第2話

「ここが町か......」


 町には洋風の建物が並ぶ。 リディオラさんと話しながら、町まで連れてきてもらっていた。


(どうやらここは本当に異世界みたい。 リディオラさんの話だと、バルチア王国っていう国らしいな......)


 目の前を人間とともに、犬、爬虫類、牛、鳥のような姿かたちの人達がいきかっている。


(これがリディオラさんのいっていた亜人か...... なるほど、ぼくのこの姿をみても驚かないはずだな。 とはいえ......)


 むしろ他の人達がこちらをみている。


「なんだろう、こちらをみてくる?」


「ケットシーのあなたがめずらしいのですよ」


 そう横にいるリディオラさんがいった。


「そうなんですか? こんなに亜人がいるのに」


「ケットシーは幻の種族といわれてるのです。 わたしも童話やお話でしか聞いたことがありません」


「へー」


「それではまず服を買いましょう」


「あっ」


 ぼくはなにも着ていなかったことに気づいた。 


(は、恥ずかしい...... でも毛でおおわれてて暖かかったから、気にしなかったな)


 リディオラさんについて町を歩き雑貨屋にはいる。


 そこで服の上下とナイフ胸当てと鞄を買ってもらった。


「いいんですか? お金ないですけど......」


「ええ、あなたには命を救われてますから、このくらいは...... ではお城に行きましょう」


「お城に?」


「そう。 まあきてみてください。 詳しいかたがいらっしゃいますので、なにかわかるかもしれません」


(まあ、どうせ行く当てもないし、ついていこう。 まさか捕まる...... まあ、そんなことはないか。 まあ最悪、この身体能力なら逃げられるしな)

 


(ここが城か。 大きいな)


 町の奥にあった大きな城へとはいる。 


(町の人や衛兵の姿からみても、それほど文明は発達していない感じなのに、衛生的だしきれいだな) 


 不思議に思ってキョロキョロと周囲をみていると、衛兵が中央の大きな扉をあけた。


「さあ、こちらに」


 リディオラさんから言われて、奥へとすすむ。 そこには幾人かの家臣たちがいて、中央の大きな椅子に金髪の少女がすわっていた。


(あれって、王女さまか...... すごいかわいいけど、なんか少しつめたそう)


「このものはリディオラ、まさか......」


「ええ、そうにございます。 アシュテアさま」


 その金髪の少女にリディオラさんは答えると、笑顔になるでもなく、アシュテアという少女は淡々としてきいた。


(なんか歓迎されてないのかな? まあ人間じゃないからな)


「......そう、あなたがケットシーなのですね」


「なんかそうみたいです」

 

 ぼくは自嘲気味にいう。


「わかりました。 少しこちらに来てください。 リディオラは下がって」


 そういうと椅子から立ち上がり、ぼくを呼んだ。


「あっ! しかし、アシュテアさま! 彼は」


 リディオラさんはあせるようにいいかける。


「さがりなさい。 リディオラ」


「は、はい」

 

 こちらに申し訳なさそうな顔をしてリディオラさんはひかえた。


(なんだ? リディオラさんが変な顔でこちらをみている)


「こちらに、どうぞ」


 アシュテア王女はそう静かにいうと部屋の外へとむかった。


 ぼくはいわれるまま後について行く。


 通路をでて部屋につくとアシュテア王女は扉を明け、中へと招いた。


「どうぞ」


「は、はい」


 ゆっくりとなかにはいると、部屋のなかをみて驚く。


(ねこ、ねこ、ねこ...... なんだこれは!?)


 そこでみたのは枕やベッドのシーツ、カーテンや机の小物や絵画すべてにネコのデザインがされてあった。


「はぁ、はぁ、まさか、本物がいるなんて...... 願望の魔玉でも手に入ったみたいね」


 異様な寒気を感じて後をみると、あの無表情なアシュテア王女が恍惚の表情で両手をわきわきしていた。


(や、やばい!!)


 そう思った瞬間、ぼくは抱き締められ、ベッドにおし倒された。


「ねこーーー!!!」


「や、やめてぇ!!」


 王女はぼくの体をまさぐり始めた。


「や、やめてください!」


「よいではないか、よいではないか、私はネコが大好きなの! もっともふらせて!」


「やめてーー」


「おやめください! アシュテアさま!」


 扉をあける音がし、リディオラさんが入ってきた。


 ぼくは隙をついて逃げ出し、リディオラさんの後にかくれる。


「ああ...... 私のネコ」


 手を伸ばしてアシュテア王女は名残惜しそうにしている。


「やはり危惧してた通り! まったく、ネコと聞いたら見境のないのだから」


 リディオラさんは深いため息をついた。


「しかたないでしょ、私はネコが好きなのだから、だってまさか念願のケットシーをみることができるなんて!」


 そういってこっちをうっとりとした目でみている。


(全然、さっきと違う! 猫を被っていたのか!)


「あなたならばもしかしたら、何かをご存じかもしれぬから紹介したのです! 失礼のことをせぬように。 あなたは仮にも王女さまなのですよ」


「はーい、わかってるわよ」


 リディオラさんにしかられ、あきれらかになげやりに王女はいった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る