第48話
外は月明かりもない夜。 暗い部屋のベッドでサイゼルスさまが眠っている。
ゆっくりと部屋の扉が開く、しかしそこには姿もない。 しかしかすかに足音がする。
「近づきました!」
ぼくの声でサイゼルスさまはシーツをはぎ、剣を振るった。
高い金属音がすると、空中に突然ナイフが現れ、床に落ち滑った。
「くっ!」
「こむぎ!」
「ピィーピーー!!」
吹雪が姿なきものに吹き付けられる。 するとそのシルエットがうつしだされる。 その姿は背中に翼があった。
「スクワイドさん......」
スクワイドは、その姿を現した。
「どうやらはめられたようですね......」
そうスクワイドは淡々と答えた。
「なぜ、貴様が......」
サイゼルスさまが聞いた。
「なぜ、お金のために決まっているでしょう。 金払いのいいもののために働くのが傭兵です」
そう当たり前のように、悪びれもせずスクワイドはいった。
「なんで亜人のあなたが他国にくみするんですか! 本当にお金だけなんですか!」
「......ええ亜人だろうが、別に全てのものが、ここに愛着があるわけではないですよ。 亜人とて、ここで犯罪をおこすものだっているでしょう」
そういってスクワイドさんはニヤつく。
「そんな詭弁など聞く気はない。 エクロートとの関係洗いざらい話してもらうぞ! 瞬け、駆けよ、一迅の風よ、ウィンドスラッシュ!」
サイゼルスさまは、一瞬でスクワイドに近づき、その体を剣の柄でつき倒そうとしたが、その瞬間、スクワイドの体はきえる。
「これは分身!?」
「
ぼくの
何かを弾いた。 床にナイフが現れ落ちた。
「
「がはっ!!」
壁に叩きつけると、気を失ったスクワイドがその姿を現した。
「まさか、スクワイドが裏切っていたなんて......」
ブレストさんたちは驚いて言葉を失う。 次の朝、城へとブレストさんたちを呼び、昨日の経緯を話したからだ。
「盗賊などは私の暗殺のための囮のようだな」
「......兵士を盗賊や前線にへばりつかせて、サイゼルスさまの警護をへらし殺害するつもりだったんでしょうな」
リエルさんがサイゼルスさまの意見にうなづく。
「そうなればこの国とエクロートの戦争は確定か......」
ディーラさんが考えるようにいった。
「それにしてもトール、スクワイドが裏切りものだとなぜわかった?」
「ぼくたちの行動は盗賊たちがしっていた。 森の襲撃のときも、アジトの制圧時も先よみするように知られていました」
「ただ、それだけではわからないだろう?」
「ええ、一番はアジトに入ったとき、誰かが魔法使いたちにぼくとこむぎの存在をばらした。 あの場所でぼくの能力を知るのはブレストさんたち傭兵の誰かしかいない。 しかもぼくが強打して昏倒したはずの魔法使いがいなくなったことです」
「姿を消す魔法か......」
「はいブレストさんたちの中、難しいとされる回復魔法をつかうのはスクワイドさんだけ、おそらく昏倒した魔法使いを、あの乱戦で隠したんだと思いました」
「確かに我らのなかで、魔法にたけてるのはあやつだった......」
悲しそうにディーラさんは拳を握る。
「......ええ、それでサイゼルスさまにその事をはなすと、囮になるとおっしゃられて、お止めしたのですが......」
「ご気性だから仕方ないな」
あきれたようにブレストさんがいう。
「しかたあるまい。 このまま放置すれば、隠れてあやつは暗躍しよう。 お主らは傭兵、確証がなければ国とて捕縛も難しい」
「確かに...... いきなりいわれていたら、武器をもち反抗したかもしれませんな」
ブレストさんが沈痛な面持ちでそういった。
「まさか同じ亜人が裏切ってるとは、つゆほども考えなかったしな......」
「ああ、我らも人間に偏見があったからな。 そこを利用された。 ぬかったな」
ディーラさんとリエルさんも肩を落とす。
(確かに人間と亜人の長年の
「とはいえこれでエクロートの戦争口実を阻止した。 とりあえずは安心だろう。 トールは戻るか」
サイゼルスさまが聞いた。
「いえ、パン工房が完成するので、すこしだけここにいます。 畑や果樹園ができたら、ここも潤いますし」
「ああ、そうしてくれると助かる」
サイゼルスさまはそう微笑んだ。
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