ケットシーの異世界生活

@hajimari

第1話

「あー いい天気だ」


 視界に背の高い草が見える。 ここは草原のようだ。 いつの間にかぼくは寝転んでいて、青い空を見上げていた。


(さて、どうしようか)


 現実逃避をあきらめ、自分の手をみる。 黒いふさふさの毛に覆われていて、指先と手のひらに、何個かのフニフニとした柔らかな肉の丘があった。 そうそれは人の手ではなかった。


(......これ肉球だよね)


 更に顔をさわっても柔らかな毛の感触があり、口元には長くて固い髭らしきものが数本ある。 しかも耳は上にあり、尻尾まである。 


 ぼくは完全に動物のようになっていた。


(クマ、いやネコになってるのか...... いや、確かにネコになりたいとおもったことはあるけど......)


 立ち上がってみる。 前より明らかに視線は低い。 背伸びしないと高い草の外側は見えない。 草の上からは、広々とした草原が風に揺れてるのが見えた。 


「......明らかに体が縮んでいる。 でも普通のネコよりはるかに大きいな。 少学生くらいか...... 二本足でたててる」


(一体なんでこんなことになったんだ?)


 思い出してみたが、よくは思い出せない。 ぼくは猫又 ねこまた とおる、ただの高校生だった。


「名字が猫又...... 変な名前だと思っていたけど、まさかご先祖が妖怪だったのかな?」


(妖怪になってしまったのか、でも猫又なのに尻尾はひとつだ。 なにかしないと...... ただすごく眠いな)


 眠くなり、しばらくしてゆっくり目が開くと、夕陽に照らされていた。


「......完全に寝てた。 この状況で寝られるとは...... ネコのからだのせいかな。 『健全な精神は健全な肉体に宿る』って言った人がいたけど、にゃんこの体にはにゃんこの精神が宿るのかもしれない......」


(それに寝る子からねこってついたって話もあるし...... いやもともと怠惰だっただけかも......)


 ゆっくりと立ち上がる。 


「さあ、本当にどうしようか? 猫又になったけど、ここにいてもな。 お腹もすいた。 あれ、なんだこの感じ......」


 ざわざわする感じで毛がさかだった。 その時、向こうで争うような声がした。


「なんだ? けんかか......」


 草をかき分け進み声のするほうをのぞくと、西洋鎧を来た剣をもつ女の人と、その人と同じぐらいの大きさのカマキリが戦っていた。


(なんだ!? でっかいカマキリとコスプレの人が戦っている? アトラクション? イベントの練習!? いやそんな感じじゃない!)

 

 カマキリと戦っている女性の傷を見れば本物だとわかった。


「くっ!」


 女性の剣をカマキリの前足がからめとり、剣は地面へと放り投げられた。 じりじりとカマキリは女性に近づく。


(あぶない! なんとかしないと......)


 周囲にはなにもない。 


(どうしよう...... 武器。 なにかないか...... あっ、今ネコだ!)


 自分の手をみて力をいれると鋭い爪がでてきた。


(これなら)


 覚悟を決め、カマキリに走って近づく。


(うお! 速い! ネコだからか! これならジャンプも!)


 カマキリがこちらに気付き、鎌のような前足をふるう。 それを飛び越えカマキリの頭上までとんだ。 


「これで!!」


 落ちながら爪をだすと、カマキリの首を爪で引っ掻く。 


「ギィィイ!!」


 そうカマキリが鳴くと、あっさりと首がきれ、地面におちた。 


「うわぁぁ!! 切れた!!」


 首をなくしもがいていたカマキリは、しばらくして動かなくなる。


「ふぅ、死んだのか...... なんなんだこのでかいカマキリは...... 生物が大きくなってるのか? それにしてもすごい切れ味だなこの爪」


 ナイフのような自分の爪をみてみる。


「あなたは......」


 ふいに声をかけられとっさに宙をとんで後に着地した。


「ごめんなさい。 驚かすつもりはなかったんだけど......」


 そういったのは今までカマキリと戦っていた少女だった。


「ああ、こちらこそすみません。 急に話しかけられたから...... って驚かないの!?」


「え? ええ......」


 不思議そうに青い長髪の高校生くらいの少女はいった。


(なんだ? 青い髪、外国の人? 言葉はわかる...... 日本語じゃないのに、ぼくはなぜか話せる......)


「私はリディオラ助かりました。 あなたは」


「あ、ああ、ぼくはとおるです......」


「トールどのですね。 ケットシーなんて始めてみました。 本当にいたとは驚きました」


 そう丁寧に答えた。


「ケットシー?」


「えっ? 違うのかしら?」


 そう不思議そうにリディオラさんはこちらをみている。


(ケットシー、猫又じゃないのか...... とりあえずこのリディオラさんしか今は頼るほかないな)


 ぼくはリディオラさんから、くわしく話を聞きくため、とりあえず記憶がないことにしておいた。

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