いではうまく逃れてしまう、言い訳の上手い奴ばかりだ。

――それで?

君はどんな呪いが欲しい?


なるほど、いじめで死んだ友達の敵討ちがしたいけど相手が多すぎると。

それならいい呪いがあるよ。


この原稿用紙は何かって?

これはね、聞かせた相手がその罪の分だけ報いを受ける文章さ。

おっと、これを売る前に、説明も兼ねた昔話をしておこう。


この文章を書いたのはとある高校の男子生徒だったんだ。

彼は文学部に所属していたが、まるで才能がなかった。

そして彼にはやりたいことも出来ることもなかったので、自傷行為のように決して報われない創作を10年も続けていた。

類は友を呼ぶとはよく言ったもので、文芸部には段々と傷付いた子供たちが集まって行った。

最初はうまく支え合っていた。

彼らにとってお互いに大切に思える初めての相手だったからね。

だけど、彼らのうちの一人が、虐めの悪化を苦に自殺してからは全てが崩壊した。

彼らは、自分達にもまだ失うものがあったことに気が付いていなかったんだ。


仲間の死が、自分達とつるんでいたことによるいじめの悪化によるものだと知った文芸部の面々は、また一人、また一人と、自分達の抱える問題に喰い殺されていった。

ギャンブル中毒の親を持つ女の子は手首を切って風呂場につけた。誰からも愛されず、小説しか愛せるものが無いのに、小説の才能に愛されなかった女の子は睡眠薬を過剰に摂取した。貧しく、売春を強要されている少女はまだ楽しかったころを思い出しながら飛び降りた。

最後に残された男の子は、ささやかな復讐に出ることにした。


次の年、彼は生徒会長になっていた。

いじめが放置されているような荒れた学校だったから、いかにも真面目な彼は立候補するだけで当選したようなものだった。

生徒会長の就任演説で、壇上に立った男の子は叫んだ。

「お前らみんな死んでしまえ!

 あの子は死んだ、お前らがいじめたからだ!

 あの子は死んだ、お前らが愛さなかったからだ!

 あの子は死んだ、お前らが手を差し伸べなかったからだ!

 死んでしまえ!死んでしまえ!

 お前たちが幸せになった頃、俺が必ずこの文章を持ってお前たちの罪を叫ぶ。

 お前たちが幸せを掴みそうになる度に俺はお前たちに過去を突き付ける。

 お前たちが死なない限りずっとだ!」

ってね。

 これを聞いた生徒たちは青ざめた。

 特に、文芸部の面々の死因に心当たりがある生徒たちの顔色は酷いもので、また一人、また一人と学校に姿を見せなくなったそうだ。


 ん?何を怒っているんだい。

 そんな話聞きたくない?それに、この男は何もできなかったんだから八つ当たりじゃないかって?

 なんだ、君はもしかして少年に糾弾される側なのかな?

 わかったわかった、2万円だよ。


 あぁ、行ってしまったね。

 最後に残された少年の言う「お前」に、自分自身が含まれていない筈がないのに。

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絶叫 渡貫 真 @watanuki123

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