紫苑の制裁
鳥崎 蒼生
プロローグ
突然、真っ白い空間が目の前に広がる。
頭が真っ白、というわけで訳ではなく、見えている物が白一色だった。
光の色とも違う、ただただ白の世界。
目の前の景色に困惑しながら、次に自分の状態に気がいった。
どうやら、仰向けに横たわっているらしいが、その背面には物体らしきものの感覚はない。
手をついて起き上がろうとするが、宙を搔くだけで何にも当たらない。
浮いている?
とりあえず体を起こそうと、ジタバタしていると、何とか起き上がることができた。
ここは、夢の中なのか?
辺りを見回す。上も横もただ白い。しかし、眼下にだけは色があった。
淡い紫色と緑のコントラスト。
それがひたすら奥へ広がっている。
多分、植物なのだろう。小さな花の集合体が紫の塊を作り、その隙間から葉の緑が見え隠れしている。
少しだけ、ホッとする。
何も色がない空間になぜか不安になっていたからだ。
何とかそこへ降りられないかと考えていると、すっと体が垂直下がっていく。
まるで仕上げ途中の絵の中にいるような情景を見ながら、地上?にたどり着く。
ちゃんと、地に足がついている感覚がある。
上から見えたものはやはり植物だった。意外にも背丈は高く、優に1メートルは超えている。
その先に淡い紫色の小さな花が咲いている。
花弁の形はコスモスにているが、花の大きさはそれよりも小さく、小菊に近い。
これだけ咲いているのに香りはなく、何の動きもない。
そこに咲いているだけ。
ほかに人の気配もなく、無音。
なぜ自分がここにいるのかもわからない。
本当に夢の世界なのかもしれない。
そう思いながら、足を一歩前へ踏み出してみる。
花の茎を踏む感覚はあるが、やはり無音。
花に囲まれたその場所をかき分けながら、少しずつ前へ進んでいく。
だが、風景に変わりはなく、ふと後ろを振り返ると、自分がかき分けてきた跡すらも、何事もなかったかのように元に戻っている。
ドクッドクッドクッ
自分の心音だけが耳に響いてくる。
怖い・・・
急に恐怖心にかられ、何かに追われているわけでもないのに、その場から駆け出した。
大声で叫んでいるはずなのに、自分の声は全く響かない。
声を出している感覚はあるのに、声は自分の耳には届いてこない。
ここにきてようやくパニックになった。
これは夢だ。早く目覚めたい。こんなところにはいたくない。
息が切れ、足がもつれ転んでも、前へ進み続ける。
早く、早く。
時々、後ろを振り返ってもやはり何の変化もなく、もう自分が来た道すらわからない。
誰か、誰かここから出して・・・
言いようのない恐怖で走り続け、わけのわからない状況に足が動かなくなったその時―
目の前の景色が一気に崩れ、足元から地面がなくなり、再び宙になげだされた。
今度は真っ暗な、自分さえも見えなくなるほど漆黒の闇の中へ吸い込まれていく。
そこでようやく意識を手放して、もう何もわからなくなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます