王国一の醜女と蔑まれ続けた王女様は、実は世界で一番美しい、前世は偉大な大聖女様でした

神崎水花

1話、世界で一番醜い私

 鏡に映る己の姿に、思わず顔を背けてしまう。

 そこには、王国で一番の醜女しこめさげすまれる、私の姿が写っていました。


 歪んだ顔に潰れた鼻、肌はただれて瞳は汚くにごっている。

 それは、悪しき呪いによって捻じ曲げられてしまった、私の姿。


 私の姿を見た貴族たちは、この醜い私の上っ面だけを見て、嘲笑ちょうしょうし、さげすむの。

 あまりの醜さから、心許し合える友人の一人すらいない私。


「王女殿下は、今日も相変わらずお醜いことで」

 廊下を行くと、ひそひそと侍女たちが、私を侮辱ぶじょくする声が耳に届いてしまう。慣れてはいても、いつもなら少し落ち込んでしまう私だけれど、今日はもっと憂鬱ゆううつな事が待ち受けているから、気にはならなかった。いえ、それどころでは無かったと、言った方が正しいかもしれないわね。

 今から王宮にある、叔父上の執務室へ行かなければならないから。

 

『ルナエレーナ、お前は国を治める器ではない』 

 王であった父上が亡くなってから、叔父上が王代理としてこの国を治める事になったのだけれど、その時に叔父上が私へ向けて放った台詞……。

 男子に恵まれなかった父上は、私を後継にと望んでくれたそうだけれど、私に味方してくれる人は誰もいませんでした。母でさえ、醜い私に会いたがりませんもの。


 叔父上の執務室へ向かう道すがら、徐々に足取りは重く、心は鉛のように沈んでいきます。叔父上に可愛がられる美しい妹、リディアーヌの笑顔が目に浮かび、私の心はさらに暗澹あんたんたる闇に包まれてしまうのです。

「叔父上、まかり越しました。ルナエレーナです」

「はぁ、ルナエレーナ。お前はパーティーで何をしておったのだ」

「何のことでしょうか?」

「隣国から婚約破棄の申し出があったぞ」

「そんな……」

 私は結婚なんて望んでいない。そもそも私を欲しがる人がいない。

 それでも国の役に立てるならと思って、私なりに精一杯おもてなしをしたつもりです。それなのに……。


「化け物と結婚する趣味はない。とお怒りであったそうだ」

 叔父上の言葉が、鋭いナイフのように私の心に突き刺さる。

 隣国の王子の断りの台詞を、直接私に聞かせる必要があるでしょうか。皆まで言う必要がどこにありますか? ただ、断られたで良いでしょう。

 どうして、皆平気で人を傷つけるの? ねえ、どうして?


 こんなにも醜い私は、この世に存在している価値なんてないのかもしれない。

 涙が頬を伝い、床に落ちそうになるのをぐっと堪える私。

 貴方達は知っていますか?

 醜女しこめの涙は、時に相手のあざけりや怒りを誘う事を。

 綺麗な貴方達は知らないでしょう?

 だから我慢をするの。自分を守るために耐え忍ぶのです。

 

「叔父上、私の不徳の致すところです。申し訳ございません」

 私は深々と頭を下げて、叔父上の返事を待ちました。


「ルーナ、お前は……どうしようもないな、はぁ」

 ルーナ、この世界でたった一人。

 私を愛してくれたお父様が、私を呼ぶ時の愛称がルーナなの。

 そんな大事な名を使わないで、その名で呼ばないで。

 貴方なんかが使っていい愛称じゃない。私は心で涙を流す。


 そして思い出すの。

 お父様が、病床で私の手を握りながら言ってくださったを。

「ルーナ、お前のその姿は本当の姿じゃないんだよ。悪しき呪いのせいなんだ。でもその呪いを解く方法がわからない。宮廷魔道士の総力を挙げてもわからないんだ。しばらく我慢してくれるかい?」

「ルーナ、お前は誰よりも美しい心を持っているのを知っているよ?」

「ルーナ、私の可愛い娘……」

「ルーナ、私……」


 呪いのせいで醜いと、お父様に聞いて知っています。

 でもお父様、ごめんなさい。

 本当の私って何でしょうか?

 生まれてからずっと、この姿の私にとっては、これが私です。


 鏡に映る醜い自分の姿が、本当の自分ではないと知ってはいても。

 私をさげすむ皆の声が、あざけりが私を刺すのです。

 慣れたと言っても、悲しまない人間がどこにいますか?

 これが、呪われた私。

 呪われたルナエレーナ。


 叔父上は私に言いました、『お前は国を治める器ではない』と。

 叔父上は私の何を知っているのですか? ただ、私の醜い容姿をもってのみ、器ではないとおっしゃるのでしょう? 見た目とはそんなに大事なものですか?


 今日また、私の心は少し死んでしまいました。


 誰か、私を助けて。

 誰か、私を救ってください。世界で一番醜い私を……。


―――――――――――――――――――――――――――――――――

神崎水花です。

私の3作品目『醜女の前世は大聖女(略)』をお読み下さり、本当にありがとうございます。

少しでも面白い、頑張ってるなと感じていただけましたら、★やフォローにコメントなど、足跡を残してくださると嬉しいです。私にとって、皆様が思うよりも大きな『励み』になっています。


どうか応援よろしくお願いいたします。

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