祖母との死別

七草かなえ

祖母との死別

どうすれば助けられた? と繰り返しこぼれた命は二度と還らず


平常を装いたくて泣き笑いどうか私も連れていって


仕方ない仕方なかったと嘘ぶいて声なき声がせかいを震わす


昭和初期生まれたあなたが旅立ちの日に選んだのは昭和の日


連休は別れのためについやそう覚悟を決めた五月の朝


何もかも早足で進む葬儀前時間よ止まれと虚空を睨む


あの世でも一緒にいてねとささやかにひつぎに納めたひつじのまくら


一人分足りない食卓見回してああ足りないよあなた足りない


葬式は悲しき場にもかかわらず空はあおいろ私を見下ろす


燃え尽きたように黒い礼服で集った親族皆が涙し


花愛し花のように在ったから棺の中も花に埋もれて


「ありがとね」たとえ返事は聞こえずも想いは届くすべてを超えて


蓋を閉めようとしてくずおれた無言で手を振り頭は真っ白


生きるならあなたと共にが良かったと幾人もの心が天を仰ぐ


最愛の人を喪い気づき得る生きることには限りがあると


目覚めたらあなたの声がしたようで夢とうつつを行ったり来たり


納骨を嫌だ嫌だと葛藤し菩提寺ぼだいじ飛び出す四十九日


残された者同士で歩んでく故人はきっとどこか遠くで


在りし日のかほりと共に生きていく次会えるならまたこの街で


亡き人に誇れる私で在りたいとせめて優しく希望を持って

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祖母との死別 七草かなえ @nanakusakanae

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