罪なきはバチレス

ネコロイド

罪なきはバチレス

 この上なく存在感をアピールする『罪』『罰』の上下巻セット。

「オレの、いやオレたちの罪とはね、タイトルでお腹いっぱ一杯にしてしまう事なんだ」

そう自らの行いを振り返るこの男はまさに罰を甘んじて受け入れているところだった。

本当はドフトエフスキーそれを言いたかっただけなんじゃないのか?と下らない事を想い、この辞書みたいな分厚い何かに目を向けて、長年の積ん読の定番となった2冊をどこに置くべきかと悩んでいた。

タイトルが重くて今のインテリアに向かない事は確かだ。

「じゃあさ、読めよ」っていう声が聞こてくるのはこの男も百も承知である。

だけども、けれども。

「そうだよ、オレの手は本を捲らずにそいつをトイレに移動させたんだ、ただそれだけの筈だった」

いつか読むかも知れない日のためにトイレの窓の縁に並べ積み上げられた新入りという訳だ。だが新入りというには些か疑問を感じ誰もが一度は口にした事のあるビッグネーム。


 ある日の事、用を足すこの男に悲劇が訪れる事となる。

紙がない、そうそれはよくある一幕。

「そうだよ、オレはただ一番分厚いやつが良いじゃないかって思っただけなんだ」

選り好んだ訳でもなく一枚破いてケツを拭く。

「オレだって馬鹿じゃない、バチあたりってのは分かってるさ」

たがその背徳感が男を駆り立てる。

「もはやただの紙切れだったよ、オレにはね」

決してシルクの柔らかさを堪能できる訳でもないのに男は知的財産、人生のバイブルというべき紙を破いては斜めに読んでケツを拭く、この所業に快楽を感じていた。


 だがその快楽も永遠に続く筈もない、593日目の朝も何食わぬ顔で用を足していた。

「オレはさ、永遠に罪なんて知る事はないと高を括ってたんだ。だからさ、最後の一枚を破ってケツを拭いた時に罰とは何かについて真剣に考えておくべきだったんだ」

男にはその日、罰を受ける事とになってしまた。


罪に対する罰


バチってあたるんだよ」

そう語ると男はトイレから暫く出る事はなかった。


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