噂の楽園を目指して

綺麗な風景写真が撮りたい

第1話 噂話を信じて旅立った

 吾輩は『カメ』と言う動物名の存在らしい。


 丈夫な甲羅も持たないで、元は他の動物名を持つ存在であったらしい革や、元は植物であったらしい存在のもので、甲羅のかわりに身体を覆っている『人間』と言う動物名の存在が、そんなことを言っているのを聴いたことがある。


 だから吾輩の周囲に居る、姿かたちが違うものたちの動物名も知ることが出来た。


 また『人間』と言う動物名の存在には、個別に違う呼び名があるらしい。


 空を自由に飛ぶことが出来る、真っ白な『サギ』と言う動物名の存在たちが、吾輩が今住んでいる北の池の隣にある、南の池に遊びに行ったときの話をしていた。


 集団になって騒ぐ『サギ』たちのうわさ話に聞き耳を立てていると、南の池には、何でも毎日のように食料を貢いでくれる存在が居るらしく、日々の食料を必死になって探す必要がほとんどない、楽園のような状態になっているらしい。


 吾輩同様に聞き耳を立てていた、紅・白・黒とカラフルな色彩の『コイ』と言う動物名の存在が、自由に『サギ』が空を飛んで、簡単に南の池に行けてしまうことを、とっても羨ましがっていた。


 そして『コイ』は、絶対に水の中から出ることが出来ないのだから、こればかりは仕方がないし、どうにもならないことだと嘆いていた。


 だが吾輩は、『サギ』のように自由に空を飛ぶことは出来ないが、『コイ』とは違って、水の中から出て陸に上がって、ゆっくりとだが陸を歩いて行くことが出来る。


 もしかすると南の池に行けば、今よりも楽な暮らし、食うに困らない暮らしが出来るかもしれない・・・


 吾輩は、吾輩が住む食料の少ない北の池から、南の池に行けば貢物で食料が豊富にあるとの『サギ』たちのうわさ話を頼りに、南の池に引っ越しをするために、陸に上がり、ゆっくりと歩いて行った。


 すると急に、吾輩の何千倍も大きい『超巨大なカメ』らしき存在が、凄いスピードで目の前に現れて、吾輩の目の前に「キィィー」と言う音と共に停まり、「ゴッゴッゴッゴッ」と低い声で唸っている。


 かつて『巨大なカメ』らしき存在に、躊躇なく踏みつぶされた、仲間の無残な姿を見たことがあったから、恐怖した。


 そしてさらに『人間』なる存在までが現れて、吾輩は捕まってしまった。


 あぁ~殺されてしまう・・・と思ったが、あっという間に甲羅を掴まれてしまったので、何も抵抗することすら出来ず、手も足も出ない。


 恐怖に震えながら、頭も手も足も甲羅の中に入れて耐えていると、何故か解放されたらしく、『人間』の気配が消えた。


 さらに、『超巨大なカメ』らしき存在の気配も、いつの間にか消えていた。


 恐る恐る甲羅から頭を出してみると、目の前に南の池が観えた。


 吾輩は可能な限り急いで、南の池へと続く土手の斜面を必死に降って行き、南の池の中に飛び込んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る