第24話
大広間に戻るため、扉の方へ向かうけれど、最初来た時とは違う扉から入る。あの正面扉は大きいから、そこから入ると目立ってしまう。そのため、普通の扉が用意されている。なので、そこから入るのだけれど……
「あの、恥ずかしいので手を繋ぐの、やめませんか?」
「…………良いですわよ」
おや? すんなりと手を離し、先程までそこにあった柔らかい感触が消える。少しだけ、ほんの少しだけ物寂しく思ってしまう。けれど、そんな雑念を払い、扉を開き、大広間へ入る。
そして、腕を絡まれる。…………??
「えっと、バラン公爵令嬢? 何をしているんですか?」
「もう、これぐらいなら何度もしているでしょう? 先程手を離してあげたのですから、交換条件ですわ!」
「いや、まぁ、何度もしていますが、私の同意は……?」
「必要ないと判断しましたわ!!」
「………そうですか……」
今の私の心境を表すなら、顔文字の「しょぼん」だろう。
何を言っても徒労になるこの感じ……
キラズ様はご機嫌そうな雰囲気を出している。
こっそりと元いた位置に戻る。しかし、キラズ様は腕組みをやめてはくれない。
「そろそろ腕を離しても良いのでは……?」
「キュリズ様は、私と離れたいとお思いなのですか……?」
悲しみを滲ませた声と表情でこちらの顔を伺ってくる。
罪悪感が酷く刺激され、私が悪いかのように錯覚する。思い込まされる。
「ま、まぁ、少しぐらいなら、許します」
キラズ様の演技だと分かっていても、許してしまう。
こんな行動を繰り返すから、キラズ様はどんどん要求を大きくしていくと分かっているのに。
「ん、えへへ……」
キラズ様は、嬉しそうに、綺麗な顔をふにゃりと少しだけ歪め、笑みを溢す。絡まっている私の腕に、猫のように頬擦りをし、甘える仕草をする。
そんな笑顔に、仕草に、私は、目が釘付けになってしまう。目を離せず、じっと見つめ続ける。
「……? どうしましたか、キュリズ様?」
「あっ……いや、なんでもない」
「そうですか?」
危うくキラズ様に勘付かれる所だったけれど、誤魔化せた。けれど、頭の中ではキラズ様さっきまでの行動が繰り返し出てくる。どうにか消し去りたいけれど、消そうと意識するほど鮮明に蘇ってくる。さらには、キスされたことまで。
私自身から求めてしまったことを思い出してしまい、カッと顔が熱くなる。あまりにも恥ずかしく、けれども、甘い思い出として記憶の戸棚に仕舞われてしまっている。
……ダメだな。どんどんキラズ様に埋め尽くされていってるような気がする。心も、体も、全部。
私の当初の目標が崩れ去っている。どうにかして手を打たなきゃいけないけれど、パッと思いつくなら苦労はしていない。
思考の海に潜っていると、どこからともなく音楽が流れてくる。
これは………
「キュリズ様!」
私に呼びかけ、キラキラとした目で手を差し出してくるキラズ様。
えーっと……あぁ。ダンスか。
踊る相手は当然一人しかいない。目の前にいる彼女しか。
できれば参加はしたくない。練習はしたが、完璧というわけでもないし、それにほぼ手遅れかもしれないが、キラズ様との仲が良い事を周りに知らしめたくない。
だからといって、参加を拒否するなんてことも出来ない。第一王子である私がキラズ様の手を跳ね除けでもすれば、王族の恥として火種を生んでしまい、比較的安定している政争が激化してしまう………らしい。
執事のボタンからちょっと聞いただけだから、真偽は分かんないけど………
それでも、外聞が悪くなるのは確定だから、手を取るしかない。選択肢は、元から無かったってわけか。
「ここは、男性である私がエスコートしますよ。バラン公爵令嬢」
差し出された手をそっと押し返し、差し出されていないもう片方の手を取る。
そのままエスコートをし、何故だか真ん中の位置でダンスをすることになる。
主役は真ん中ですかそうですか…………
音楽が一度止まり、再び流れ出す。
それに合わせて、私達も、周りで手を取り合っている人達も、踊りだす。
キラズ様は余裕そうに、優雅に。
私は内心、足を踏まないようにとあたふたしながら。
ダンスはお互い目の前にいる為目が合いやすい。私は、足の方に注意が行っている為、目線は合わない。合わせない。
けれども、目線が交差する。
偶然、偶々、目と目が合う。
一瞬、体の全器官が止まったような気がした。
それほどまでに、彼女の姿は、美しかった。
ああ、認めよう。私は彼女に見惚れてしまった。
私は婚約者と婚約したくありません! 大好きっ子 @Daisukikko
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