第56話

「それにしても、このハンバーガーっておいしいわね」


 そう工房で王女が両手で食べながらいった。


「はしたないですよ王女」


 リディオラさんが眉をひそめる。 ガルバインさまとミネルバさまは苦笑している。 二人は王女と会議があってきていた。


「毎日、お上品にナイフとフォークじゃ肩がこるの」


「それで、今はかなり安定しているってことですか?」


「そうだ、王女に敵対的だったアースラントとその一派は、軒並み投獄、領地も位も失った。 もはやこの国に王女と敵対するものはいまい」


「それに、それらの貴族に取り入り、市場を独占し、搾取してきた大商人も力を失いました。 その事で市場が流動的になり、富も分配され始めましたね」


 ガルバインさまとミネルバさまが説明してくれた。


「市場の独占か...... ぼくはそれほど影響はなかったな」


「トールどのは市場のほぼなかったパン販売ですからね。 新規の事業だからと放置されていました。 しかし、利益がでるとしられ始めていたので、悪徳商人たちがあのままだと、いずれ危険にさらされたでしょうね」


リディオラさんがいうと、王女もうなづく。


「間違いなく、妨害、店や土地の売却強制、最悪暗殺なんかの危険があったわ」


(そうか、あのままなら狙われていたのか)


「それで、みなさんはパンを食べに来られたのですか」


「ええ、巷で噂になってるからね。 城ではうるさくて食べられないもの」


「確かにそうですね」


「ああ、様式とか格式があるからな」


「とてもおいしいです」


「ピィ!」


 みんながパンは喜んでくれている。 


(人が開発したものなので、後ろ髪引かれる気持ちだけど、喜んでもらえるのは素直に嬉しいな)


 その時、店の扉を叩くものがいる。


「王女いらっしゃいますか!」


 それは見知ったカインさんだった。


「どうしたの?」


「実は...... エクロートがせめられ城が陥落しました」


「エクロートが!? どうして!」


「それがタルタニアが突然攻めたのようなのです......」


「すぐに城にいくわ...... 悪いけどトールもきて」


「わ、わかりました」


 すぐに城へとむかった。



「......なるほど」


 話によるとエクロートにタルタニアが攻めこみ、瞬く間に全土を掌握したという。


「それにしてもこんなあっけなく落ちるとはね」


 王女は椅子にすわりつぶやく。


「でも兵力ならほぼ同等、すぐ落ちるなんて考えられませんが」


 ガルバインさまがそういう。


「ええ、どうやらモンスターを操っていると」


 アモニア大臣は眉をひそめいった。


「やはり、それではダレスはタルタニアの手の者だったのですか?」


「かもしれないわね。 あの杖で魔力を奪いモンスターで軍をつくった」


 ぼくがいうと、王女はうなづいた。


「その準備のため我が国で暗躍していたのかもな」


 ガルバインさまがミネルバさまをみる。


「でも、すぐこの国を攻めなかったのはなぜでしょうか。 エクロートよりこちらを攻めた方がいいはず」


「ゴールデンバードの群れがいるからかもね」


「確かに、あの数のゴールデンバードは戦力として脅威、ダレスが加わっているなら、その状況も理解している。 ですが、そう遠からず攻めてくるのでは」


 リディオラがいうと、王女は腕を組む。


「ええ、兵力を国境に向けて、あとは友好国への連絡と情報共有を急いで、ガルバインは貴族たちをまとめて国境を守って!」


「はっ」


 王女の命で、ガルバインさまたちは動き出す。


「それにしても、こんなタイミングで戦争なんて......」


 ぼくがいうと、王女はこちらをみる。


「他に理由があるっていうの」


「ええ、この国がもめている情報は入ってるはず、アースラントが反乱を起こしたとき、後方からつけたはずですよね」 


「......そうね。 確かに私もそこは引っ掛かるわ」


「それでは何かエクロートを攻める理由があった......」


「王女、エクロートという国はどういう国なのですか」


「......そうね。 エクロートは元々はジェルディア魔導帝国という国の領地だった。 ジェルディアが滅んでそこに建国された国よ」


「ジェルディア...... 滅んだ国」


「まさか、その関係したものだとでも、数百年もまえの話よ......」


「もしかしたら遺物や魔法関連の道具があったのかも」


「......それなら可能性もあるわね。 ただ今のところ兵力を増強するしか手がないわ」


「ぼく、すこし調べてみます」


「あっ! まちなさい! 危ないわよ」


 ぼくはとても気になってエクロートに向かうことにした。

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